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酔いどれクリスマス 05
されるばかりでは気がすまないらしい今夜のクラウドは、ベッドの上で胡坐をかかせたザックスの股間に顔を寄せていた。勃ちあがったそれは大いに存在を主張していて、クラウドの口に含めないほどに育っている。
ザックスは自分の下肢に張り付いて懸命に愛撫を施しているクラウドの様子を、彼の金色の髪を優しく指ですきながら見下ろしていた。
「おまえは俺に好き勝手されて面白くねえって言うけど、俺は逆だなぁ。おまえのこと抱いてると、いっつもおまえに喰われて、いいようにされてる気がする」
「……?」
上目遣いにクラウドがザックスを見上げる。濡れた唇と、きれいな顔の真横にある自分のグロテスクな性器が同じ視界に入って、なんとも言えない悩ましい光景だとザックスは思った。
「振り回されてんのは俺のほうかもって話だよ」
夢中になって、いくら求めても求めたそばから足りないと感じる。言うなればクラウド中毒か。
クラウドはザックスの言うことが分からないという顔をしている。クラウドからしてみれば、過程がどうであれ、いつも最後にとことん啼かされているのは自分のほうで、これらの行為の主導権はほとんどザックスが握っていると感じているので、彼の言葉が意外なのだろう。
「さっきの…つまり、クラウドが俺を抱きたいっていう話な。絶対死んでもヤダとは言わねえけど…」
と言いながらも、でもやっぱりザックスは心の葛藤を完全に払拭できていないのか、ずいぶんと歯切れの悪い物言いだった。
「…まあそのうち…、うん、その……い、一回ぐらいなら…」
口の中でもごもごと言うザックスに、クラウドがふっと笑った。
「もうそれはいいよ」
「い、いいのか?」
「だって…なんかあんたとするそれを想像したら、今萎えそうだった」
「は!? 何だそれ、だってさっきはあんなに…っ」
「…というかあんた相手には別にいい」
何だかどこか引っかかる言い方だ。それは、ザックス相手にではなく、ザックスじゃない人としたいということか?
「違うよ。いい。それはもういいんだ」
クラウドは手にしたザックスの屹立の先端に唇を寄せて、少し微笑んだ。
「クラウド…?」
本当にいいんだろうか。だってさっきはあんなに。
「…それよりもこれを見ていたら、改めて気になったことがあるんだけど」
「え、な、何」
「こんなに大きいのがさ、いつも…」
クラウドが指しているのはザックスの股間のものだ。
「俺の中に入ってるっていうのが、なんだか今更だけど信じられない」
「入ってんだろ」
本当に今更だ。
今までそれこそ数え切れないくらい抱き合ってきたのに。
「ああ…だから人の身体って凄いなあと思って」
本当にクラウドは純粋に感心しているらしい。
そういえば、とザックスは今よりほんの少し前のことを思い出す。ザックスの肛門の様子を研究者か医者のような目つきで観察していたクラウドのことを。
「…クラウド、おまえ自分の尻の孔、見たことないのか」
クラウドが眉を寄せる。
「…見る場所じゃないだろう」
クラウドの答えを聞いてから、ああ、まあそうかもしれないと思い至る。ザックスも自分の尻はまじまじとは見たことがなかった。
「ふぅん」
他人が見慣れている場所を、自分の身体のことなのに当の本人が知らないというのがなんだかおもしろいなあとザックスは思う。
だったら…とその時、思いついたことをザックスはすぐに実行したくなった。
「ちょっと待ってろクラウド」
ザックスはおもむろにベッドから降りて、寝室を出ていく。再びクラウドの元に戻ってきたとき、その手には小さなハンドミラーが握られていた。
「…?」
「おいで、クラウド」
