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CALL ME 20
眠れない。
暗い部屋の中で、クラウドは何度も寝返りを打った。
隣の部屋でザックスはもう寝ているのだろうか。
耳を澄ますが、物音は聞こえない。
今はいったい何時なのだろう。
眠れないのなら、朝日がこの部屋に満ちるそのときまで、このままじっとしているしかないのだろうか。
クラウドは闇の中、目を凝らしてドアを見つめた。
一緒にいたい相手はすぐ向こうにいるのに。
この距離は何なのだろう。…通じ合えない心の距離なのだろうか。
…やっぱり、こんなのはイヤだ。
クラウドと一緒のベッドでザックスが寝たくないというのなら、それは仕方がないことだ。けれど今夜はどうしてもクラウドは離れていたくなかった。
だって特別な夜だ。少しでも近くにいたい…。
クラウドは体を起こして、毛布の中から抜け出すと、そっと床に足裏を下ろした。
習慣で人の気配には敏感だ。
小さく空気が揺れ動いたのに気がついて、ザックスは眠りの淵から急激に覚醒を促された。
目を開かずとも自分を起こした気配が誰のものなのかはすぐに分かった。元よりこの家には今夜は自分とクラウドしかいない。
クラウドは、寝室のドアを音を立てずにゆっくりと開いて、足音を殺しながらソファに向かって近づいてくる。
ザックスがクラウドを寝かしつけてから少なくとも半時ほどは過ぎているはずだ。
彼が起き出す理由、原因――何か寝ていて不都合なことがあったのだろうか。
ザックスは寝たふりを決め込んでクラウドの様子を見ようと、ソファの上に横になったまま動かずにいた。声をかけられれば起きるつもりだった。
クラウドはソファのすぐ傍までやってきて、足を止める。そして動かなくなった。
自分をじっと見下ろしているクラウドの気配を感じて、ザックスは少し緊張する。
クラウドはそこでじっとしているだけで、特にアクションを仕掛けようとはせず、声をかけてこようともしない。
ザックスは今更ながら寝たふりをしたことを少し後悔した。声をかけてくれれば動けそうな気がするのに、これではどうにも目を開くタイミングが計れない。
そもそもクラウドは何のために出てきたのだろう…?
衣擦れの音がして、微かにだがクラウドが小さく息を吐きだす音が聞こえた。ソファの横に膝をつき、その場に座り込んだようだった。
「……ねてる…の?」
ようやく彼から発せられた言葉は、小さな、とても小さな声だった。
ソファの上から半分飛び出るようにして投げ出していたザックスの手に、そっと温もりが触れる。
「……」
遠慮がちに絡められた指の先に、さらさらと柔らかな髪の毛がふりかかった。座り込んだクラウドは、ザックスの手を取ってベッドに寄りかかり、頭をシーツの上に預けたようだ。
そのままクラウドは動きを止め、部屋の中は再び静かになった。
ザックスは気になって、そっと薄目を開いた。
闇の中、ほのかに明るい固まりが自分のそばで形をなして浮かび上がっている。
ザックスの手にすり寄るようにしてソファに突っ伏しているクラウドは、そのまま寝てしまうつもりなのか、目を閉じていた。
ザックスはクラウドの行動に戸惑いながらも、さすがに退院明けの彼をこのままにはしておけないと考え、動く。
半身を起こしながら、掴まれた手をやんわりと解き、無防備に寄せられたクラウドの頬に手を伸ばした。
指先に感じたさらりとした彼の滑らかな肌の感触に、つい今し方まで完全に眠っていたはずの余計な感覚と欲望が身体の奥で目覚めそうな気配がしたが、ザックスはそれには気づかないふりをする。
ザックスが動いたのに気がついて、はっとしたクラウドが目を見開いて慌てて身体を引こうとする。それよりも先にザックスはクラウドの手を取って身体をソファの上に引き上げ、彼の細くて頼りない身体を後ろから抱え込むようにして抱きしめた。そうすると彼の華奢な身体はザックスの腕の中にすっぽりとおさまってしまう。
