day3:midnight





 気がつけばそこに立っていた。
 見渡せばどこまでも果てなく花畑が続いている。その花は教会に咲いているものと同じだった。
 美しい風景だと思う。しかし現実感がないのは匂いや空気を感じられないからかもしれなかった。
「もう来なくてもいいのに。また来ちゃったんだ?」
 彼女の声がした。
 クラウドがゆっくりと振り返れば、その先で彼女は栗色の髪を揺らして仕方ないなぁと微かに笑った。
「エアリス……」
 現実の世界では永遠に会うことのできない人。2年前の、クラウドの記憶の中の姿そのままに存在していた。
「おかしいなあ、そんな顔して。わたしのプレゼント、受け取ってくれたんでしょう?」
 プレゼント。
「……やっぱりそうなのか?」
 あの子供は。彼は。

 胸が震え、息が詰まった。
 そんな奇跡を。

「星にお願いしたの。わたしの最初で最後の我儘。叶ってよかった」
「………なんで……」
「……クラウド?」
 片手で目を覆い言葉を詰まらせたクラウドの顔をエアリスは少し背伸びをして覗き込む。
 目の裏がじわりと熱かった。
「嬉し泣き、だよね?」
「………」
 彼女はそっとクラウドの腕に触れた。
「顔見せて」
 こんな顔、誰にも見られたくない。クラウドは首を振った。
「子供みたいだよ。わたしこんなに大きな子供を持った覚えないんだけどなあ」
 彼女の想いは母親のようだといつも思う。大きくて温かい。
「ね、見せて」
 彼女の手に促されるまま顔から手を離すと、思っていたよりもすぐ近くに彼女の顔があってクラウドはびっくりした。

「彼の手、もうはなしちゃ駄目だからね」
「……エアリス」
「わたしずっと空から見てる。『どうだ、俺たちはこんなに幸せなんだぞ』って見てるわたしが悔しくなるくらい幸せな2人を見せつけてね」
「……俺は幸せになってもいいのかな」
 まだ心が怯える。自分は幸福から1番遠い場所にいなくてはならないと思っていた。誰も救えなかった自分にはそれが相応しいと蔑む声が聞こえる。


「笑って、クラウド」


 笑っていて。この間みたいに、笑顔を見せて。
 わたしも彼もずっと思ってた。あなたの心に深く沈みこんだ重い枷を少しでも軽くしてあげられたらいいのにって。

 いつまでもズルズルズルズル過去を引きずって仕方ないなあ。
 もういい加減自分を赦してあげたら?
 そう口で言うのは簡単だった。
 でもね、肝心なときにあなたの傍にいて、寄りそってあげられなかったのが寂しかった。
 わたしも彼もとても寂しかったの。


 そしてあなたには彼が必要なんだと知った。

 だから、わたしは悔しいけど笑って彼を送り出したわ。

「もう少しだから」
 あなたの知る彼を。あなたを知る彼を取り戻すその日まで、あと少し。

 さあ目を閉じて。





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