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桃色ドリーム 5
■何となく頭に(中略)なんちゃって設定■
最近クラウドとザックスは恋人同士になりました。あたたかく見守ってください。
セフィロスは、すぐにぐるぐるするクラウドの相談相手に(以下略)
アンジールとジェネシスも登場して、なかよし平和なソルジャーズ。任務?なにそれ。食べられる?
原因が何もないのに二人の姿が変わるはずがない、ということでとりあえずクラウドとザックスは昨日の自分たちの行動を振り返ることにした。
どっかりとソファに腰掛けたザックスの横で、身体に巻きつけたカーテンから顔だけを出してちょこんとクラウドは座っていた。セフィロスやアンジールが腰を下ろしていないのに自分が…と最初クラウドは遠慮していたが、ザックスに無理矢理引っ張られ、やむなく座ることになった。
女の格好だということをザックスは余り気にしていないのか、いつもと変わらない様子で足を広げてふんぞり返って座っている。スカートを穿いている訳じゃないからいいのかもしれないが、クラウドには何となくそれが変に気になってしまって、自分は足をちゃんと揃えて座っていた。
それにしても…とクラウドは改めて思う。
みんなの見ている前でさっき自分たちはとんでもないことを仕出かしてしまった、と。
抱きついたりキスしたり愛の告白をしたり…穴があったら入りたい。恥ずかしすぎる。
本当に…なぜか途中からソルジャー三人の存在はクラウドの頭の中からすこーんと抜け落ちてしまい、すっかり忘れてしまっていたのだ。
目の前のザックスしか見えなくなってしまって、あんなことを…。凄く後悔している。ザックスはきっとそんなことなど全然気にしていなくて、自分のしたいことを信念をもって堂堂と出来る彼のことだから、みんなに見せつけてやるみたいな気持ちでクラウドに仕掛けてきたのだろうけれど。たちの悪いことに。
「どこまでさかのぼればいい? 俺、昨日の昼間はフツーにミッションに参加してたぜ。遅くまでかかっちまって部屋に帰れたのは深夜だった。クラウドは?」
「え…と、俺はいつもどおりで、ザックスから帰り遅くなるってメールがあったから、会社を出た後、外で軽くごはん食べてから帰って…」
「えっ、また外食したのかお前。冷蔵庫の中に作ったやつあるって言っただろ。レンジでチンするだけでいいって」
「…だってお気に入りの店で、食べたい新作のホットドッグあったから…」
気まずそうに視線をそらすクラウドに、ザックスは額に手を当てて溜息をついた。
「あー、やっぱりお前ひとりにするとダメだわ。俺が見てやらねえと」
俺がいないと、みたいなザックスの言い方が引っかかる。ザックスがいなければクラウドはひとりで何も出来ないと思われるのは悔しい。
「…っ、なんだよ、たまにはいいだろ」
「身体に悪いって言ってんだ」
「ザックスだってジャンク食べるくせに、なんで俺はダメなんだよ」
脱線し始めた二人にセフィロスが割って入った。
「分かった、今度ホットドッグを食べるときは二人一緒に食べること。それでいいな」
ザックスが何となく腑に落ちない顔でセフィロスを振り向いたが、少し考えた後で唸りながら頷いた。憧れの人の前で、子供っぽい言い合いをしてしまったことにクラウドは恥ずかしくなって俯いた。
「話を元に戻すぞ。二人とも同時にその姿になっているということは、何か共通する出来事があったはずだ。ザックスの帰りが遅かったのなら二人の接点は昨夜中にはなかったのか?」
窓に寄りかかりながら、今はもう冷静な自分を取り戻したアンジールが言った。
彼の両目の上にはタオルが巻かれていて視界が奪われている状態だ。
クラウドを見るアンジールの目がなんか気に入らねえと言いがかりをつけるザックスが、目隠しにと巻いたのだ。いつもお世話になっている人に何てことをするんだとクラウドは止めたが、アンジール本人からしても、とりあえず今はクラウドの姿を見ないほうが自分の心臓にはよいし、落ち着けると思ったので、ザックスの所業に抵抗しないでおいた。
気を取り直し、昨日の自分の行動を思い出しながらクラウドはぽつぽつと喋り始める。
「…俺は帰ってシャワーを浴びて、次の日の準備をしてから寝ました。ザックスの顔を見たのは今朝になってからで、トイレで自分の身体の変化に気がついて、びっくりしてザックスの寝室に駆け込んで…」
そこでジェネシスが口を挟んだ。
「寝室は別々なのか?」
恋人同士で一緒の部屋に住んでいるのに寝室が別というのを意外に思ったらしい。
これにはザックスが口をへの字に曲げた。言いたいことがあるらしい。
