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桃色ドリーム 4
■何となく頭に入っているといいかも的なんちゃって設定(くどいよね、もういいよね)■
最近クラウドとザックスは恋人同士になりました。あたたかく見守ってください。
二人の事情を知るセフィロスは、時々クラウドの相談相手に(以下略)
アンジールとジェネシスも登場して、なかよし平和なソルジャーズ。任務?なにそれ。
「――昨夜、寝る前までは二人とも何も変化はなかったのだな」
「ああ、いつもと変わんなかった」
ザックスはそう答えながら窓辺に寄っていって、下部に繊細な装飾の入った淡色のカーテンをおもむろに掴むとそれを勢いよく引っ張った。べりりと派手な音がしてレールからカーテンが離れる。透かさず部屋の主の冷静なつっこみが入った。
「人の部屋で何をしているんだ、お前は」
セフィロスが向けた冷たい視線にもザックスは全く気にする様子もなく、今やただの布切れとなってしまったカーテンを手にして、ソファの横に落ち着きのない様子でちょこんと立っているクラウドの前に近づいた。そしてカーテンの端と端を持って広げると、彼の身体をそれで包むように肩からかけてやる。
クラウドが無言のまま困惑顔でザックスを見上げた。
「かぶってろ。今のお前、じろじろ見られたくない。俺が我慢できない」
ソファに座ってそれを見ていたジェネシスが微笑んだ。
「誰にも見られたくないとは、随分と独占欲の強い恋人だな」
ローテーブルを挟んで対の二人がけのソファが部屋の中央に配置されている応接室のような様相のリビングルーム。同じ建物内であってもザックスとクラウドが住んでいる部屋のつくりとは違い、スペースを贅沢に配したハイクラスの匂いがぷんぷんする部屋だった。詳しくは分からないが置いてある家具も高級品の気配がする。しかし綺麗に整いすぎていて、生活感の欠けるモデルルームのような部屋とも言えるかもしれない。
その部屋に現在五人の人間がいた。
ジェネシスひとりがカップを片手にソファに優雅に座り、窓辺に胸の前で筋肉隆々の腕を組んだアンジールが、クラウドに近い位置、ジェネシスの対面のソファの背の後ろ側にセフィロスが立っていた。
カーテンに包まれたクラウドは俯いた。
ザックスの言葉にじわりと瞼が熱くなった。自分が人に見せられないようなみっともない姿なのだと思ったら居た堪れない気持ちになる。ここまでたどり着くのに同じ宿舎に住む同僚何人かとすれ違った。彼らにそんな自分を見せてしまったことを申し訳ないとさえ思った。ザックスは女性の姿になってもかっこいいし美人だけれど自分は…さっきここに来る前に洗面所で一瞬だけ自分の顔を見たけれど、確かになんか変な顔だったし…。
クラウドは今すぐこの場から消えてしまいたいような気持ちになって凄く落ち込んだ。けれど実際にすぐ消えるなんてことは出来ない。どうしようもなくてカーテンをきつく身体に巻きつけ、その場にしゃがみこんで小さく丸まった。
「どうした、クラウド?」
同じように傍らの彼も腰をかがめたのか、慌てた風のザックスの声が追いかけてくる。
「どっか痛いのか? 気分悪い?」
そんなんじゃない。クラウドは声もなくふるふると首を横に振った。
「ならどうした?」
心配そうなザックスの声。
「……っ…」
喉の奥がつまったようになっていて、なかなかうまく声にならなかった。
みっともない自分なんて、もう放っておいて欲しいのに。
けれどザックスの手が肩を抱き、労わる様に何度も撫でてくれる。
クラウドが自分の気持ちを整理できなくて言葉につまってしまったとき、ザックスはいつもこうやって辛抱強くクラウドの言葉を待ってくれる。そしてクラウドはいつもそんな彼のおかげで時間がかかっても自分を落ち着かせることが出来るのだった。
