CALL ME 22





 クラウドはベッドの上にうつ伏せ、腰だけを高く上げさせられていた。
 上半身に力が入らず、片頬を預けているシーツはクラウドの大きな目からこぼれ落ちた涙を吸って湿っている。
「…んでそんなに…ゆ、指…っ」
 さっきからずっと自分の後ろに張り付いているザックスに向かって必死に首をねじ曲げる。
 何で他人のそんな場所にそんなことができるんだろうとクラウドは驚きっぱなしだった。
 指を出し入れされたり舐められたり…言葉にするのも恥ずかしいことを延々とザックスにされ続けていた。
 ザックスが何のためにしつこいくらいにその場所をいじっているのかはクラウドにだって分かっている。その必要性も理解しているつもりだ。けれど頭で分かっていても、その行為の程度がこれで普通なのか、足りているのか、いないのかまでは分からない。分かるのは、長い時間恥ずかしさに耐えつづけているクラウドが、あと少しで弱音を吐いてしまいそうなほどに、体も心もザックスによってふにゃふにゃにさせられてしまっているということだった。
「慣らさないと、おまえがきつい」
「…でもこの前はそんなことしなかった…」
 それは、いつかの夜のことを言っているのだ。
 ザックスは自嘲気味に唇を歪めた。
「だからおまえを傷つけたんだ。夢ん中の俺はおまえに全然優しくなかったな。反省してる」
 そう言っている間もザックスが手を休めることはない。
「だいぶひらいて柔らかくなってきた。でもまだまだだけどな」
「…ふ…っ、」
(まだ…?)
 あんまりなザックスの言葉にクラウドは腰を揺らめかせた。
 鈍くなった頭で必死に考える。
 こんなにいっぱいしているのに、まだ足りないのだろうか。あとどれぐらい準備が必要なのだろう。
 それに…。
(――なんかへん…。お尻の中がむずむずする感じ…)
 秘所に突き入れられたザックスの指が入り口から奥までを行ったり来たりするうちに、クラウドはなんだか不思議な気持ちになっていた。直接的に性器をいじられるのとは違い、じわじわとクラウドを責める。
 むずがゆさとは別に、何かをもっと欲しいという物足りなさも感じ始めている。
 そして、いつの間にかクラウドの秘所は二本の指をたやすく受け入れていた。いつもは剣を握る彼のその指の平が探るように動いて、クラウドの中のある一点をこするときに、クラウドはさっきからたまらない気持ちになっている。
「…っ」
(やだ…、な、なんか…)
 だからその場所はちょっと…。
「クラウド」
 背後から名前を呼ぶザックスの声が、何やら嬉しそうな響きを含んでいるような気がして、何、とクラウドが振り向こうとしたら、内部を荒らすザックスの指が、クラウドをたまらない気持ちにさせる場所を狙いを定めたように強く擦った。たまらずクラウドは悲鳴をあげて背中をしならせた。立て続けにぐりぐりとそこを押され、クラウドの体から力が抜ける。クラウドの反応をザックスが見逃すはずがないのだ。
「や、やだ、そこ、やだだめ、ん、んんや、ん…っ!」
 シーツに頭をこすり付けてザックスの指先から与えられる強烈な感覚にたえる。
 そんな風にされたら…。
 クラウドはそれまでこの体勢になってからシーツを掴むばかりだった手を自分の下半身に伸ばした。
「…っ」
 駄目だ。今にも弾けてしまいそうだった。我慢できない。
 けれど、クラウドの指は目標に届く前にザックスの空いていた方の手の指に絡めとられてしまった。
「だーめ」
「やだ、はなしてっ」
 我慢するあまり身体の変なところに力が入って、立てた膝がぶるぶると震えた。
「却下」
「じゃ、じゃあ指抜いて…」
「それも却下」
「ザッ、だって出ちゃ、…っ、あ…っ」
 内部に入ったままのザックスの指を喰いしめながら、とうとうクラウドは性器の先端からじわりと少しだけ溢れささせてしまった。