「…どうした。寂しくてひとりじゃ眠れないか」
腕の中の愛しい存在に顔を寄せ、髪を撫で、額にキスを落とす。
クラウドのにおいを吸い込むと、またしても胸がうずきそうな気配がしたが、ザックスは頭の中から不穏な欲を追い出した。今は不要なものだ。
「ザックス…っ」
クラウドは落ち着かなげに首をせわしなく動かす。ザックスが起きるとは想定していなかったのだろう。
「ごめん…起こしちゃった…?」
「おはようの時間にはまだ早い」
「…うん…ごめん」
「身体が冷えてる。今度は風邪を引くぞ」
「……」
「どうした?」
クラウドは首をねじってザックスを振り向いた。薄闇の中、クラウドの大きな瞳がザックスを見つめる。潤んで不安そうに揺れているように見えるのはザックスの気のせいだろうか。
クラウドの唇が何かを言いたそうに小さく動く。けれど声にはならず、何かをためらうような仕草の後、また前を向いてしまった。
口下手な彼から思うような言葉を引き出すには多少の辛抱が要る。
ザックスはそんなクラウドの様子に苦笑しながら、彼の身体をさらに暖めてやろうと思い、ソファの上に丸まっている毛布に左手を伸ばそうとしたときだった。
クラウドが勢いをつけたような唐突な動きで再度振り向いた。と同時にザックスの首に両腕を伸ばして身体を寄せてくる。
ほとんどぶつかってきたクラウドの重みを受け止めて、勢いに押されるようにザックスは背後のソファの背もたれに背中を預けた。
「おわっ、何だよクラ――」
声が途切れる。
ふにゅりと。
ザックスの言葉を奪ったのはクラウドの唇だった。
「…っ」
触れたのは一瞬。
唇に柔らかい感触。吐息がかすめる。
拙い触れ合いは、瞬きするくらいの短い時間だった。
それからクラウドはザックスの首にぶらさがるようにぎゅっと抱きつくと、甘えるように額をザックスの肩口にこすりつけた。
「…クラウド…?」
キス。クラウドからの、キス。
あのクラウドが自分からキスをしてくるだなんて、にわかには信じられないザックスは、呆然とした面もちで自分の身体にはりついているクラウドを見下ろした。
顔は見えないけれど、細い腕はしっかりと自分にしがみついている。夢じゃない。
頬に触れた彼の髪から自分が使っている洗髪剤と同じにおいが漂ってくるのが、なんだか妙に気恥ずかしい。
こんな風に彼のほうから抱きつかれたこともキスされたことも、勿論飛び上がらんばかりにザックスは嬉しいのだが、高鳴る胸をなんとか理性を総動員してなだめながらクラウドの髪をそっと撫でた。
「ホントにどうしたんだよ、クラウド」
「……ザックスは…今ねむい…?」
聞こえてきたのは、消え入りそうな声。クラウドの身体から微かに緊張が伝わってくる。
「眠いって言うか、寝てたけど」
飛びついてきたのも唐突だったが、離れたのも同様だった。
クラウドは弾かれたようにザックスから腕を放すとソファを降り、ザックスに背を向けて寝室に向かって歩き出そうとする。咄嗟にザックスが反応できないくらいの素早い行動だった。
「…っ、ごめん、睡眠の邪魔して…、おやすみ…っ」
ザックスはどうやら答え方を間違えたらしい。
「クラウドごめん待て、そうじゃなくて」
慌ててザックスはクラウドの腕をつかんで引きとめた。けれどクラウドは振り向こうとしない。うつむき加減で少し背中を丸め、先程とは打って変わって今はもう全身でザックスを拒絶しているように見えた。
自分から近づいてきたと思ったらすぐに遠ざかろうとする。その理由を相手に伝えようともしないで。
でも掴んだクラウドの腕から微かに震えが伝わってくるのにザックスは気がつく。