「俺は一緒にしたいんだけど、こいつがなー。まあ、互いに仕事の時間が不規則だし、睡眠の邪魔すんのもなんだと思うけどさ。けどなー」
「……時間合ったときは、一緒に寝てる…」
クラウドは寝室のことで文句を言われるのは本当に不本意そうだった。
このことについては、同居する前にちゃんと二人で話し合って決めたことだ。
「疲れて遅く帰ってきたときにさー、何も起きて待ってろとか言ってんじゃねえよ。けど『ただいま』って俺がクラウドのかわいい寝顔見させてもらって、同じベッドに潜り込むのって別にアリだよな? 逆にクラウドが遅れて入ってくんのも俺は全然問題ないし、一緒にいられるんだったら出来るだけくっついてたいって思うのおかしくねえよな?」
「…っ、いつもザックスと一緒にいると俺全然自分のこと出来ないんだよ!? プライバシーのプの字もないんだよ?!」
「いつもっていうか、寝るときは一緒がいいって俺は言ってんだ。お前だけの部屋は別にあってもいいんだよ、プライベートは幾らでもその部屋で満喫すればいい。でも寝室は一緒がいいって言ってんの」
「だ、だって、ザックスいつも傍にいると俺のこと構いたがるし、過剰すぎてずっと一緒だと疲れるし…っ」
「つ…疲れる!? 俺と一緒だと疲れるとか言ったかお前!? 睡眠を邪魔されたくないとか言ってたあれは嘘か!?」
「う、嘘じゃない! ただ本当にザックスといると俺…俺…っ」
クラウドにしてみれば珍しく声を荒げたザックスとの応酬に、感情が高ぶりすぎたのか、彼の顔は紅潮して目許が潤んでいた。
じわりと俯いたクラウドの口から今にも消え入りそうな声がこぼれる。
「…すぐ流されちゃうし、我慢…できなくなるから…」
「我慢て、何のだよ」
疲れてイライラしてザックスといるのが我慢できなくなるとか言うのだろうか。
「……言ったらザックス呆れる…」
「言わないと分からねぇだろ」
「………だから…俺…、ザックスと一緒にいるとおかしくなるから…」
「おかしく?」
「………だって…」
クラウドはそこで顔を上げてセフィロスやジェネシスたちを一瞬だけ見、慌ててまたすぐに俯いた。さっき以上に耳たぶまで白い肌が真っ赤に染まっている。
「クラウド?」
ザックスにはクラウドの言いたいことがこれっぽっちも分からなかった。
クラウドは目をぎゅっと瞑って首をふるふると横に振った。
「言えな…っ、やっぱりダメ…っ」
「え…何? 何だよ」
ここまで引っ張られると、気になって仕方がなくなってくる。
「…みんなの前じゃ恥ずかしくて言えない…っ」
「………」
呆れる、おかしくなる、恥ずかしくてみんなの前じゃ言えないこと。
クラウドは何が言いたいのだろう。
ザックスは少しの間のあと、おもむろに立ち上がり、クラウドの前に立つと腰を屈め、カーテンごとクラウドの身体をひょいと腕に抱き上げた。何の前置きもないザックスのアクションに、びっくりしたクラウドは言葉もない。
ザックスは横向きにクラウドを自分の胸の前に抱きながら、くるりとセフィロス達に振り返った。
「ちょっと待っててくれ。隣の部屋借りる。すぐ戻る」
「え…、な、ザック…っ?!」
「続きは俺たちの問題を解決してからだ。中断な」
先輩ソルジャーたちの返事も待たずに、ザックスはすたすたと歩き出した。
女の姿になっていても、クラウドを抱き上げて歩く程度の筋力は健在らしい。
「…またお前は勝手に…」
セフィロスが密かに溜息をつく。
それに気づいたクラウドは慌てた。あの神羅の英雄に溜息をつかせるなんて、なんてことだと思う。
「ま…待ってザックス! 何のつもりだよ…っ」
しかし暴れるクラウドを楽々と押さえ込み、ザックスは部屋から出て行く。
二人の背を見送りながらジェネシスは微笑んだ。
「別にさっきのように俺たちの前で愛を囁きあっても一向に構わないんだが」
お前ら隣の部屋で何するつもりだーっ、という目隠し男の焦った叫び声が間髪いれずにそれに続いたのだった。
乱暴だとも丁寧だともいえないようなザックスの手で、クラウドは柔らかい物の上に下ろされた。クラウドはバランスを崩して後ろに倒れそうになったが、咄嗟に出した右手で辛うじて身体を支えた。その拍子に身体に巻きつけていたカーテンが、肩から滑ってぱさりと落ちる。右の手のひらが感じるのは柔らかくて乾いた布の感触だった。
辺りを見回し、ようやくクラウドはザックスに連れてこられたその場所を知った。
ザックスがクラウドを下ろしたのはセミダブルベッドの上――そう、二人がいるのはベッド、サイドテーブル、クローゼット以外には何もないがらんとした部屋、誰が見ても寝室だと分かる――セフィロスの寝室だった。
(うわっ、こ、こここ、ここセフィロスさんの寝室!? うそうそうそっ!)
