おはようの時間



どうする!?
どうしたらいい!?
ていうか俺なんでこんなにどきどきしてんだ。焦ってるんだ。
だって。
だって目が覚めたら。
横に、俺の隣にぴったりとクラウドが。
体くっつけて寝てたりするもんだから仕方ないだろう!
仕方ないよな!?

俺の腕にクラウドの腕が、体が触れていて、体温がじんわりと伝わってくる。

えええええ。これどういうシチュエーション?!
ああ、確かに昨日の夜はふたりで遅くまで同じベッドの上でだらだら話してて、そのまま落ちるようにいつの間にか寝ちゃったけれど。
だからといって、なんでこいつが俺にくっついて寝てるんだか、全然わからない!

「………ん…」

そうこうしているうちに、パニクってる俺の心中を知る由もなく、身体を丸めているクラウドが、もぞりと動いた。

起きる?起きちゃうかおまえ。
そしたらこの状況、おまえはどういう風に感じるんだろう?
びっくりするかな。うろたえたりするのかな?
俺はもう心臓が口から出そうなくらいドキドキしてるんだけど。
ていうか待て。
なんで俺そんなに動揺してんだっての。
トモダチ…、トモダチが隣で寝てるだけだろう。
いやむしろガールフレンドがくっついて寝てたりするほうがこんなに慌てないんじゃないだろうか。あれ…?あれれ?
クラウドだから?
クラウドだから俺焦ってんのか?
なんで???

「……。あ、さ…?」

ぽつりと隣から声がした。

やばい。マジでクラウド起きた。起きちゃった!
俺の脇腹の辺りで衣擦れの音がする。たぶん起きぬけの重たい瞼をこすっているのだろう。
けれど、う…、動けない。
なにこの嫌な汗。もしかしてすっげえ俺緊張してる…?

「…ックス…」

妙にかすれた色っぽい声(俺にはそう聞こえた!)でクラウドが俺の名前を呼ぶ。
俺は仕方なくぎくしゃくしながらちょっとだけ頭を動かし、クラウドに顔を向けた。

「お…おはよ。クラウド。お、起きたか…?」

心臓が喉元までせり上がってきてるような…笑顔絶対引きつってるって俺。
クラウドがまだぼんやりとした目をぱちくりと瞬く。

「…おはようザックス。どうしたの?なんか…顔、へん」

へん。
変ですか、俺の顔。ああやっぱり!
でもクラウドさん、クラウドさんも、俺にくっついて寝ていることに気づいてマスカ?
これがまたとんでもなくヘンですから…!

「あ…、もうこんな時間なんだ」

俺の横でクラウドが身じろぐ。でも離れようとはしない。なんでだ。まだ気づいてないからか。

「クラ…」

へっくしょん!

「…」
え…、くしゃみ?
そして小さく鼻をすする音が続く。

「ぅあ…、やっぱり予報通り今朝はちょっと冷えてるみたいだね。ザックスは寒くな…、うん?あれ?」

あ。
空気が変わった。
のほほんムードがぴきっと引き締まる。
クラウド、気付いた、かもしんない。

「そ、そだな。俺もちょっと寒い、かも…」

おまえがくっついてるから身体半分はあったかいけど、という言葉は喉の奥に飲み込む。
うわあああ。俺おまえがこの後どういう態度を取るのか容易に想像がつくよ。

「え…お、俺、なななななんで!?うわ、ご、ごめ…っ!」

やっぱり…。
気づいたら驚くよな。俺もそうだったし。
でも、あれだ。とりあえず落ち着こう。俺もおまえも。な?

俺は身体を離そうとするクラウドの背中に手を回して、落ち着かせるようにとんとんと叩く。

「いいから。寒いからくっついとけって」
「え、ええっ、でも…っ」
「たぶん寒かったからさ、無意識にでも暖を求めて俺にくっついてきたんだろ。俺もこうしてるとあったかいし」
「う…、で、でもこれって…っ」

まあおまえの言いたいことは分かる。
素肌で触れてるとこからぬくぬくな体温が伝わってくる。
俺もちょっと照れくさいっつうか…、や、でも知らない仲でもないんだしさ。これくらい別にどうってこと…うん、どうってこと……。

「…ザックス、でも、あの、寒いんだったら俺なんかとくっついてるより、上に何か着たほうが絶対いいと思うんだ…けど…」

あわあわしながらクラウドが俺の顔を見上げている。

確かに。
昨夜は風呂から上がったあと、ちょっと暑く感じたこともあって、下だけ着て過ごしていて、そのまま結局俺は寝てしまったのだった。自室だったし、トモダチと一緒だったからリラックスムード満点だった。

ちょっとくらい寒くても朝まで寝ちゃうくらいにはまあ…ていうか、クラウドがくっついていてあったかかったからこの時間まで起きなくてすんだのかも。
…これは内緒だけど、俺もやっぱり寒かったらしく、目が覚めたとき、クラウドの体を抱き寄せるようにして右腕を彼の腰にまわしていたし…。
つまり、あれだ。
お互いさま、ということだ。

「…ザックス…?聞いてる…?」
「え?あ、ああ」

ん?今何かクラウドしゃべってたか?

「…もう、聞いてないじゃないか。見てるこっちのほうが寒いって言ったの!」

と言うなりクラウドが俺の腕からもぞもぞと抜け出した。
離れたらやっぱり寒くなるし、なんだかそのことに寂しさを覚えつつ、俺も起きるかなと思ったところで、クラウドが意外な行動に出た。
俺は驚いたなんてもんじゃなかった。