彼がどんなに勇気を振り絞って自分のもとに飛び込んできたのか、その決意が震えから伝わってくるような気がした。
クラウドの真意は依然分からないままだが、彼の細い手首を掴んだまま立ち上がる。
「眠くない。ごめん。だからおまえのことを抱きしめさせてくれないか、クラウド」
「……」
少し躊躇した後、クラウドはぎごちなく頷いた。
ザックスが優しく腕を引けば、クラウドはくるりと身体を回転させてザックスの胸に収まる。暗い部屋の中でふたつの影は再びひとつに重なった。
改めて体を密着させると、クラウドの身体が楽観できないくらいに冷えているのがよく分かった。このままにしておけば、体調を崩しかねない冷ややかさだ。少しでも自分の熱が移ればいいと、ザックスはクラウドの身体に覆いかぶさるようにして彼を包んだ。クラウドの腕もためらいつつもザックスの背にまわされた。
「……ね、迷惑じゃなかったら…もしよかったら、一緒に寝てほしい…」
腕の中から聞こえてきた声にザックスは一瞬目を瞠る。
クラウドの声は自信がなさそうに力がなく、小さく揺れてはいたが、ちゃんと意味を成した言葉としてザックスの耳に確かに届いた。
それはザックスにとっては予想もしていなかったクラウドの申し出だった。
「それは…」
答えに迷う。
一緒に寝たくないわけでは決してない。
ないのだが今夜は…浮かれている自覚がザックスにはあった。
それこそ飛び上がりたいような、じっとしていられなくて大声で叫びたくなるような、物凄い浮かれ具合だ。だってほとんど諦めていた気持ちを、想いをクラウドに受け入れてもらえたばかりなのだ。信じられないくらいに嬉しい日だったし、これで気分が高揚しないだなんてありえない。
けれど…けれど、だから今日はその、誰よりも大切にしたいと願っているクラウドのために自分を律しようと決めた。
想いを通じ合わせたばかりの今日だから、同じベッドの上でクラウドのことを甘やかすようにただ抱きしめて眠りたいとも思った。だがクラウドの性分を考えると、傍らにザックスが寝ているというだけでクラウドは過度な緊張をしてしまい、身体を休めるどころか逆に退院したばかりの彼の身体や精神にいらぬストレスを与えてしまわないだろうかという予感がした。それはザックスの本意ではない。だから別々に寝ることを選んだのだ。
彼を大切にしたい。優しくしたい。だから。
でも、クラウドが一緒に寝てほしいと言うのなら、それに応えてやるべきなのだろうか。
何かひとりで寝られない理由があるのなら…。
ザックスはクラウドの顔を上げさせる。
暗闇の中、不安そうに揺れる瞳がザックスをおずおずと見上げた。
「…駄目…?」
目を潤ませて、今にも小首を傾げそうなかわいさだった。クラウド本人にそんなつもりはないのだろうが、ザックスには十分媚態に見えた。
思えば彼にこんな風に甘えられたのは初めてかもしれない。
顔にこそ出さないが、内心で生唾を飲み込まんばかりにあわあわしていて、クラウドの問いかけに答える余裕がまったくないザックスをどう受け止めたのか、クラウドはザックスから視線を外して悲しげに目を伏せた。
「……駄目だよね。だからザックスはここで寝てるんだよね。俺と寝たくないから…」
ザックスがひとりぐるぐるしている間に、なんだかとんでもない方向にクラウドの思考が向ってしまったようだ。ザックスは慌てた。
「寝たくないわけないだろう! 俺はおまえにゆっくり休んでもらいたいから、だから」
「……今夜、するんだと思ってた…」
耳を疑いたくなるような言葉がクラウドの口から出て、さらにザックスはびっくりした。するって、するって、つまり、その。
「…でも俺の勘違いだったみたいだから…、でも今夜はザックスの近くにいたくて…いたいって思うのも迷惑かな…」
「クラ…」
クラウドがそんなことを考えていただなんて。迷惑だなんてとんでもない。