わー、わー!と筋金入りのセフィロスファンなクラウドが、目の前のザックスのことなど一瞬で忘れてきょろきょろそわそわしだすのを見て、ザックスは長い黒髪の中に指を突っ込んでぐしゃぐしゃと掻き回しながら肩を落として溜息をついた。
「あー…失敗したー。書斎だと思って入った部屋がよりにもよって寝室かよ…」
ザックスはセフィロスの部屋を今まで数回訪れたことがあったが、通されたのは当然リビングルームのソファまでだった。階数は違えど、同じ建物内だから間取りはクラウドとザックスが住んでいる部屋と大して変わらないだろうと踏んで選んだドアだったが、ザックスが書斎だと予想して入った部屋は見事に外れた。
再びクラウドを見れば、なんと、クラウドはベッドに突っ伏してシーツにゴロゴロと懐いている。
「な、何やってんだよクラウド!?」
「だって、これ、セフィロスさんの匂い…!」
一見変態さんぽい様子で、すーはー寝具の匂いを吸い込んでいるクラウドをザックスは涙目になりながらシーツから引き剥がし、自分もベッドの上に乗って胸に彼を抱き締めた。意図的ではなかったが、ぼいんぼいんな自分の胸にクラウドの顔を押し付ける。
「んなの嗅ぐな! あいつきっともう、おっさん臭出てる、鼻曲がるぞ!」
ザックスの胸の谷間にクラウドの小さな頭は、めり込んだ。
セフィロスから加齢臭…当人に聞かれたら即刻ザックスは彼の愛刀・正宗の錆にされるかもしれない。
「ザ…っ苦しいバカ…!」
「ほら俺のほうが絶対いい匂い!」
「はなせ…っ、あんたの匂いなんて飽きるほど嗅いでもう覚えてるし、いいんだよ! 別に今じゃなくたってあんたのならいつでも嗅げるしっ」
「……え」
「ばか、息できな…っ」
クラウドがザックスの背中やら脇腹を両拳でぽんぽん叩いてかわいらしく抗議する。
ザックスは視線を落として、胸に抱き締めたクラウドのつむじをぽかんと見つめた。今、なにやら凄いことを聞いたような気がする。
「…俺の匂い、覚えてくれてるんだ、クラウド」
「あれだけ一緒にいるのに、覚えないほうがおかしい!」
「…俺の匂い、好き?」
まさかクラウドの口からこんなことが聞けるとは。
嬉しくてザックスは顔がほころんでしまう。
「だからなんで今更そんなこと聞かれなきゃならないんだっ。ホント苦しいから離して…っ」
「好き? 俺はクラウドの匂い、好きだよ」
「……っ」
「クラウド」
ザックスが抱き締める腕の力をゆるめると、クラウドは少しだけ体を離してそろりと視線を上げた。拗ねたように少しだけ唇を尖らせている。
「………嫌いじゃ、ない…けど」
「どんな匂い?」
「…どんなって…」
「教えて、クラウド」
こんなことを聞いたらクラウドが困るだろうことは分かっていたが、聞いてみる。だって困った顔も凄くかわいいのだ。
ザックスがじっとクラウドの目を見つめて根気強くクラウドの答えを待っていると、観念したのか、クラウドはしばらくしてからぽつぽつと喋りだした。
「………嗅ぐと、落ち着かない気持ちになって困る…におい…」
「どんな風に?」
「…だから…その……さっきしてた寝室の話にも繋がるかも知れないけど…」
「それが俺と一緒に寝たくない理由なのか?」
「別にっ、一緒に寝たくないわけじゃないっ! 睡眠の邪魔されたくないとか、嘘じゃないけど本当の理由でもなくて、だから…っ」
「うん」
「…だから、あんたの匂い嗅ぐと我慢できなくなるから、ザックスもきっと困るし、イヤだと思うんだ…」
「さっきも言ってたな。我慢できなくなるって何が? 俺が困るって何」
クラウドは泣きそうな表情で唇を噛んだ。
また俯いてしまったクラウドの顔を追いかけて、ザックスは更に背を屈めて下からクラウドの顔を覗く。前にかかってしまっている髪の毛を指先で横に流し、頬を優しく何度も撫でた。クラウドは頑なに視線をあわせようとしない。
