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酔いどれクリスマス 02
…何ていうか、いつもと勝手が違うとやはり落ち着かない。
ふと気がつくと、息をつめるようにして相手の動きを見守っている自分がおかしくて笑える。
寝転がって、漂う緊張感に体を硬くして。
なんだかもうどうにでもなれというヤケな気持ちにもなっている。
クラウドの細い指が下着越しに、さっきまでの刺激で既に頭をもたげているザックスの性器をするりと撫でた。
「……っ、」
きわどい触れ方に、ベッドの上に仰向けに寝そべるザックスの頭の下に敷かれていた彼自身の指がぴくりと動いて己の髪を掻いた。口を引き結んで、情けなく漏れそうになった息を殺す。
さっきまでクラウドがザックスに何かをしようとするたびに、クラウドの体に触れてはちょっかいを出していたザックスの指に、クラウドが「動かないで俺に任せて」と怒って、ザックスの両手首をベルトで縛ったのだ。
クラウドが主導権を全面的に握りたいのに、ザックスの手に触れられれば、容易くいつものようにザックスに思う様快楽を与えられる受身のパターンのセックスに流されてしまいそうになるのがクラウドは大いに不満だったらしい。
しかし自由を奪われた手の持って行き場にザックス困った。
とりあえずこの常にないシチュエーションに心が浮き足立つのを少しでも何とかしたくて、自分の頭を抱えるようにして背中を伸ばしたのだが、どうしても自分の体の上にいるクラウドのひとつひとつ動きが気になって仕方がない。
ザックスは早くも「一回だけならいいぜ」なんて言ってしまった己を後悔し始めていた。
クラウドがザックスの膝の辺りに体を動かして、頭を下げる。
伏せられた彼の美しい顔が近づいていく先は、ザックスの…。
「ク、ラ…っ」
クラウドのすんなりと尖った鼻先が、ザックスの下着に触れた。下着越しに口付けられる。桃色の唇が開いて、その形を確かめるように緩くはまれた。
何ていうか…ものすごくクる眺めだった。
今までにクラウドからその行為をしてもらったことがない訳ではないけれど、今夜はそのときとは状況が違う。
クラウドが積極的に動くだなんて、ザックスにとってはそれはもう鼻の下がどこまでも伸びそうなくらいとてもとても嬉しいことなのだが、この後のことを考えると、どんと構えてこの常にない展開を素直に楽しもうなんていう楽観的な気持ちにはどうしてもなれないのだった。
情けないヤツだと笑いたいヤツは笑ってくれてもいい。とにかくそれぐらいザックスにとって、一世一代の覚悟を要求されている今この瞬間なのだと察して欲しい。
内心でわーとかぎゃーとかザックスが騒いでいるうちに、クラウドは着々と行為を進めていた。
ザックスの下着を下ろして中のものを外界にさらす。その手際に迷いはない。
クラウドは目の前に現れたザックスの屹立に手を添えて唇を開いた。
(くくく喰われるーーーっ!!)
クラウドの口の中に実際にそれがおさまる前に、単純にそれを想像して興奮のためにザックスの腰が揺れた。ぐんと性器が膨らんで勢いを増す。クラウドの手の中で跳ねて、クラウドはびっくりしたのか顔を上げてザックスを見た。
顔を真っ赤にして、何とも言えない複雑な顔でザックスがクラウドを見ているのに気がついて、クラウドはザックスを握ったまま、少しはにかむように笑った。
「な、何笑ってんだよ、クラウド…っ」
「だって、なんかおかしい」
「お、おかしいって何が」
認めたくはないが、よほど動揺しているらしい。どもってしまうザックスだった。
「自分を見てるようだなと思って」
クラウドは手の中のものの先端に軽くついばむようなキスをした。
ザックスはごくりと生唾を呑んだ。
クラウドのくせして何てことをするんだと叫びたいのを一歩手前で踏み止まる。
ここは果たして天国か地獄か。
積極的なクラウドは夢のようだけれど。嬉しくないわけではないけれど。
クラウドはザックスに向けて上目遣いに艶然と微笑んだ。
「いつもは俺がしてるんだろう。今のあんたみたいな顔」
「…っ! お、おまえ…っ」
「本当に不思議な感じだ。気のせいかな、あんたが凄くかわいく見える」
「かわいいって何だよクラ…っ、! う…っあ、」
今度こそ本当に喰われた。
と言ってもザックスの自慢のそれはクラウドの口に収めるには少々容量がオーバーらしく、頭を傾けたクラウドは横から唇ではさんで吸い付くようにする。
湿った音が室内に響いた。
(やばい。すっげえめちゃくちゃクる…っ)
いかな言葉を駆使してその感覚を表現しようとしても陳腐でしっくりこないだろうというような、何とも言えない気持ちよさにザックスの頭の中はいっぱいになる。視覚触覚ともに、くる。
恍惚となるこの展開に誘惑されるままに、このまま流されてもいいかなと思う一方、バックヴァージン死守を諦めずに形勢逆転をまだ狙えないだろうかとも考える。
そんなとき、クラウドのもう片方の手がザックス内腿に触れた。
指先がそろそろとザックスの体の中心に向かって這い登っていき、足の付け根にまで移動する。
(えええっ、もうそこ!??)