何か言葉にしなくては、とクラウドは焦る。
「カーテンなんかにくるまれて、気分を害したんだろう」
「薄着で長いこといたから身体を冷やしたか」
アンジールとジェネシスは見当違いなことを言っている。
抱えこんだ膝小僧に頬がくっつくくらい身体を縮めたクラウドは、それらを否定したくてもう一度首を振り、やっとのことで言葉を紡いだ。
「…ごめ…なさい。俺…」
「? 何謝ってんだよ」
「…みっともない格好…みんなに見せちゃって……」
「みっともないって…え? な…何、なにクラウド、突然何言い出すんだ??」
「…変なもん見せたから…。俺の格好が見れるもんじゃないって、そういう意味だろ…」
がりがりの薄っぺらい身体、確かに性別は逆転しているのに全然どこにも女の子らしさの主張がない容姿だ。ザックスみたいにせめて胸が出ていればいいのに、クラウドの胸はシャツの上からではほとんど膨らみが分からないくらいのぺたんこな状態で…中途半端で本当に面白みのない姿だと自分でもクラウドは思う。
恥ずかしくて、他人の視界に入るのも申し訳ない気持ちで、ここに来たことを今更ながら後悔していた。早く病院に駆け込めばよかった…。
「ち、違うって! そうじゃなくて、全然クラウドはみっともなくなんてないし! つまりその…お前超かわいいから俺心配で…ていうかさっきジェネシスが言ったとおり、たんに俺の独占欲っていうか…」
「…?」
クラウドはザックスの言いたいことが理解できなくてそろりと顔を上げた。
「だ、だってなあ、さっきから、ほら、アンジールが!」
ザックスはばっと窓辺のアンジールを振り向いた。唐突に名前を呼ばれたアンジールは、広い肩を面白いくらいにびくりと揺らした。その場にいる皆の視線が急に自分に向いて動揺したらしく、目が泳いだ。
どんなに強大なモンスターを前にしても、いかな窮地に追い込まれようと常に冷静さを失わず事に当たる彼のそんな慌てた様子を見たことがある者は、そうはいないだろう。思い切り挙動不審だ。
「な、なんだザックス」
「さっきからあいつ、クラウドのことじろじろ見てるんだぜ。感じ悪いっての」
「じろじろって…いや、俺はそんなつもりは…」
慌てて言い訳するアンジールにジェネシスが追い打ちをかける。
クラウドの姿を見たときから、確かにアンジールは落ち着きのない様子でちらちらと彼に視線を送っていた。当のクラウド本人は全然気づいていなかったのだが。
「そうだな。確かにこの子は清楚で儚げでかわいらしくてお前が好みそうなタイプの子だ」
「え、そ、そんなことは…っ」
セフィロスも冷静に頷いている。
「お前、先日理想の人になかなか出会えなくてと嘆いていたが、案外近くにいたのだな。灯台もと暗し、か」
「せ、セフィロス、お前まで何を言い出すんだっ。この子は今はこんな姿でも、ほ、ほ本当は男の子だぞ! 理想の人とか、恋愛対象になる以前の問題だ!」
「お前はそういうところは頑固なまでに保守的だよな」
「わわ、悪いか! とにかく俺は…っ」
どもりまくるアンジールにザックスがぼそりと呟く。
「でもオンナノコなクラウドはアンジールの超ストライクゾーンなんだろ」
「ああ、そうだとも!」
熊のようないかつい図体をしていても、年齢はそれなりでも意外と恋愛については奥手なアンジールは、頭が少々テンパッている勢いのまま、誘導されるように叫んでしまっていた。拳を固めて堂々と。口に出してしまった後、はっと顔色を変える。
「…あ…、いや…、い、今のは……」
やっぱりな…とザックスが眉間に皺を寄せる。それから腕を伸ばしてカーテンの上からクラウドの背中を抱き、自分の身体を寄せた。
「言っとくけど」