 それと同時に眦にたまっていた涙もぽろりとシーツの上に零れ落ちた。
 クラウドは唇をかみ締めて恐る恐る振り向く。
「み…見た?」
 さっきまで散々ザックスの前でこれ以上のいやらしいこともしていたし、見られているし、今更恥ずかしがるのもあれだと思うのだが、やはり激しい羞恥心にクラウドは襲われた。
「見た。おまえさ、意外に…」
「ざざざザックス! も、もういいから! いいから、ねえ、俺…っ」
 それ以上ザックスに言わせまいと、クラウドは大声を上げた。とんでもなく恥ずかしいことを言われそうな予感がしたからだった。
「いや、だっておまえのここもすごく…」
 ここってどこだよ。指を動かさないでほしい。
「もうやだ! 早くやっちゃって終わらせたい!」
「え」
「だって長いんだもん! 早く入れてとっとと終わらせようよ!」
「とっととって…んな色気ゼロな…」
 だって、こんなに恥ずかしい時間をこんなに長く続けることになるなんて本当にクラウドは考えていなかったのだ。微塵も想像できていなかった。もうこれ以上の羞恥は我慢できそうにない。
「もうじゅうぶんだから、おねがい」
「まだ無理、ってかおまえ、ちょ…」
「無理でもいい。だって俺一人だけやだよこんなの…っ」
 クラウドは手足に何とかして力を込めて体を起こし、シーツの上を這うようにしてザックスに向き合った。ザックスの指がクラウドから離れる。
 クラウドはザックスの両腕を掴んだ。
「いれてザックス」
「や…、そのクラ…」
 クラウドは心を決めて、座らせたザックスのズボンに手をかけた。下着ごと手をかけためらいもなく引き下ろす。すると堅くなったザックスの性器が現れた。
「あ、ばっか…っ」
 慌てるザックスの声を無視して、そそり立つそれを見つめ、クラウドは思わずごくりと生唾を飲み込んだ。
「…あ…」
 ザックスの性器をクラウドは初めて間近に見た。
 自分のそれと同じものなはずなのに、見た目からか全然違うもののように感じる。色も、形も、大きさも。こんな状態の他人の性器を…いや普通の状態の性器でさえ間近でじっと見たことなどクラウドはなかった。
 目の前の光景は、頭の奥をじいいんと痺れさせるような得体の知れない熱をクラウドにもたらした。
 赤黒く充血したそれは先走りに濡れ、てらてらといやらしく光っている。
「……」
「え…と、クラ…」
 さすがのザックスも恥ずかしいのか、クラウドを引きはがそうとする。が、クラウドは興奮のためか、目を潤ませながら手を伸ばした。
「……なんか…すごい…」
 質量のあるザックスのそれを恐る恐るといった風に手のひらで包む。
 ザックスは息をつめてびくりと体を揺らした。
 クラウドの手の中でザックスの性器は一段と堅くなり、大きく育つ。
「わ…」
「…っ、おまえ、いきなり…っ」
 クラウドはザックスを見上げた。その顔は真っ赤だ。しかしすぐに、まだ手にしたザックスの性器を見下ろし、それからまた顔を上げたりとせわしなく視線を動かす。何かを言いたそうなのだが、ためらっているようだった。
「…なにクラウド?」
 問いかけに、クラウドは大層恥じらいながら小さく口を動かした。
「……っきい…」
「? なんだって?」
 ばっとクラウドが顔を上げる。耳まで真っ赤にしてちょっと怒ったような顔をして、叫んだ。 
「だから、おっきいって…っ、大きすぎるだろこれ!」
「…!」
 叫んだ拍子にクラウドは掴んでいたものをぎゅうと握ってしまう。反射で指に力が入ってしまっただけなのだが、その刺激のせいかさらにザックスの性器が体積を増したのに、クラウドは今度はひどく動揺して手を引っ込めた。
「うわあっ」
「おまっ、うわあじゃないだろおまえ、こっちがうわあだっての!」
「だだだだって」