再びベッドの上に上がったザックスはシーツの上で胡座をかいた。そしてクラウドに自分の膝の上に座るように促した。
「何…?」
鏡が何なのか、どうして今持ってきたのか。
ザックスの意図が読めずにクラウドがためらっていると、ザックスは自分の股間に手を伸ばし、ゆるりとそれをしごき上げて、色っぽい顔で目を細めてクラウドを見つめた。
「クラウド」
もう一度名前を呼んでクラウドの手を引く。
やはりそれにどう対応しようか迷っている間に、クラウドはザックスの逞しい胸に自分の背を預けるようにして座らされていた。腰にザックスの熱が押しつけられて、クラウドは思わずびくりと身体を震わせる。挿入されるのかと思って身構えたのだが、そうではなかった。
後ろからザックスの手がクラウドの身体に伸びる。
「え…」
ザックスの両手がそれぞれクラウドの両足の膝裏をつかみ、左右に引く。ザックスに後ろから抱き込まれながらクラウドは思い切り大股を開くという恥ずかしい格好をさせられた。
「何す…っ」
「見えるか?」
ザックスはクラウドの足を開かせてから、手にした鏡をクラウドに見えるような角度に動かした。そこに映し出されたのはクラウドの足の間の奥まった場所だった。
クラウドは驚いて目を見開く。
そこは、先ほど見たザックスの股の間と見比べても、大きく造作が変わっているところがある訳ではない。けれど、濁ったものでいやらしく濡れている自分のその場所を初めて目にしたクラウドは、その生々しさに激しく動揺した。
もう片方のザックスの手が伸びてクラウドの窄まりに触れ、指がいたずらを仕掛ける。二本の指が蕾を暴くように動き、蜜を滴らせて赤く熟れた内部がちらりと覗いた。
クラウドは鏡から目が離せなかった。
「俺がいつも愛している場所だ」
ザックスがクラウドの耳元に唇を寄せて言う。
いつも、ザックスに愛されている、場所。
クラウドの喉が鳴る。
「ここに」
片手で少しクラウドの身体を持ち上げて、ザックスは己の屹立を拡げたクラウドの孔にあてがい、彼の身体を引き下ろす。開いたクラウドの身体が従順にゆっくりとザックスを呑み込んでいく様子を鏡はしっかりと映し出す。
「うそ…、あ、あ…、や…ぁ」
クラウドはぶるぶる震えながら、けれどその生々しい光景に魅入った。
「な。入るだろ、クラウド」
確かに入ってくる。
内壁をこすりながら進入するものが与える内側の感覚と、実際にその場所に彼の屹立が沈んでいく様を直接見れば、その事実は疑いようもなかった。
「ちゃんと見えたか?」
「…ひ…ひどい…」
こんなものを見せるなんて…。
恥ずかしさにクラウドは顔を真っ赤にして震えた。
「あと、こうすると…」
ザックスの指が今度はクラウドの胸の突起をつまむ。
クラウドは胸が弱い。粒を軽くこねくり回すようにされただけで、身体を跳ね上げるくらいに感じてしまい、甘い悲鳴を上げた。
「うん、いい喰い締め」
クラウドの耳の横で息をひとつ吐きながら満足そうにザックスが笑う。
「ザックス…っ」
さっきから人の身体を好き放題している背後の恋人をクラウドは睨みつけた。金色の長い睫の先に涙の珠が引っかかっている。
「もしかして目ぇつぶっちまった? 胸いじるとお前ん中きゅうってよく締まって動くから、それもついでに外からでも見れたらいいんじゃねえかなと思ったんだけど」
調子に乗ったザックスの指がまたクラウドのそこをつまみ上げて転がす。
「あ、あ…、ダメだって…っ」
「やっぱ目つぶっちまってる。せっかくここ、俺をおいしそうにくわえてんのに」
「馬鹿…! 最低…!」
「じゃあクラウド。次は自分で腰上げてみろよ」
いたずら好きなザックスの手の甲をクラウドの爪が抗議を込めてひっかいた。
「何言って…」
「いいからいいから。今度はちゃんと目を開けてろ。あ、ほら足を閉じたらダメだろ」