どうやら悠長に策を練っている場合ではないようだ。
「…ん…っ」
舌で先端に名残惜しそうに吸い付いてから唇を離し、クラウドはザックスの左の膝裏に手をかけて上に持ち上げた。一緒にザックスの腰が上がる。
眼前にあらわになったザックスの股間にクラウドは顔を寄せ、さっきまで手と唇で愛でていたザックスの陰茎の裏に顔を近づけて舌でぞろりと舐め上げる。その下のふたつの珠まで口に含まれては、ザックスはもう声もなかった。
「……っ!」
まさか、だ。
まさかそこまでクラウドがするとは思わなかった。
「……すごい…」
ザックスの股の間からぽつりと声がした。
唾液で濡らされた場所にクラウドの吐息がかかるのに腰がぞくぞくした。
目を閉じて強烈な刺激と衝動をやり過ごそうとしていたザックスは、なんとか目を開けてクラウドの方を見た。
片足だけ折り曲げられ、両腕は両手首を縛られているという不自然な格好は、身体を動かすには少なからず不自由だったが、肩を回して肘を立て、何とかザックスが上半身を起こすと、自分の足の間に金色の髪の毛が見えた。
「…ク…ラウド…?」
すごい、とはザックスの股を指して言った言葉だろうか。
ザックスの膝を掴んでいないほうのクラウドの指が、ふいにザックスの後孔の淵に触れた。正に今、その場所をクラウドは見ているのだろう。
孔の周辺をぐるりと時計回りに、軽く押すような感じで指先が移動していく。けれどその手つきは色っぽい愛撫と言うよりは、何かを確かめるような生真面目で慎重な雰囲気が伝わってきた。
「あー…、もしもしクラウドさーん? あの、ナニがすごいのですかね…?」
「いや…初めて見たから」
「な、何を?」
クラウドの指がついにザックスの孔に潜り込んだ。
ほんの少しだけ沈んで、びっくりしたようにすぐに出ていった。
またクラウドの口から「すごい…」が漏れる。
さすがのザックスも、これにはなれない異物感に身体が緊張して腹筋を波立たせた。
「だからクラウドすごいって何がっ!?」
クラウドにあんな場所をまじまじと見られて、触れられて、まさか指の進入を許す日が来ようとは思ってもいなかった。情けないが涙が出そうだ。ここに来て、一回だけならなんて許したことをはっきりと猛烈に後悔していた。
「…うん、ここってこんな風になってるんだなと思って」
ザックスの気持ちを知ってか知らずか、股の間から呑気な声が返ってくる。
「こんな風ってどんな風!? 俺の尻どっか変か!?」
「え…いや、変かどうかはよくわからないけど」
「お前、そんな色っぽくっていうよりも興味津々て感じでじっと見てるもんだから、すっげえ気になるだろっ」
頬を赤らめてクラウドは眉を跳ね上げた。
「興味しんし…そんな目で見てないっ! 人聞きの悪いことを言うな! 人の股の間なんか近くで見たことないから珍しくてつい見てただけだ!」
「それが興味津々て言うんだよ!」
「ああもううるさい! 先に進む!」
え、先って。
「ぅ、わ、んぎゃっっ」
ほとんどぶつかるような勢いで、クラウドはザックスのその場所に吸い付いた。
クラウドはためらいなく唇を開き、ねっとりと舌を使って孔の淵をなぞり、その中心に舌先を沈めようとする。
ザックスは未知の感覚を探って目を白黒させることしか出来ない。
その口から出る声もまた色っぽさからは程遠かった。大パニックぎょわーだ。
今夜はまさかのクラウドのオンパレード、信じられないことばかりが起きている。
あのクラウドがザックスを抱きたいと言い、自分から進んでフェラチオはするわ、ためらいなく人の尻の穴を舐めるわ、全くアンビリバボーな展開だ。酒を飲みすぎたせいでこんなことになってるというのなら、好きな酒も当分見たくなくなるかもしれないとザックスは真剣に思う。
しかしそういった常なら考えられない彼の言動に、クラウドの今夜にかける本気が見えるのも確かだった。
(やばいやばいやばいったらやべええ! このままだとホントに俺このままクラウドにヤられちゃうっての…!)
この期に及んでもまだ覚悟が定まっていない(というか現実味をいよいよ帯びてきた行為に、ここに来て覚悟がグラグラ揺れだした)ザックスは、情けなくも半分泣きべそをかきながら、ベルトで未だに拘束されている両手を動かしてクラウドの頭をそこから押しやろうとして――あることに気がついた。
ザックスの尻にへばりついているクラウドの左手は、ザックスの孔の淵を拡げるように添えられているが、彼の右手はザックスの性器からはいつの間にか離れていて――膝をついてベッドの上に座っているクラウド自身の後ろに回されていた。
「……ん…」
クラウドは目を瞑って一心不乱にザックスのその場所を愛撫している。
しかし相手のズボンを降ろしていやらしいことを始めたくせに、自身はまだ服をかっちりと着込んだままだった。ズボンの上に巻きつけられた大判のスカートみたいな布切れの下にクラウドは自らの右手を忍ばせ、自分の臀部に触れているようだった。
もどかしげに動くクラウドの手の先で細い腰が揺れている。
布の下に隠されたクラウドの腰の向こう側で、彼の指が何をしてるのかは、直接己の目で確認しなくてもザックスには一目瞭然だった。
決めた。今なら、いける。
たかが一回、されど一回。
ザックスは何が何でも絶対に自分の後ろは死守することに決めた。
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