「…近すぎると…今だってどきどきしてるし…あんたのせいだ…」
「? クラウド?」
「…っ、だから…っ!」
不意にクラウドが顔を上げ、目の前のザックスの首に飛びつくようにして両腕を回した。そのままザックスに体重を預けてくる。いかに小柄なクラウドといえども、勢いがよすぎてザックスはバランスを崩し、クラウドに押し倒される形でベッドの上に転がってしまった。
ザックスの身体の上に乗っかったクラウドは、ぎゅうぎゅうしがみついてくる。
ザックスは、えっちのとき以外にこんなに積極的にくっついてくるクラウドは初めてのような気がして、一瞬これは果たして本当に現実だろうかと疑ってしまった。
勿論凄く嬉しい。クラウドから初めてのハグハグ記念日。カレンダーに書き込んで忘れないようにしたいと思うぐらいに。
「…クラウド…」
ザックスのスイッチが入った。
重なる身体の細い腰に手を這わせ、なぞる。
手のひらの下で愛しい人は小さく震えた。
首元にかかった吐息にはじんわりと甘さが滲んでいる。
もう何度も抱いた身体だ。分からないはずがない。
「お前…」
熱が伝わってくる。気持ちまで流れ込んでくるような。
「ザックス…ぅ」
こんなクラウド、夢じゃないんだろうか。
調子に乗ってザックスはクラウドの薄い尻を掴み、それから際どい内股の近くを撫でた。いつもなら恥ずかしがって嫌がるクラウドが、何も言わないどころか、甘えるように足を開いて腰を押し付けたことに驚いた。
今のクラウドの様子、今までの話の流れから考えると、つまりこれって。
「…俺の匂い嗅ぐと、したくなっちゃう、とか…?」
「………」
「そうなのか、クラウド?」
だから寝室を別にしたい?
傍らにザックスがいると落ち着かない気分になって、我慢できなくて、欲情しておかしくなるから、恥ずかしい…とクラウドは言いたいんだろうか。
だとしたら、そんなこと。
「何言ってんだよ、クラウド。そんなの全然気にすることじゃないだろ」
「…だって、そんな俺、自分でもいや…」
「いやらしい自分が、いや?」
「…うん。ザックス呆れるよ…」
際限なく求めすぎるかもしれない自分が怖いと言う。
「お前、俺のことまだまだ全然分かってねえな。ああもう、俺なんかお前の姿見ただけでいつだって所構わずムラムラしちゃうくらいお前にヤられちまってんだぞ。お前と俺からおんなじ匂いがするようになるくらい一緒にいて、くっついてたいぐらいなんだ」
「…おんなじ匂いに、してくれてもいいよ」
俺を、ザックスのにおいに、して。
ずどんと胸を射抜かれた。
ザックスはたまらなくなって、クラウドの腰を掴むとぐるりと体勢を入れ替えた。
どうしよう。もみくちゃにしたいくらい愛しくて仕方がない。
淡い菫色のシーツの上に金色の長い髪が広がった。朝方の空に幾つも星が流れたみたいだった。
記憶の中の見慣れた彼のものより柔らかいラインを描く薔薇色の頬、いつもより大きめに見える薄青の瞳は潤んでいて、うっとりとした表情でザックスを見上げる。
こんな素晴らしい据え膳を拒める男が(今は女だというつっこみはナシで)いったい世界のどこにいるというんだろう。
「クラウド!」
「わ…っ」
抱き締めてクラウドの顔中にキスの嵐を送る。
今日は目が覚めたら女になっていたという変わった一日の始まりだった。
クラウドはセフィロスのところに逃げ込むし、アンジールはかわいくなりすぎた乙女クラウドを変な目で見てるし。
何の厄日だと思ったが、クラウドの本音や真実を知ることができたのはある意味ラッキーかもしれないとザックスは思う。クラウドは本当に期待を裏切らない。かわいくて仕方がない。