「な…、ん…っ」
ザックスの手に助けられながら、クラウドは腰を上げさせられる。入ってきたときと同じくらいゆっくりとザックスの屹立がクラウドの中から抜けていった。
熱いものでずるりと内側を荒らされる感覚にクラウドの肌が粟立つ。シーツの上についた膝から力が抜けそうになってぶるぶると震えた。
ザックスは鏡に映った光景を見て楽しんだが、勿論クラウドにはそんな余裕は全然なかった。
「や…や…やあ…っ」
クラウドは自分の身体がザックスを引きとめたがっているような反応をしているのが分かって泣きたくなった。気持ちいい。熱くて硬いものをもう一度奥まで入れて、本当は気持ちのいいところをもっとこすってほしい。抜きたくない…。
ザックスの全てが身体から抜け出ると、まるで身体の中心を支えていた柱をなくしたかのように、クラウドはぺたりとその場に尻を落としてしゃがみこんだ。
「どうだった?」
ザックスはもう一度後ろからクラウドの身体を抱きしめ、呆然としているクラウドの顔を覗き込んだ。
「………信じられない…」
「え、実際自分の目で見ても、俺のがちゃんと入ってるって信じてくれねえの?」
何かに弾かれたようにキッとクラウドが眉を跳ね上げてザックスを振り向いた。
「そういう意味じゃない! あんたそのものが信じられないって言ったんだ! か、鏡なんて…っ、この変態! なんてことさせるんだ! あんた実は俺よりすごく酔ってるだろ!?」
叫んでザックスに向けて腕を振り上げるが、難なくかわされ、逆に彼に手首を掴まれてクラウドはベッドの上に簡単に引き倒されてしまった。やはり酒のせいか身体の反応がいまいち鈍い。
「くそっ、はなせザックス!」
ただでさえウェイトで負けているザックスに上からのっしり身体ごと圧し掛かられてしまえば、クラウドはもう身動きができない。
「確かに俺、酔ってるかもしれねぇけど…だってクラウドが自分の見たことないって言うからさ、じゃあ見て欲しいなあって。あ、だったら今度ビデオに撮ってみるか」
ビデオに、撮る?
「うん、そうだよ。録画は我ながらいいアイディアだ」
どこらへんがいいアイディアなんだ。
「撮っとけば、あとでもっとたっぷりじっくり結合部分とかアップで見れるよな」
ちょ…、そ、そんなとこアップで、見なくてもいい。というか見るな。
「色々観察すれば、今まで気づかなかったことや、気にもとめなかったことが実は…って発見できたりするかもしれないし。うん、きっと勉強になるぜクラウド」
……そんなに勉強熱心だとは……。
………いや、そうだ。そうだった。興味のあるモノや好きなモノには徹底的に、それこそこれでもかって言う程しつこいくらいマメに、情熱的に、かつ勤勉になる男だった…。
「あとクラウドがいないときに寂しい俺が見て使う」
………。
「…というわけで、だ。クラウド、どうする?」
「どうするって何が…」
録画の件なら即刻却下だ。
「続き、する?」
そっちか。
そんなことをクラウドに訊きながらも、ザックスはクラウドの屹立に自分のそれを上からぐいぐいとこすりつけて、やる気満々の姿勢だ。というか、これはクラウドの口から恥ずかしい言葉を引き出したい、自分からねだって貰おうというザックスの仕掛けなのだろう。
そしてクラウドのほうはと言えば、ぬめるふたつの先端がこすれてたてるいやらしい音に誘われるように、腰が自然にシーツから浮いて揺れてしまっていた。
ザックスに身体を押し付けたい。もっと強い刺激が欲しい。
あとちょっとで、頭の中は快感と欲望に支配され、それを自分に与えてくれる唯一の存在であるザックスのことしか考えられなくなる一歩手前。
―――でも。
選ぶ道がひとつだとしても、ザックスの魂胆がわかっているのに簡単にそれに乗るのも何だかとても悔しい、ので。
