は?
な、なに。
え、ちょ…っ。

「く、クラウド…!?」
「ソルジャーだからっておなか冷やさないってことはないだろ。気をつけなきゃ」

とかなんとか言いながらクラウドが俺の上に、体の上に乗り上げてきたのだ。

「ほら、やっぱり体冷えてる」

クラウドの白い手のひらが俺の胸の中心にぺたりと触れる。
それから俺の上になんと寝そべった。寝そべりやがった!

び…びっくりしたなんてもんじゃねええ!
突然なにすんだコイツ!
身体くっつけて寝てたってだけで今さっき盛大に取り乱してたヤツが、大胆すぎる。信じられねえ…!

「く…クラウド…っ」

クラウドの足が俺の足の上をすべってからむ。
少し照れつつも、真っ直ぐな視線で俺の顔を覗き込む。

「やっぱり俺じゃブランケット代わりにはならないと思う」
「お、おい…あのさ、クラウド…」
「なにザックス」
「えと…あの」

小首を傾げるクラウドがなんだかむしょうにかわいく見える。なんかどきどきする。
…なんだこれ。
確かにクラウドはかわいいと思うけど、だけど男で…そうだ、男だろ。
なのに何このときめき。

季節のせいとは言え、薄着なのも考えもんだ。
密着した身体から互いのぬくもりだとか肌の弾力までも感じられるみたいで、妙に意識してしまう。
や…だからクラウドは男なんだって!

…ああでも男だけど……。

俺が落ち着きなくぐるぐるして、言いよどんでいるのをどう受け取ったのか、クラウドが眉を少し寄せた。

「あ、ごめん、俺重い?」

身体をずらして降りようとするクラウドを、俺はなぜか彼の腰を手で押さえて引き止めていた。
女の子のように身体が軽いとまでは言わない。背丈の割にしっかりとした重みがあるのは、やはり兵士として日々鍛えているからなのだろう。
その重みを逃がしたくないって思っている自分がいる。

「平気。…おまえ、ちょっとしたことですぐに恥ずかしがるくせに、妙なとこで大胆だよな。天然のなせる技か」
「え?」

友達だから。相手が俺だから。
変に意識していないからこそこんなことが出来るんだろう。
俺だってそうだった。
……少なくともさっきまでは。

「…なあ、クラウド」
「ザックス…?」
「身体が冷えたとき、こうやって誰かとぴったりくっついてるのもいいと思うんだけど、もっと効率的で互いが速効あったまる方法があるんだ。試してみるか?」
「…?それって…」

俺はきょとんとしているクラウドの首に腕をまわして自分の方に引き寄せた。
深い考えがあっての行動ではなかった。
ただ思いついて、そうしたくなったから、としか答えられそうにない。本能のおもむくまま、といったところか。
先のことなんて全然考えてなかった。

目を大きく見開いたクラウドに顔を寄せる。
唇が触れ合う。
びくりと腕の中でクラウドの身体が震えた。
でも離してやらない。
少しかさついた唇の表面を舐め、驚いて固まっているらしいクラウドを宥めながら根気強くほどいた。柔らかい感触。
唇のあわせの隙間からクラウドの甘い声が漏れる。
それに興奮している自分がいる。
やめられるはずがなかった。

「…ん、んん…っ」

クラウドの拳が俺の胸を叩く。
そんな仕草さえもかわいらしく感じてしまう。

十分にクラウドの唇や咥内を堪能した後、やっと俺は離してやった。
とたんにクラウドの口が堰を切ったように動き出す。

「な…っ、何するんだよザックス!」
「何って、キス」
「分かってるよそんなこと!だからなんで俺に…っ」
「誘ったのはおまえだし」
「はあ!?誘うって、俺が!?いつ!?」
「おまえ腰とかホント細いよなあ」

暴れ出しそうな勢いのクラウドの腰を両手でホールドする。

「ばか、触るな…、あ、やあ…っ」
「おまえかわいい、やべえ、なにこれ」
「な、なに言って…、……っ!!!!」

そのままクラウドの身体をまさぐっていた俺の手が、きわどいところをかすめたそのとき。

「!」

がこん!

「っ痛ぁっ!」

クラウドの容赦のない拳が俺の顎にクリーンヒットした。
危うく舌を噛むところだった。危ねえ。

「いい加減にしろ…っ!」
「ふぁい…」

あ、涙目で顔を真っ赤にしてこっちを睨むクラウドもかわいい。…なんて思ってる俺は、相当頭がやられているかもしれない。
寝起きの呆けた頭のせいだと思いたいが、このチョコボ頭の年下の友人のかわいさに今更ながら気づいて、それはまるでぼやけていた視界が一気にクリアになったような心地だった。なんだかすっきりとして胸の奥のつかえが取れたような爽快さも感じる。

ああ、なんか俺、こいつがとっても愛しく思えて仕方がないみたい。
心ん中がほんのりとあったかくなると同時に、目の前のこいつに手をのばしたいっていう欲しがる気持ちが生まれてきている。

