桃色ドリーム






■どうでもいいけど頭に入ってるといいかな的なんちゃって設定■
クラウドとザックスは同じ部屋に住んでいるけど寝室は別、でも最近恋人同士になりました。
二人の事情やいきさつを知っているセフィロスは、よくクラウドの相談に乗ったりしています。







「ザックス、どうしよう!? 起きたら俺…っ」
「おー、お前もか、クラウド」
「…っ!? え、ええええ!? ざ、ザックス!?」

 うららかな朝の光が注ぐ春の朝、ザックスの寝室に飛び込んだクラウドは目を丸くした。
 ベッドの上に身体を起こしていたのは確かにザックスだったが、その姿に思わず口がぽかんと開いてしまう。
 艶やかな黒髪は、ほんの少しでも動いたならばさりと音がしそうなほど背中に長く垂れていた。
 脱いだシャツがベッドのすぐ近くの床に落ちていた。全裸だった。
 クラウドが見慣れた逞しい筋肉に覆われた彼の身体のラインではなく、そこにあったのは曲線を描く柔らかなライン。
 ザックスが腕を動かすと、身体の中央で豊満な胸がぷるるんと弾んだ。
 そう、明らかにそれは女の―――

「む、胸っ、その胸…っ!?」
「なんか起きたらこんなんなっててさー」
 ザックスは笑いながら自分の両胸を手でもんでいる。
 クラウドの顔が真っ赤になった。
 今まで女性に縁がないクラウドには(この先も永遠に縁なんてないっての/ザックス談)免疫のない異性の裸体を前にして動揺せずにはいられないのだった。
 口をパクパクさせているクラウドに(でもちゃっかりザックスの胸に目は釘付けだったりする)ザックスはおいでおいでと手招きした。
 けれど側に寄ってこないクラウドに、ザックスは手を伸ばして無理矢理ベッドの上に引っ張り上げた。
 小さな体を自分の腕で囲い後ろから抱き込む。膝の上に座らせた。
「お前はあんまり違和感ねえな」
 ザックスは目の前のゆるくウェーブのかかった長い金色の髪の毛に鼻先をうずめた。
 細い手足、頼りない身体。
 クラウドも今、ザックス同様昨夜までと違う性の、柔らかな身体なのだった。
「ザックス、やだ、背中に、当たる…っ」
 離れようとする細い身体を引きとめ、ザックスは笑った。わざと裸の胸をクラウドの背中に押し付けているのだから、はなすわけがなかった。
「な…なんでこんなことになってるの、俺たち…?」
 目覚めたら身体が女になってるなんて、意味が分からない。夢の続きを見ているようだ。
「さあな…? なんか昨日変なもん食ったかな」
「落ち着き過ぎだってザックス! ど、どうしよう、これ…っ」
「んー」
 ザックスの手がシャツの下を探り、指先がクラウドの腹をするりと撫でた。
「ひゃっ、な、何す…」
 前に回した片腕でクラウドの身体を固定しながら、もう片方の手はシャツの下を探る。指先は簡単に目的地にたどり着いた。
 小さな、二つのふくらみ。
 控えめなそれを手のひらですくい、その頂で微かに存在を主張している突起を軽く撫でる。
 クラウドの身体が緊張してビクリと震えた。
「ざ、ザックス…っ」
「かーわいいなあ。クラウドのおっぱい」
「へ、変態っ! ちょ、触らないでよっ、やだ…っ」
「変態はひどいなあ。男の子でも女の子でも、クラウドはあんまかわんねぇな。ちょーかわいい。これ、自分で見てみた?」
 これ、と言ってザックスに胸をもまれ、クラウドは俯いて唇を噛み締めた。かわいそうなくらい顔が真っ赤だ。
「…見てない」
「何で?」
「…だって……」
「じゃあ下は?」
「し…下って……」
 胸をいじっていたザックスの手がクラウドの股間に移動しようとするのをクラウドはいち早く察して、それよりも早く、若干開き気味だった両足を素早く閉じて、不埒なザックスの手の侵入を阻止した。
 クラウドの背後でザックスのちょっとがっかりした気配がした。
「…さっき、トイレに行って…それで何かいつもと勝手が違うって…気づいたから…」
「ああ、それで身体が変だって気がついたのか? 確かにこんくらいの胸の膨らみじゃあ、俺みたいに朝置きた途端に『なんじゃこりゃあ』みたいには気づかねえか」
「わ、悪かったな! ちっちゃくて!!」
 クラウドがそこにムキになるのが正しい反応かどうかは微妙だ。
「あの…ザックス、本当に放して。真面目に今後のこと考えようよ。これ誰が考えてもおかしいし非常事態だよ。病院行った方がいいのかな…こんなんじゃ困るし…」
 クラウドが何とかザックスの腕の中から抜け出そうとして身をよじっていると、不意にザックスの身体が離れた。それと同時に腕を引かれる。え、と思う間もなく視界がぐるりと回転して、気がつけばクラウドはベッドの上に転がされていた。
 寝室の天井とクラウドの間ににっこりと笑うザックスの顔が入り込んだ。長い黒髪がその背から流れ、クラウドの顔の上に落ちてくる。
 ぎしり、とベッドのスプリングの軋む音がした。
「病院行く前に、俺が診てやるよ」
「……え?」
 クラウドの身体の上にまたがったザックスは、おもむろにシャツの裾に手をかけ、胸の上の辺りまで思い切りそれを引き上げた。