クラウドの耳のすぐ横でザックスの声がした。
密着したふたりの身体、そのザックスの胸の豊満なふくらみがクラウドの目と鼻の先に近づいた。さっきザックスの寝室でも見たけれど、やっぱり見慣れないそれにクラウドは動揺して急いでザックスから離れようとした。けれどそれよりも先に首の後ろをザックスの手で掴まれて更に引っ張りあげられる。
「何があってもこいつは、絶対俺のだから。言わなくても分かってると思うけど」
ザックスが言葉を紡ぐたびに唇から漏れる彼の呼気が、鼻先に、唇に当たって。
クラウドは嫌な予感がした。 近すぎる、と思った。
まさか、と自分の予感を疑う。
だってこんな人の見ている場所で。まさかそんなこと、するわけがない。
けれど、そのまさかをやってのけるのもまた彼なのだということをすっかり失念していた。
避ける暇もなかった。
ザックスの頭が少し右に傾く。近すぎてぼやける視界、一瞬の素早い動き。
唇に触れる。重なる。
クラウドは目を見開くことしか出来なかった。
思考が追いついていなくても、反射的に背筋がビクリと跳ねた。クラウドの反応をザックスは読んでいたのか、彼の身体を逃がさないように両腕で拘束して、重ねた唇を更に深くあわせる。
「…ん、…ぅん…っ」
逃げるクラウドの舌を追いかけて深くまで入り込んでくる。
息も奪われるくらいそうして情熱的に求められているうちに、段々とクラウドは目の前のザックスしか見えなくなってきた。巧みなキスに頭の中がジンと痺れて、その気持ちのいい感覚に夢中になる。うっかりなことに。
人前だということはすこんと頭から抜け落ち、目の前の身体にしがみついて必死になってザックスに応えた。
発熱を始めた身体は、勝手にその先を期待しだす。
ほんのちょっとだけ女の子を主張している胸の先っぽや腰の奥深いところが、はしたなくもむずむずした。それをどうにかしてくれるのはザックスだけだとクラウドは知っている。我慢できずクラウドが自分から身体をすり寄せたら、ザックスは分かっていると言う風に少し嬉しそうに笑って、細い腰に手を回してしっかり抱き締めると、クラウドの胸に自分の胸を押し付けた。ザックスの硬く立ち上がっていた胸の粒は、服の上からでもクラウドの身体に生々しい感触を与えた。
少しでもくっついていたくてクラウドはザックスの膝の上に足を乗り上げて自分からも抱きつく。
頬に触れる長い黒髪は見知らぬ誰かのもののように余所余所しかったけれど、なめらかで健康的な肌に押し当てた鼻先が感じたのは、確かに嗅ぎ慣れた愛しい人のものと同じ匂いだった。
「…ックス……」
「お前はどんな格好だってかわいいよ」
「…ほんと…に…? 変じゃない…?」
「全然。堅物のアンジールを瞬時でフラフラさせるぐらいに、すっげえかわいんだって」
「…ザックスが変じゃないって言ってくれるなら、いい…」
「かわいいよ、愛してる。お前は? 俺がこんな格好で嫌いになったか?」
「そんなこと、あるわけ、ない。ザックスはザックスだから」
「だろ? 俺も同じだ。男とか女とか関係ないだろ。今回はそのことがよく分かったんじゃないのか」
「…でも、俺がこんな格好になったことで、やっぱり女のほうがいいかもってあんたも思い直すんじゃないかって――」
「なあクラウド、お前さ、俺が今まで何回お前抱いたと思ってるんだ」
「…え? な、何いきなり…っ」
ザックスは頬を赤らめるクラウドの瑞々しいさくらんぼのようにかわいい唇を軽くついばんだ。
「何度お前に愛してるって言った? 数え切れないくらいだ。仮に俺が何かの気の迷いや好奇心で最初はお前と付き合いだしたとしてもだ。それから今日までこんなに長いこと一緒にいたら、幾らなんでも目が覚めてる頃だと思うぜ。やっぱり女がいいって言うんなら、とっくにお前と別れてる」
