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桃色ドリーム 3
■何となく頭に入っているといいかな的なんちゃって設定(くどい)■
最近クラウドとザックスは恋人同士になりました。二人のこと、あたたかく見守ってください。
二人の事情を知るセフィロスは、時々クラウドの相談相手に(以下略)
アンジールとジェネシスも登場して、なかよし平和なソルジャーズ。
「クラウド、どこだっ!?」
一同が通された部屋には誰もいなかった。
ソファの前のテーブルの上に、まだ湯気がふわふわと立つ二つのカップが乗っているのに気がついて、ザックスはついさっきまでクラウドがセフィロスと一緒にここにいたのだと察した。
隣の部屋にでもクラウドは逃げ込んだのだろうか。
ザックスはすぐさま奥にあったドアに視線を転じ、そちらに向かおうとした。するとそのドアの前にすっとセフィロスが立ちふさがった。人の気配をセンサーが察知してドアが自動で開いたが、セフィロスが邪魔でザックスからは部屋の中はほとんど見えなかった。
ザックスはセフィロスの顔を睨みあげた。
「…なんだよ。そこどけって」
「嫌だと言ったら?」
「っ! 向こうにクラウドいるんだろ! 何の真似だセフィロス、邪魔すんなっ!」
セフィロスはきゃんきゃん吠える後輩に余裕の笑みを見せてから、ゆっくりと視線を外し、自分の背後に向けて声をかけた。
「…と、これは言っているが、どうするクラウド」
すると、部屋の向こう側から小さく力ないものだったが、ザックスにとっては聞き間違えようもない愛しい恋人の声が聞こえてきた。
「…会いたく…ないです…」
案外近くから声がするので、ドアのすぐ横にクラウドはいるのかもしれない。
「クラウド!?」
セフィロスは微かに肩をすくめてザックスを再度見下ろした。
「会いたくないそうだが」
「クラウド、怒ってんのか? ごめん、さっきの…そんなに怒ると思わなくて…っ。悪かった、謝るから、だから顔を見せてくれ…!」
「……」
クラウドから返答はない。
痺れを切らしてザックスは尚も言葉を重ねた。
「さっきはホント悪ふざけが過ぎたよな、反省してる。お前がすっごくかわいかったから…」
そこまで言って、クラウドが先程やたらと「女」にこだわっていたことを思い出す。
「別にお前が女の格好だからかわいいとかそんなん言ってんじゃねえぞ? お前はどんな姿だって俺にはかわいいし愛しいんだ」
「……胸とか…、男の俺にはないものに嬉しそうにしてたじゃないか…」
顔は見えないけれど、クラウドの声がちゃんと返ってきた事に、ザックスはほっとした。
「それはお前の胸だからに決まってんだろ!」
「でもやっぱりザックスは、ない胸よりちょっとでもあるほうがいいんだろ! 俺さっきのでよーく分かったんだ! だからこんな格好でザックスの前に出たくない!」
「言ってることがわかんねえっての! 格好がどうだってお前はお前だ! 俺の好きな、世界で一番大好きなクラウドに変わりはねぇだろが!」
「分かってるよ、分かってるけど…っ」
「クラウド、とにかく顔見せてくれ! こっち出て来い、頼むから…!」
クラウドとザックスの間にセフィロスが挟まってごちゃごちゃやっていたその頃、ジェネシスは勝手知ったるなんとやらといった感じで、キッチンの戸棚からカップを二つ取り出し、コーヒーを注ぐとそのひとつをアンジールに手渡してからソファに座って飲み始めた。 神羅の英雄に向かって吠えているザックスの後姿を楽しそうに目を細めて眺めている。アンジールは渡されたカップのことになど気がまわらないのか、まだ呆然とした面持ちだ。彼女がザックスだという事実にまだ半信半疑なのだろう。
コーヒーの芳ばしいにおいを楽しんでから、ジェネシスは傍らに突っ立ったままのアンジールを見上げた。
「おい、アンジール。クラウドというのは誰か知っているか?」
「あ…ああ。うちの一般兵でザックスの恋人だ」
「会ったことはあるのか」
「何度かある。この間わざわざあいつに紹介されたからな」
「どんな子だ」
「どんなって…だから一般兵で確か十五歳位の…そうだな、目が大きくて印象的な…」
「ふぅん…それで今までの話を聞く限り、その子も性別が逆転しているということだな」
ジェネシスは何を思ったのかひとつ頷くと、セフィロスの向こう側のクラウドに向かって声をかけた。
