幸福の檻 25






 顔が、熱い。



 この自分がこんなことでうろたえて醜態をさらすなんて信じられない。
 息をゆっくりと吸う。落ち着け、落ち着くんだ。

 ロイは洗面所に滑り込み、扉を閉めるとその場に座り込んだ。うるさくわめきたてる心臓をなだめようと、胸を服の上から押さえつけた。

 今朝、久し振りにあいつのぬくもりに触れたからだ、と思う。
 だからこんなにも心をかき乱されている。
 弱い自分の心が予期せぬことにぐらつくこともあるけれど、大丈夫だと自分に言い聞かせる。

 決意はまだ、自分の中で生きている。
 決めたのだから、彼のために。



 不意に背中の扉が音を立てた。

「大佐、大丈夫ですか?」
「!」


 ハボックの声にびくりと反射的にロイの身体が揺れた。
 ロイがテーブルを立ったあと、心配してハボックが追ってきたのだ。

「気分が悪いんですか?医者を…」
「気にするな!大丈夫だ、なんでもない!」
「なんでもないって……」

 扉の向こうにもう一人、ヒューズが遅れてやってきたようだった。

「中佐」
「おーい、ロイ。どうしたー?」
「あの、中佐……」
「気にしないでくれ、ヒューズ。本当に、なんでもないんだ。すまない、心配をかけた。少ししたら戻るから……お前たちは食事に戻ってくれ」
「ロイ?」

「すまない、ひとりにしてくれ」

 ロイが発した他人を拒絶するその響きに、二人は次の言葉を続けることができなかった。






 ロイが一人を望んだのと、一向に扉の向こうから出てくる気配がないので、ヒューズとハボックの二人は仕方なくダイニングルームへと戻ってきた。
 食べかけの料理がテーブルの上に乗っているが、食事を再開する気にはなれない。

「どうしたって言うんだ。ロイのヤツ」

 皿に盛られたサラダをなんとなくフォークで突いていたヒューズが呟く。それに答えるようにぼそりとハボックが言った。

「……俺の、せいかもしれません」

 ヒューズが顔を上げると、ハボックはテーブルの前に立ち尽くしたまま、頼りない顔でうつむいている。

「お前のせいってどういう意味だ?」
「俺、大佐がわかりません。今朝だってあの人……、期待させるようなことをして、振り回されてばっかでバカみたいに俺一人で浮いたり沈んだりしてる。ダメだって思っても、じゃあアレは、あの時は?っていろいろ考えて、それって自分にいいように解釈したがってるだけなのかなって……」

 期待?浮き沈み?

「ちょ、ちょっと待てよ少尉」

 何を突然喋りだしたんだ??

 ヒューズは目の前のこの、今にも子供のように泣き出しそうな顔をしている男にびっくりしてフォークを取り落とした。それが皿の上でけたたましい音をたてたが、そんなことに気は回らない。

 なんだというんだ?
 ロイとこの男の間に何かあったのか?
 ……もしかして、ロイの様子がおかしいのはこの男のせいなのか?


「………おい、ハボック少尉。その話、詳しく聞かせてくれ。俺にも分かるように順序だてて話せ」





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20070627up