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day6:day and night(lovers)
彼が自分の腕の中で静かな寝息をたてている。
つい先刻まで自分の与える行為に精一杯応えてくれていた愛しいぬくもり。
もう二度と離さない、離しはしない。
そう誓い涙の跡が残る目元にそっと口付け、その手に自分の指を絡めた。
胸に満ちる幸福感に酔いしれる。
確かに今自分はここにいる。
彼をこの腕に抱きしめている。
一日中、空はどんよりと重そうな雲に覆われ、絶え間なく落ちてくる無数の雨粒が地面を激しく叩いていた。
部屋の中に漂う雨の匂いは、抜けた屋根の隙間から忍び込んできたもので、入り込んだ雨粒が木床の一角に溜まっていた。
「……クラウド、ちょ、緩めて……」
二人分の体重を受け止めて軋んだ音をあげるベッドの上、クラウドの中に自分を挿入したのはいいが、あまりのきつさにザックスは男らしい眉をしかめた。
逸る気持ちを抑えて、挿入前にはじっくりクラウドのその場所を時間をかけて解きほぐしたつもりだ。なのにいざ事に及んでみれば、まだ先端しか入っていないのににっちもさっちも行かなくなってしまった。自分の体の下で歯を食いしばり眉をしかめるクラウドの顔は、青ざめているようにさえ見え、ザックスは慌てた。
「クラウド…?」
「………っ」
声もなく全身を引きつらせているクラウドに、ザックスが一度体を引こうとすれば震える手がすがりついてきた。
「や、だ……っ」
「だっておまえ…」
「…い…から、やめない、で……」
眦から涙の筋が伝う。
「ごめん…、久しぶり…だから、忘れてる、だけ…。思い出す…から、待って……」
乱れる息の合間から、クラウドは必死に言葉を紡いだ。伸ばした手がザックスの顔を引き寄せ、キスを強請る。ザックスがそれに応え、角度を変えながら唇を擦り合わせているうちにクラウドの体から徐々に力が抜けてきたので、ザックスは一度体を退いた。
クラウドが濡れた瞳に傷ついた色を浮かべて見上げてくる。
「……ど、うして…?」
「無理させたいわけじゃないから」
「無理じゃないよ…?俺、ザックスと……」
クラウドはそこで一旦言葉を切った。今自分のものに擦りつけられる様にして触れている彼の熱は火傷しそうなほどに熱い。彼が自分を欲しがってくれているのと同じように、いやそれ以上に自分だって、とクラウドは思う。
「ザックスと、したいよ……」
その言葉にザックスが大きく息を吸い込んだ。クラウドの肩を抱く腕に力がこもり、うなだれる。
「………なんか…」
低い呻きみたいに押し出されたザックスの声に、クラウドは不安になる。
「ザックス……?」
「……なんか、クラウドが大人になったっつーか…、小悪魔ちゃんに見える……」
「え…?」
それも悪くないけど、とザックスは独りごち、クラウドの腰を掴んで軽々と持ち上げると、その体をベッドの上で転がした。
うつ伏せになったクラウドの背中から覆いかぶさり、彼の体を押し付ける。
「ザ、ザックス!?」
首をひねり後ろを振り向こうとするクラウドに構わず、ザックスは彼の体に両手を回して自分の下半身をぐいぐいと押し付けた。目の前の白い肩口に歯形がつくくらいの力で噛み付くと、腕の中の体がびくんと跳ねた。
「……おまえに煽られるなんてなあ……」
赤く染まる首筋を舌でぞろりと舐め上げ、苦笑した。
「最初は後ろからにしよう。その方が楽だし、思い出すにはいいだろ?」
「え…、や、後ろって…っ」
「おまえが嫌いなのは分かってるけど1回だけ、な」
後ろからの獣のような格好の交わり方をクラウドが嫌がるのは知っていたが。
クラウドの尻に当たっているザックスの熱は、彼の返答を待たずに体内に進入し始めた。
休む間もなく奥深くまで沈み込む。
「………っ!!!」
その圧迫感にクラウドは喉を引きつらせた。