音を立ててキスをして、自分をどうしようもなくでれでれにさせる言葉ばかりを吐くクラウドの唇の表面を舌で舐めた。それから顎、首、最後に鎖骨のくぼみまで舌と唇を当てて次々に舐める。くすぐったそうにクラウドが肩をすくめて、目の前のザックスの服を握り締めた。
「お前の全部舐めて、触って、俺のにおいをしみ込ませてやるよ」
「う…うん」
「大好きだ、クラウド」
「…いやらしい俺でもいいの…?」
「大歓迎、それぐらいが丁度いい。てか俺はどうすんだよ。あんましつこいと俺の方がお前に嫌われるんじゃないかって、時々気にしてんだけど」
「…それがザックスだって思ってるから」
「お前俺を甘やかしすぎだ」
「…だって、そんなザックスのことを俺…す、好きになったんだし」
「クラウド…!」
互いに求めるものが一致していれば進む先も一つ。
姿が女になっている非常事態だろうが、ここがセフィロスの寝室だろうが、隣室に泣く子も黙るソルジャー三人様がいようが、バカップル(…)にはそんなことはどうでもよいことなのだった。
世界に入ってしまって周りが見えなくなってしまったふたり。これ、ついさっきのいちゃつきと同じパターンだよねぇと言わないで欲しい。
先程と違うのは邪魔な第三者の視線が存在しないという点だが、その代わり『耳』が存在しているということに二人は気づいていなかった。
壁に耳アリ。
ザックスがクラウドのシャツを腹の上まで捲り上げたのと同時位に、部屋のドアが音を立てて開いた。その向こう側で大柄の男がみっともなく倒れこんでいる。そのすぐ後ろには銀糸の髪と赤コートの男が、偶然今通りがかりましたとでも言うように、涼しい顔をして立っていた。
…そこで何をしていらっしゃるのでしょうか、三人とも。
三人に気がついて、流石にクラウドとザックスは固まってしまった。
床に転がっていたアンジールが腰をさすりながら起き上がった。
「おい、何するんだ」
押したのは誰だと背後の二人に向かってアンジールが小声でぼやく。目隠しをしている彼は、寝室のドアが開いてしまったことにどうやらまだ気付いていないようだ。
セフィロスがわざとらしく咳払いをした。
「アンジール、盗み聞きとは感心しないな」
「な…?」
ジェネシスも続く。
「お前、二人のことが気になるのは分かるが、恋人たちの囁きをこっそり聞こうだなんて、趣味がいいとは言えないぞ」
「な、何だと!?」
何、何言ってんだお前たち!? ま、まさか…!?
アンジールがやっと現状を把握したのか慌てだす。挙動不審に右に左に頭を動かし、視覚の代わりに背後の二人と寝室内の二人の気配を必死に探っている。そのいかつい顎の上、筋の通った鼻の下にツツー…と赤い筋が落ちた。
ザックスはクラウドに向かって「邪魔入っちゃったから、また後でな」と軽く唇にキスをしてから身体を起こし、本当に残念そうに溜息をついた。
クラウドは、またしても場所も状況も忘れて流されそうになってしまった自分が恥ずかしくて仕方がなくて、手で顔を覆って身体を丸めた。穴があったら入りたい…。
「セフィロス、ジェネシス、お前たちだって一緒に…っ」
「何を言うんだ。俺たちが盗み聞きなどするわけがないだろう。なあ、ジェネシス」
「ああ、そうだともセフィロス。アンジールは硬派な顔をして意外にむっつりだよな」
「お前ら…っ、裏切り者っ!!」
ベッドの上に胡坐をかいて座ったザックスは呆れ顔だ。ドアの向こうの先輩ソルジャー三人からクラウドの姿がなるべく見えない位置に自分の身体を動かしたのは、意図的にだろう。
「…アンジールは清純派好きのむっつり…よぉく覚えとく。…どうでもいいけど、それ、鼻血拭いたほうがいいと思うぜ」
「…うっ!!」
…そんなに興奮したんですね、アンジールさん。
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