「ったく、恥ずかしがったりいきなり大胆になったり、おまえは…!」
 クラウドは熟れて落ちそうなほどに顔を紅潮させて、その表情は泣きそうだ。それでもちらちらとザックスの股間を気にして見ている。
「ほ…ほんとにあの夜、そんな…お、大きなのが俺に入ったの? 信じられない…」
「や…、ていうかそんなに大きい大きいさっきから連呼しなくても…」
 ザックスは照れくさそうに頭の後ろをかく。
 大きさは自慢できると自分でも思うが、けれどそれがクラウドにはどういう風に受け止められているのかも想像できるから、単純に喜んでばかりもいられないこともザックスにはちゃんと分かっている。
「…だから、俺は急がないって言ってるだろ。おまえを傷つけたくないから準備をちゃんとしたいって」
 クラウドは口を引き結んで、俯く。
 ザックスは優しい。
 そう、いつだってクラウドのことを気遣ってくれる。こんなときでさえ。
 でも、だけど――。
「…やっぱり…そんなに俺とはしたくない…?」
 クラウドの口からぽつりとこぼれた声にザックスは目を丸くした。
「どうしてそうなる。んなわけねえだろ!」
「だって…」
 ザックスは両手を伸ばしてクラウドの細い腰を掴み、軽々と持ち上げると自分の膝の上に乗せた。
 正面から向き合うと、互いの勃ち上がった性器が予期せず擦れあう。これ以上ないくらいに敏感になっている場所に火傷しそうなほどの熱の刺激を受けて、クラウドは悲鳴を上げてザックスの膝の上で背中をしならせた。とっさにザックスの腕にすがりつく。
「ザック…っ」
「俺の我慢を無駄にする気か、おまえは」
「我慢なんてしなくて…、あ…、ぃや…」
 ザックスが腰を動かすと、ぬるりと擦れて滑った。腰を引こうとしたクラウドよりも先に、ザックスは二人の性器をまとめて右の手のひらの中に握り込んでクラウドの逃げ道を断った。
「…っ」
 ここで自分が逃げ腰だと伝わってしまえば、ますますザックスは遠慮して引いてしまうかもしれないと思い、クラウドは身体をかちこちにさせながらもザックスにしがみついた。
「クラウド」
 ザックスは手の中のものに微妙な加減をつけてやわやわと力をこめる。
「おねが…、だ、め、そんな…したら、また出ちゃ…ぅ」 
 敏感な部分に触れるザックスの熱はクラウドの脳髄を熱くとろけさせた。
 ザックスはクラウドの唇に、肌に吸いつきながら腰を揺すり、手の中のものを的確にこすりあわせてさらに高めていく。もう片方の手をクラウドの後ろに回し、尻の割れ目の奥に触れると、抵抗もなくザックスの指は内側に沈んだ。
「いいよ。出しちまいなクラウド」
「あ、あ…、…したら、ザックス、も…?」
「ああ」
 性的な快感に耐性がないクラウドは、ザックスに与えられた愛撫にあっという間にまた我慢がきかなくる。
 もう少しで、というところで、ザックスが耳元で囁いた。
「クラウド、握って」
 そう言われてクラウドの手が導かれた先は、濡れそぼり重なり合った二人の性器だった。ためらいはなかった。クラウドは息も絶え絶えに、震える指を伸ばし、夢中でザックスの手の中から顔を出している彼の性器に触れる。逞しく火傷しそうなほどに熱いそれにクラウドも興奮する。
 その瞬間、どくり、と互いの鼓動が重なったような気がした。
「……っっ!」
「…ん……っ」
 クラウドの手にどろりとしたものが勢いよくかかる。
 同時にクラウドも体を痙攣させる。その夜もう何度目になるか分からないクラウドの放出は、クラウドの指を濡らすザックスの濃い精液とは違って、水のように薄いものだった。放ちながら、後ろに沈んだザックスの指をクラウドの内部が絞り込む。
 ベッドがぎしぎしと軋んだ。
 膝の上にクラウドを乗せながら軽々と尻が浮くほどにザックスは腰を揺すり、クラウドの指や性器を濡らし続けた。