「…でも身体、あったかくなっただろ?」
「そ、それは…」

赤く染まった頬に桜色に色づいた唇。
俺と同様に、キスで心拍数の上がったクラウドは身の内から自ら熱を上げたはずだ。

俺は手を伸ばしてクラウドの顔にかかる金色の髪に指を差し入れた。
今度は何をする気だと警戒しつつもクラウドは俺から目を逸らさない。クラウドのそういう気質を俺は気に入っている。
自分でも口の端が緩むのがわかった。
俺は経験から知っている。
こういうときの自分の心の動きようを。
今自分が抱いているその欲求が、どんな気持ちへと繋がっているのかを。

でもクラウドは…どう思っているのかな。それは気になる。
俺とキスして顔を真っ赤にしているけれど、もともとこいつはそういうことに免疫がないっぽいからなあ。

まあ、でも…。

「…そうだな、でももう少しだけ、ついでにつきあってもらおっかな」
「付き合うって、え…、ちょ、何…」

再び唇を奪った。
目の前の誘惑には勝てない。

「んー!んんんー…っ!」
「…ん、クラ…」

キスが気持ちいい。
もっと。
…もっと、もっとしたい。
深く。
入りたい。踏み込みたい。奥に、深くに。

夢中になる。

トモダチ相手に、男相手になにやってんだろうって思うけど、その相手がクラウドだからと考えれば、なぜか妙な納得もする。

溢れそうなくらい今心を満たしているのは、かわいい、いとしい、かまいたい。
気持ちが止まらない。

もっと。
もっと欲しい。感じたい。

盛大に動揺しているんだろうクラウドの、口の奥で縮こまっている舌を絡めとる。
手のひらでシャツの上から体のラインをたどり、細い腰に自分の腰を押し付ける。
抱き心地は悪くない。素肌にも触れてみたいという欲求がわく。

顔を離そうと必死に力をこめているクラウドの抵抗を腕一本で封じて、十分に触れ合いを堪能した。
とりあえず思う存分味わって口を解放した頃には、息継ぎがうまく出来ていなかったらしいクラウドは息も絶え絶えで、顔を真っ赤にして今にも泣き出しそう…ていうかよほど苦しかったのか本当に涙目だった。

「ひど…、な、何考えてんだよ…っ。あんたさっきから気は確かか!?まだ寝ぼけてんのかっ」

口元を手の甲で抑えながら俺を睨む。

「寝ぼけてないって。むしろばっちり起きてるし」

もうひとつ、別の意味でも。
俺は押さえつけているクラウドの腰に再度自分の腰を押し付けた。
人が悪いと言われそうな悪戯っぽい笑みで顔が緩むのをどうしても止められなかった。
ああホントに動揺してあわあわしながらも必死に怒っているクラウドも超かわいい!

まあ寝起きだし、目の前のクラウドがあんまり自分のツボにはまるような言動ばかりしてかわいらしいので、クラウドの言うとおり多少俺の頭もいつもよりふわふわとしたゆるい反応や判断をしているかもしれないが、俺は冗談を言うでもからかっているつもりも全くない。
何より俺の体はこういうことにはめちゃくちゃ正直だ。
考えるよりも感じろ!が俺のモットーだ。

「うそ、やだ、なに、当たって…」
さすがに奥手なクラウドにも分かっただろう。

「んー。まあ朝だし、おまえも男ならわかるだろう?」
「そ…っ、だ、だからってそんなの俺に押し付けることない…!」
「わかった、今のは訂正。おまえで勃ったの。キス、気持ちよくて」

にっこり。

おまえがかわいすぎるのが悪い。
そして俺、おまえのことが好きみたい。
欲情しちまうぐらいに。
とは心の中で続けた。

奥手なおまえにはキスも俺の股間も刺激が強すぎたかな。

「し、信じらんない…!!」
「だって気持ちいいから夢中になっちまってさ」
「へへへ変態っ!!」
「ひでえ言われよう。ああそうだ、おまえも一緒に――」
「バカ、どこ触ってるんだよ!?や、やめ…、あ、ひゃん…っ」
「かわいい声出すなあ」
「あ、あ、は…、はなせバカ!あんたって…分かってたけどあんたって…っ、ほんっと節操なしの変態だな…!」

部屋の中にクラウドの大声が響いた。
でも残念、それくらいじゃ逃がしてやらない。

変態?
節操なし?
バカ?

何を言われたって別に気にならない。
今、この瞬間に、おまえがここにいて、俺が抱きしめていて、キスができるんなら構わない。


…なんて、な。


かわいらしい口から出る怒声も非難も唇で塞ぐ。
全部が終わってから、せき止めた彼のそれは改めて聞くことにして。
だっておまえ、本気で抵抗してないし。
それって、つまり――だよな?

心持ちひとつで世界はがらりと変わる。
瞬きする暇もないくらいに急に。
愛しい大好きかわいい愛してる、そういうもので胸の中が満たされる心地よさ。
その喜びをおまえは知ってるか。

愛したい。
うんと優しくする。
そんで最高に気持ちよくなろう。ふたりで。

「ザック…、や、んん…っ」
「クラウド…かわいい」
「かわいくなんかな、い…っ」

口ではそんなことを言ってても、俺の胸を押し返すクラウドの腕には全然力が入ってないし。
濡れた唇と潤んだ大きな瞳、林檎のように赤く色づいた頬が俺を調子づかせてるって、おまえは気づいてないんだろうな。

さあ、じゃあここからは手加減ナシってことで。
おまえのほうから乗っかってきたんだから――もちろん文句は受付けねえから、そのつもりでな。


end.





back