ザックスは口をぽかんと開けてクラウドの顔を見下ろした。
もしかして本当は目覚めていなくて、あの夜のようにまた自分に都合のいい夢を見ているのだろうかとザックスは疑いたくなる。
「俺は、おまえに無理させたくなくて。今夜はゆっくり休ませてやりたいと思ったし、そのほうがいいと思ったから」
「…俺と…寝たくない…わけじゃない…?」
今にも泣き出しそうに歪んだ大きな双眸がザックスを再度見上げる。
「当たり前だろ」
ザックスのその言葉にクラウドは緊張から解き放たれたのか、ふにゃりと表情が崩れ、ふわりと笑顔になった。花がほころぶような、という言葉がザックスの頭に浮かぶ。普段からそんなに笑わないクラウドが、よりにもよってこんな時にこんな顔をするのは反則だと思う。
「クラウド…!」
ザックスはクラウドを抱きしめる腕に力を込めると、思わず唇を重ねていた。
離れた唇を追いかけるようにクラウドが顔を寄せてきたので、もう一度ザックスが唇をふさぐと、クラウドは自分から口を開いた。それに誘われるようにザックスがクラウドの口腔に舌を忍び込ませれば、クラウドの舌は驚いたようにひきつったが、それも一瞬のことで、ぎごちないながらもザックスの行為に応えようと素直に受け入れた。
唇を離そうとすると、クラウドの方から抱きついてまたキスをねだる。
今夜のクラウドはなぜだか人が変わったようにやけに積極的だった。
「…ザックス…っ」
「クラウド、わかった、一緒に寝てやるから落ち着け」
「よかった…っ、俺…」
「おまえ、そんなに俺と一緒に寝たかったのか?」
「…っ、だって…」
たぶんこの部屋の闇を取り払えば見事なくらいに真っ赤に染まって見えるのだろうクラウドの頬に、ザックスは手のひらをすべらせ、その額にありったけの愛おしさをこめてキスを落とした。
そんなに一緒に寝たかったのなら、数時間前のあれは悪いことをしたと思う。
「おまえ、意外に甘えん坊?」
「そ、そんなんじゃない…っ」
ザックスは笑う。
不器用で自分の気持ちを表に出すのが苦手なクラウドに、こんな風にされるのは自分が特別に心を許してもらっているのだという気がして嬉しい。
付き合いがもっと深く長くなれば、これからも新しい発見や彼の意外な一面を知ることがあるのだろう。そのたびに自分はクラウドのことがきっともっとずっと好きになっていくような気がする。なんの根拠もないが、それはザックスにとって確信に近かった。
ザックスは抱きしめる腕を解いてクラウドの手を引いた。
「ソファじゃふたりで寝るのは無理だから、ベッドでいいか」
「…うん」
ふたりは寝室に移動した。
クラウドを先に寝かせてからザックスもベッドに上がる。セミダブルサイズのベッドなので、ふたりが横になっても窮屈には感じなかった。
布団の中にはクラウドのぬくもりが冷めずに残っていてザックスをときめかせる。
向かい合って横になると、掛け布の隙間からクラウドがじっと自分のほうを伺うように見ているのにザックスは気付いた。
「これで寝れるか?」
親と一緒でなければ眠れないと駄々をこねる子供ってこんな感じなのかなとザックスは苦笑した。
身体を少しだけ伸ばしてクラウドにもう一度軽いキスをすると、頭を撫でてやった。
「おやすみ、クラウド」
「え…」
眠りの前の挨拶をしたのに、なぜか戸惑った声がクラウドの口から漏れる。
「ん?」
「…あの、俺、どうしたらいい…?」
どう、とは何だろう。ザックスは首をかしげる。
あたたかさは人の思考を取り上げ、眠りへといざなう。
「どうって、寝るんだろ」
数時間後、目覚めたときに最初に目にするのがクラウドの寝顔だったら嬉しい。とても満ち足りた気分になれるだろうとザックスはその幸せな数時間後の未来に思いを馳せる。
「うん。だから…その…」
「…?」
「俺…こういうの勝手がよく分からなくて…自分から服脱いだほうがいいの…?」