「クラウド、もしよければこちらに出てきてくれないか」
それにセフィロスが少し尖った声を返した。
「ジェネシス」
「いいじゃないか。悪いようにはしない。出にくいのなら、そこにいるザックスを部屋から追い出してやってもいいぞ」
がばりと眉を吊り上げたザックスが振り向いた。
「ジェネシス! 部外者は引っ込んでてくれよ!」
「おやおや。こちらの美女は口が悪いな」
「面白がってるだけだろあんたっ」
「お前たちが無視するから、わざわざこちらから輪の中に入ろうと努力しているのに。なあ、アンジール」
「え、お、俺に振るな」
「…あ…あの……」
か細い声とともに、金色の髪がふわりとセフィロスの背後から覗いた。
ザックスが背後の先輩ソルジャーふたりに気を取られている間に、クラウドはいつの間にかセフィロスの背中にくっつくように移動したらしい。
恐る恐るといった風に、ひょこりとセフィロスの後ろからちょっとだけ顔を出した。
「クラウド!」
クラウドの姿を認めてすぐに飛びつこうとしたザックスを、セフィロスは腕を上げてクラウドをかばうようにしてその動きを牽制した。ザックスと目があった途端にびくりと身体を揺らしたクラウドは、セフィロスの腕にしがみつくようにして、さっと体ごとセフィロスの後ろに逃げてしまう。しかしセフィロスの足の向こうには、隠れきれていないむき出しの細くて白い足が見えた。
「クラウド、俺と帰ろう?」
ザックスはクラウドに向かって両手を広げた。
「…帰って…どうするつもり…。俺は…」
「別にどうもしねぇよ。こんなとこにお前を置いときたくないだけだ」
「…俺はあんたといたくない…」
「いたくないって…おい、一体何なんだよクラウド。あんまり聞き分けのないことばっか言ってると引きずり出すぞ!」
「…っ」
クラウドはぎゅうっと目を瞑った。
無理矢理だとか力ずくだとか、ザックスにそういった無体な仕打ちをされたことは今まで一度もなかったが、今は言葉の端々にザックスの怒りや苛立ちが見て取れた。想いを寄せている相手のそういった負の感情に触れれば、クラウドとて心が怯えてしまう。セフィロスの服にしがみつく指に力が入り、クラウドの足はすくんだ。
ザックスにしてみれば、なぜクラウドがそこまで機嫌を悪くしているのか、己を拒絶するのかが分からなくて苛苛していた。
自分ではクラウドの格好が女だからって特別それを喜んだつもりはないし(まあ確かに今朝は少し悪ふざけが過ぎたかも知れないが、あれは愛情を交換し合うコミュニケーションなんじゃないだろうか)女という性別にこだわってのことでは決してない。相手がクラウドだったからだと断言できる。
ザックスは基本的にいかなる状況にも柔軟に対処し、その時その時に順応して楽しもうとするタイプなので、よく言えば何事も気楽に挑めるのだった。だから今朝だって、これどうするよ的な変身ぶりには確かに動揺はしたが、ある部分では滅多にないだろうこの状況を楽しく思ってもいたのだった。
しかし真面目で神経質な嫌いがあるクラウドは、今回のことをかなり深刻に受け止めたのかもしれない…、そう考えると今朝のは少し失敗したのかもなあとザックスは思った。
それにクラウドがセフィロスの後ろに張り付いているのも気に入らなかった。
一歩前に出てもう一度クラウドに話しかけようとしたそのとき、とん、とザックスの肩に黒いグローブに包まれた大きな手が置かれた。
「―――おい」
その低い声にザックスが振り向けば、眉間に皺を寄せたアンジールが立っていた。
「なんだよアンジール、邪魔すん――」
ぐいと肩を引かれ、ザックスはバランスを崩して二、三歩後ろによろめいた。
「な、何するんだよっ」
アンジールは厳しい顔で首を横に振った。
「力に訴えるのはよくないぞ、ザックス」
口ではもっともらしいことを言っているが、なぜかアンジールの視線はセフィロスの向こう側にチラチラと注がれている。
ジェネシスもその横にやってきて、セフィロスの後ろを覗き込んだ。
「出ておいでクラウド、大丈夫だから」
「……」
他ならぬ上司の言うことならば無視するわけにはいかない。
クラウドはしばらくの逡巡の後、そろりと顔を出したのだった。
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