 身体は繋がっていなかったが、クラウドは確かにその瞬間、二人はひとつに溶けて混ざり合い、同じ時間を共有したと感じた。



「あ…つ……ぃ…」
 全てを出し切った後、とろんとした目で浅く息をついているクラウドの身体をザックスはゆっくりとベッドに横たえた。幼い表情の中に危うい色気がにじんでいる。
 汗で額にはり付いているクラウドの前髪を指先ではがしたあと、ザックスは手のひらで大切に包むように彼の頬を撫でた。
 ぼんやりとクラウドの目がザックスを見上げる。それにザックスは微笑んだ。
「もう寝てもいいぞ」
「……え…?」
 何を言われたのか分からないと言うように金色の睫毛を揺らしてクラウドはぱちぱちと目を瞬く。
「…だって…まだ…」
 まだ最後までやっていない、挿れてもらってないしちゃんと繋がっていない、とクラウドは言いたいのだろう。
 ザックスはクラウドに顔を寄せて、唇の表面を軽く食んだ。
「つっても、おまえもう疲れて身体に力入らないだろ」
「…へいき…」
 正直に言えば、指一本、いや瞬きのために瞼を動かすのでさえ億劫だったが、クラウドは強がった。
「繋がることだけがセックスじゃねえよ」
「でも…でも俺はともかくザックスは…俺何もザックスにしてあげてない…」
「そんなことない。よかったよ。すっげえ気持ちよかった。最高だった」
「……」
 真正面から笑顔で、本当に幸せそうな顔でザックスがそう言うので、クラウドは気恥ずかしくて背中の方がむずむずする。
「想像してた以上におまえは色っぽいし、おまえの身体もなんて言うか、いやらしいしさ」
「え、な、なに言って…」
「驚いた。どこ触ってもいい反応だし、中だって」
「俺なんか変だった…?」
「違う、ますます惚れなおしたって言ってんだよ」
 ザックスの手が優しく髪をすき、クラウドの額に、頬に、羽のような柔らかいキスをした。
「がんばったな。また今度な」
「こん…ど…」
 本当に今度…でいいのだろうか。
 というか次もちゃんとあるんだ…そうか、あるんだ、ということを改めて認識してクラウドはほっとした。
 ザックスは手のひらをクラウドの瞼の上に翳した。促されるままにクラウドは目を閉じる。そうしてしまうと、再び瞼を開く余力は残っていないとクラウドは自覚する。そのまま意識が沈んでいきそうになる。
 髪を撫でるザックスの手がとても心地いい。
 急激に眠気が襲ってくる。


「…名前…」
「ん?」
 こんな気持ちは、初めてだった。
 そっと抱きしめてくれる。
 他人の体温をこんなに近くに感じる。
 そのことにひどく安心する。
「なまえ、よんで、おれの」
「クラウド?」
 そう、俺だよ。
 俺の名前はクラウド。
「うん。もう一度…」
「クラウド。…どうした?」
 ザックスだ…ザックスの声、今度はちゃんと呼んでくれた。
 ザックスは自分のことをしっかりクラウド・ストライフだと認識して抱きしめてくれている。
 あの夜とは――違う。
「うん…うん、俺クラウドだよ…ザックス…」
「愛してるクラウド」
「俺も…俺もザックスのこと…」

 誰よりも何よりも、大好き。

 おやすみ、よい夢を。
 ザックスの低く耳に響く声がクラウドの身体中にしみていく。
 目を閉じて訪れる暗闇も、彼の温もりに包まれていればあの夜のようにはクラウドに恐れをもたらしたりはしない。
 ふわふわと幸せな気持ちに包まれて、気持ちよさにあらがえずにクラウドは睡魔に身を委ねた。
 こんなふうに眠った次の日は、きっととても幸せな目覚めが待っている。
 隣には大好きな人がいて。
 そして今までとは違う一日の始まるのだ。







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