 寝転んでいるためにさらに控えめになってしまった丸い二つの膨らみが外気にさらされた。びっくりしてクラウドは悲鳴を上げた。
 白い身体は性別が変わっても以前と変わらず。平たくて薄っぺらい身体のラインは、どちらかというと女の子の色気よりも少年らしさを主張しているような気がするが、腰の細さ、全体的に柔らかくなった体つきは確かに女性をあらわすものだった。
「は…はなして、ザックス。み、見ないでそんなの…っ」
「何だよ今更だろ。いつも見てるじゃん」
「だ、だって今俺…ていうか、なんかあんた目がやらしいからヤダ…!」
「失礼な。まあ俺がヤラシイのは今に始まったことじゃねえよな。特にこーんなかわいいクラウドを前にするとなぁ」
 ザックスは嬉しそうにそう言うと、クラウドの胸を無遠慮にむにゅりと触った。
「触るなバカバカっ」
「ふむふむ、こんなにちっちゃいけどちゃーんと柔らかいな。こら、暴れんな。確かめてるだけだろ」
「別に確かめなくてもいいっ、やだ、そんな風に触るな…っ」
「下も見てやるな」
「何言ってんだよ、離せ、やだっ、や…っ」
 ザックスの手がサイズの合っていないぶかぶかの下着を掴む。クラウドは半ば悲鳴のような声で叫んだ。
「そっ、それ以上なんかしたら別れるからなっ! 絶交してやる!!」
 ぴたりとザックスの動きが止まった。
 クラウドの下着に降りていたザックスの視線がゆっくりと移動して、探るような様子でクラウドの顔を見る。
 ふたりの視線が合った。
 クラウドは半泣きでたたみかけるように続けた。
「本気だからな! それ以上、何かしたら、あんたとは別れる! 絶対別れる!」
 ザックスがふにゃりと情けない顔になった。
「…別に、そんな嫌がることでもないじゃんか。お前の股なんか何度だって見てんだし、今更…」
「やっぱり…やっぱり女の方がいいんだっ」
 叫んだ拍子にクラウドのまなじりに溜まっていた涙が溢れて流れ落ちた。切りかえされた会話の方向が掴めなくてザックスはますます困惑した。クラウドは悔しそうに、悲しそうに唇を噛み締めている。
「クラウド…? なに…」
「俺の身体が今、女の身体だからって喜んでんだろ。やっぱりそうなんだってよく分かった。ザックスが女の人好きだって分かってたけど…俺が今こんな身体になってて、ザックスは嬉しいかもしれないけど俺は…っ」
「ちょ、ちょお待てクラウド。な、何言ってんの」
「俺と別れてガールフレンドと仲良くすればいいんだっ」
「待て待て、ストップ。別れるとかガールフレンドとか何言ってんだ。俺は別に…」
「俺は女の姿なんかで、あんたに抱かれたくないっ!!!」
「っ!?」
 思わぬ力がザックスを後方へと押しやった。不意打ちのようにクラウドが身体全体を使ってザックスを押しのけたのだった。小さな体は自由を取り戻すと素早い動きでベッドから飛び降りる。そのまま寝室の扉をくぐり、真っ直ぐ足早に玄関に向かった。ザックスは態勢を立て直すと慌ててその背を追った。
「クラウドっ、待て! 何言ってんだ、今そここだわるところか!? 俺だって今女だし…っ」
 クラウドは歩をゆるめることなく、その身体は玄関のドアをくぐり、その向こう側へと出て行ってしまう。
 ザックスが慌てている理由は、こじれたまま今どこかにクラウドを行かせてしまう訳にはいかないということと、それ以上に―――
 ハーフパンツから伸びた細くて白い足、華奢な足首、折れそうな細い首と豊かに流れる金色の髪、こぼれそうに魅力的な大きな瞳に薔薇色の唇。
 そんな容姿のクラウドを男所帯なこのソルジャー宿舎の建物内に放てばどんなことになるか―――という心配だった。
 誰かに見られたりでもしたら――というかザックスは今のクラウドの姿を誰にも見せたくなかった。
「駄目だ待てよ、おいっ」
 ザックスはクラウドの後を追って大股で玄関をくぐった。
 しかし運が悪いというか…ザックスの大声に、ドアを出て左手数十メートル先のエレベーターホールに偶然立っていた2ndの同僚がこちらを驚いて振り向いた。彼は呆然とした顔だ。その視線はクラウドにではなくザックスを見ている。
 ……そう、全裸の女性が廊下にいるのだからそれは誰だって驚くだろう。遅まきながらそのことに考えが至ったザックスは、部屋に戻って何か着るべきかどうか一瞬迷った。その僅かな逡巡がクラウドを逃がしてしまう結果になった。
 エレベーターを待っていた男を押しのけるようにしてクラウドは丁度そのとき到着したエレベーターに乗り込み、そのまま行ってしまった。
「くそっ」
 結局裸のままエレベーター前までザックスは走ったが、クラウドを引き止めるには間に合わず、ザックスは歯噛みした。ザックスは何がなんだか状況が全く呑み込めていないだろう同僚の横でエレベーターの行く先を報せる表示板を確認する。それは階上を示していた。
 ならば―――クラウドの行く先はあそこしかない。

 彼の、神羅の英雄の、部屋。









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