「へ…」
ザックスは固まった。
一瞬思考が停止する。
眠気が一気に吹き飛ぶ。
さっきのクラウドの言葉を思い出した。
『今夜、するんだと思ってた』
『一緒に寝てほしい』
クラウドの頭の中では、もしかして『一緒に寝る=セックスする』というふうに繋がっているのだろうか。
ザックスとしては全然そんなつもりではなかったのだが。
「え…と、おまえ、今したいの? つまりその…俺と…、え、ええええ?」
「…っ」
深夜の寝室にザックスのすっとんきょうな声が響き渡る。間の抜けた表情のザックスの顔面にぼふんとクラウドの投げた枕がヒットした。
「し、したくないんならいい!」
この部屋の灯りがついていないのが、返す返すも惜しいと思った。だが顔を真っ赤にして焦りまくっているクラウドの表情は容易に想像できる。怒った顔で頬を膨らませて、でも最高に愛らしい表情だ。
「うううう、うそ、マジで? そういうつもりでホントにおまえ、俺のとこに来て俺を誘ってたのか?」
「馬鹿! 死ね! いいよもうっ」
クラウドは毛布を引っ張っり上げて頭の上まで隠してしまった。
かわいい。なにこの生きモノ。これも反則だろ。ザックスはたまらない気持ちになる。
「クラウドー」
「うわっ」
ザックスは毛布にくるまって蓑虫みたいになっているクラウドの身体に上からじゃれつくように抱きついた。
信じられない。信じられないけれど、嬉しい。こんなふうな展開は予想もしていなかった。
「おまえ、俺を虜にさせる天才だな。これ以上おまえを好きにさせて、俺をどうしたいんだよ」
「ザックスおも…いっ」
「なあ、していいのか」
抱え込んだクラウドの身体がびくりと震えた。
「俺はもっと落ち着いてからでもいいと思ってた。したくないわけじゃないけど、俺のやらかしたことがおまえの心の傷になってるってことはわかってるから、そういうことは段階を踏んで慎重にいこうって思った。おまえをこれ以上傷つけたくないから。大切にしたい」
クラウドが布団の中でふるふると頭を振った。
「変なトラウマになってたらどうしようって不安なんだ。…怖くないのか?」
クラウドはまた首を振る。それにザックスは苦笑した。
「それってどっちの意味?」
怖くない、の肯定? それとも、怖くない、の否定?
クラウドが無理していないわけが無いのだ。
きっとたくさん迷って、不安と戦って、それでも今夜こうしてザックスの元に来てくれた。
ザックスに精一杯近づこうとしてくれている。寄り添おうとしてくれている。
その気持ちが伝わってくるから、ザックスはとても幸せで嬉しくて、胸がいっぱいになる。
「じゃあさ、クラウド、試してみるか」
そろりとクラウドが毛布の隙間から顔を出した。ザックスはそこから彼を引っ張り出すと両腕でその身体を抱きしめた。
「駄目そうだったらすぐやめる。それでおまえの気が済むんなら…」
間近からザックスの目をじっと見つめ返すクラウドの瞳は、何か物言いたそうに揺れている。だがそこにザックスを拒絶する光はどこにもなかった。
その目を見ていたら、クラウドが望むのならしてもいいだなんていう言い方は卑怯だと思い直した。
ザックスは首をゆるく振ってから言い直した。
「…しよう。させて、クラウド」
クラウドは逃げなかった。
彼が自分に向ける愛情をザックスは微塵の疑いようも無く信じることができた瞬間だった。
「…うん、ザックス」
夜明けまでまだ時間はある。愛を確かめあうには十分なほどに。
「――クソ、でも絶対後悔するんだからな」
しないよ、とクラウドが笑う。
違う、俺がするんだ、とザックスはクラウドを抱きしめて、ありったけの想いをこめて愛しい恋人の唇に何度も唇を触れ合わせた。
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