「…長いのか短いのかなんてそんなの、俺には分からないよ」
「俺さ、結構性欲は強いほうだと思うんだよな」
「…せ、せいよく…?」
「そこそこ強いかなって思ってたけど、お前とするようになって、何だか自分でもびっくりするくらいで、何かお前といると際限なくムラムラして困るんだよな。いつも我慢してセーブしてるけど」
ザックスの我慢の言葉にちょっとびっくりするクラウドだった。
いつもザックスにいいように言い含められて、あるいはザックスの下手に甘えた態度にクラウドが渋々折れてベッドの中に引きずり込まれるのだ。恋人に求められることはクラウドも満更ではないが、日頃あまり行為に積極的ではないクラウドからしてみれば、今日は別にしたくないなあという日もあるにはあるのだ。
クラウドはザックス以外の人間と付き合ったことがないから、普通の恋人同士がどうとか比べられないのだが、一緒に過ごせる夜はほぼ毎晩彼とセックスをしているような、そんな印象がある。挿入の有無や回数に差があるとしてもだ。…ザックスが我慢していると言っているのは、そういう意味でだろうか。本当は毎回みっちり濃いフルコースで行きたいとか、そういう意味で? だとしたらちょっと怖すぎるとクラウドは思う。クラウドにしてみれば今の状態でもいっぱいいっぱいなのだ。体力がないせいか…?
「今度試してみようか、セーブしないでお前抱いたら、どうなるかって。お前ん中全部俺でいっぱいで、俺しかなくなるくらいきっと抱けるよ。抱き殺しそう。つまり俺はどうしようもなくお前にヤられちまってるってことだ」
赤裸々で、熱い告白にクラウドは耳まで真っ赤になった。
「……っ」
「ああ、でもお互いちゃんと元の姿に戻ってからだな。女じゃ俺の自慢のあそこも勃たねえし、ていうか影も形もないし」
「っ! ばかザックス! 余計なこと言うなっ!」
「さっき、お前イヤがってたけど、せっかくなんだし、機会があれば女の格好でもお前と愛し合っておきたいなとか思うのって、ダメかな?」
「……」
「滅多に出来ない体験だぜ?」
そりゃそうだろう。
「…だって俺どうせ胸ないし…」
「ちっちゃくてもかわいいってさっき見て知ってる」
「……」
「丸ごと、全部、お前を愛したい」
「……」
さっきからもうずっと桜色だった頬で、上目遣いにザックスを見上げるクラウドのその表情は悩殺的にかわいらしかった。ザックス的には、勃つものがあったら即行でそういう状態になるだろう取って置きの恋人の仕草だ。
「クラウドからは俺を欲しがってくれねえの? 俺の一方通行?」
「…んなこと、ない…俺だって…」
クラウドの顔が泣きそうに歪んだ。力いっぱいぎゅうぎゅう目の前の身体にしがみつく。ザックスもクラウドを受け止めて金色の繊細な髪の毛を指の腹で愛おしげに撫でた。
「じゃあ問題ないな。愛してる、クラウド」
「……うん、俺も」
恋人達のちょっとした行き違いはとりあえず無事に解決したようだ。
「お前たち、気は済んだか」
「周りが見えていない困った子達だ。見目麗しいふたりが絡んでいると絵にはなるが」
セフィロスとジェネシスは大人の余裕なのか、目の前で繰り広げられた二人だけの世界を見せられても顔色ひとつ変えていなかった。ジェネシスなどは微笑みながらコーヒーを口に運んでいる。
ただひとりアンジールだけは、部屋の隅の壁に向かってうずくまり、耳を塞いでいた。その口からはお経を唱えるような低い声が漏れている。
「…俺は何も聞いていない。聞こえない。空耳だ。ありえん…いまどきの若いヤツは信じられん、あけっぴろげ過ぎる…勘弁してくれブツブツ…」
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