「ごめん。余裕、ない」
クラウドは声もなく首を必死に横に振った。涙がシーツの上にぱたぱたと零れ落ちる。
辛いけれど、嬉しい。
彼の熱が。
息づくその存在を自分の体で感じられることが何よりも嬉しいのだと、どうすれば伝わるだろう。
「クラウド…?」
「………だ…じょ、ぶ…」
クラウドが浅く息を吐き衝撃に耐えていると、時間の経過とともに体内を犯す圧倒的な質量に体がなじんできた。すると痛みや苦しみだけではない感覚が生まれてくる。
「………っ、あ、」
思わず内股に力が入り、クラウドは体内の彼をぎゅうと締め付けてしまった。頭の後ろでザックスが呻く。
「ごめ、ザック…、ひゃっ」
「も、我慢できない」
大きくザックスが腰を動かし、中を擦られた。強烈な感覚が背中を走り抜ける。遠い日に彼が自分に教え、与えられた快楽を思い出す。
「あ、…あ、」
続けざまに揺すられる。
「ク、ラウド…っ」
互いの熱が溶けるように混じりあう。
確かに共有している時間。
もう何がなんだか分からない嵐のような感覚に体も心も持っていかれた。
外では相変わらず雨音が続いている。
時間はどれほどたったのだろう。
ザックスは目の前に横たわる愛しい人を見下ろした。
波打つ白い腹、臍の脇の辺りに手を伸ばす。どちらのものともつかない精液で汚れた肌の上で指先はぬるりと滑った。
いくらでも自分が欲情できる身体だとザックスは思う。
先程まで本能の赴くまま、幾度となく彼の体に沈み最奥に放った。
先程やっとのことで解放されたクラウドは、事後の心地よいけだるさの中、充実感と幸福感に身をひたすままにしていたが、ザックスが仕掛けたちょっとした指の感触にも反応してしまう。どこもかしこも敏感になってしまっている、という自覚があった。
「、ん……っ」
ザックスが顔を寄せ、目を覗き込んできて笑うから、クラウドは少しすねた顔をしてみせた。
「やっぱおまえ最高」
汗で額にはり付いた髪の毛を優しく手のひらでかき上げ、瞼に、額に、ザックスはキスの嵐を送る。
「愛してる、クラウド」
「……うん」
「……愛してる…」
「………俺も」
愛してる。
数え切れないほどのキスを。
優しい口付けが、唇に戻ってきて深く吸い付いてきた。舌を絡め取られたかと思うと、またザックスの身体がクラウドの上に乗り上げる。
「……、ザ…っ?」
「休憩は終わり」
休憩って…。
「……え?」
「おまえだってまだ足りないだろ?」
足りないって、まさか…。
「………、」
目の前の、牡オーラ全開の表情に圧倒されて…いる場合ではなかった。
いつの間にか足を割り開かれていて、でも彼の手際のよさを関心している場合でもなく。
「ちょ、俺はもういいって!無理、もう無理、ザックス…!」
クラウドが彼の身体を押し返そうとすれば、
「そんだけ体力残ってればダイジョブだって。なんだよ、おまえソルジャーになったんだろ?だったらこれっくらいまだまだ序の口じゃん?」
笑ってそう言えば、途端にクラウドの動きがピタリと止まった。目を見開いてザックスをじっと見上げる。その顔が余りにも真剣で、まるで夢から醒めた人のそれのようだったので、ザックスは少し違和感を覚えた。
「ん?どうした、クラウド」
「………何で…?」
「何で分かったかって?いくら俺だって目を見れば分かるって。やっぱおまえ凄いよな」
ザックスの記憶の中の彼と決定的に違ったのは、その瞳だった。魔晄を受けた青い煌めきは、ソルジャー特有のものだ。
「夢は諦めなきゃ叶うんだ」
自分と同じ輝きを湛える瞳の上に唇を寄せる。
愛しさと誇らしさを込めて。
「………」
クラウドは何も答えず、ただ曖昧に微笑んだ。
他意はなかった。
クラウドは頑張って自分の夢を叶えたのだと、この時のザックスは単純にそう思っていた。
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