「…してもいい…けど」
ザックスの首に手をのばして、クラウドは彼の身体を引き寄せる。
ふわりと柔らかく笑い、甘えるしぐさでザックスにキスをねだるように見せかけて―――。
「ザックス…」
「ん…?」
クラウドは一瞬の隙をついてザックスの膝を払い、バランスを崩した彼の身体をうまく転がして体勢を入れ替えた。
「!」
ザックスはクラウドを見上げて目をぱちぱちさせている。
クラウドは艶然と微笑んだ。
「今度こそ、俺にさせろよ」
「……へ?」
途端に焦りの浮かんだザックスの顔に、クラウドの溜飲が下がる。こんなときに人を試すようなことを言う彼へのせめてもの意趣返しだった。
「クラ…クラウド…」
ぎしぎしとベッドが鳴っている。
「…ザックス…気持ち、いい…」
「…ていうかホントもうやめて、勘弁してマジで…ん、な、なあクラ…っ」
「…だめ」
「おまえ今後は飲みすぎ禁止…っ。う、あ…っ」
「ザックスだって…、ん、…酔うと、鏡とか…ひどいことするって分かったから、これからはもう、飲みすぎのときとか近づくのやめるって…決めた」
「俺は別に、飲みすぎてないんだけど…。でも…結構興奮した、だろ、鏡…ちょ、う、クラウド、いい加減にっ」
「なんで…気持ちいいだろ。あんただって、そういう顔、してる、ん…っ」
「いいけど…、めちゃくちゃいいけどっ、この状況って俺的には、やっぱりポリシー的にちょっと…だなあ。なあ、俺もう動いてい――」
「駄目」
「こ、このまま、いかされたくねえ!」
ザックスの身体の上で、クラウドは目を細めて笑った。
「別に我慢しなくてもいいのに」
酒のせいなのか。
それともクリスマスというイベントがかけた魔法なのか。
クラウドの中で何かのストッパーが外れているとしか考えられないこの状況、あのクラウドがザックスの身体の上に自分から進んで乗っているという事実。
しっかり乗られて主導権をクラウドに奪われているという、いつもとまるで正反対の位置関係にさすがのザックスも動揺せずにはいられない。
それでもザックスのバックヴァージンはとりあえず今夜はなんとか守ることができたのだが。
クラウドはさっきから、自分からザックスの屹立を身体に迎え入れ、快楽を素直に求めるように夢中で腰を振っていた。
内壁を何度もザックスの固い屹立でこすりあげながら、クラウドがうっとりとザックスを見下ろしている。
ザックスは感じ入っているクラウドの内部に喰い締められて今にも弾けそうだった。
(これって天国? それとも地獄?)
数年前まで、キスをしただけでも顔を真っ赤にしていたのに。
今じゃ自分から男の上に跨って腰を振っている。
油断していると簡単にもっていかれそうになる。
時にはかわいらしく、時には色っぽく。昔は持っていなかったザックスを喜ばせる特殊なスキルを身につけていたりして。
決してそれがイヤだとか言うのではなくて、むしろザックス的にはそれはそれで嬉しいのだが…だが…。
……時の流れって…。
「ふ…、ザックス…まだ…?」
「もうじゅうぶんです! じゅうぶんに堪能しましたっ」
「…何それ…ん」
「降参って意味!」
「ん…」
クラウドが苦笑した。
「…じゃあ仕方がない、かな。いいよ…ザックス」
それは、さっきからずっとザックスが繰り返していた、泣きが入ったクラウドへのお願いが了承された待ちに待った瞬間だった。
「本当にいいのか…?」
「ん、い…っ」
クラウドの言葉が終わらないうちに、ザックスはクラウドの細い腰を少々乱暴な手つきで掴みなおし、少し浮いていた彼の腰をぐっと両手を使って自分の腰に押しつけるように力いっぱい引きおろした。
「ああ…っ」
衝撃にクラウドの背中が飛び跳ねた魚みたいにきれいに反った。
間髪いれずにザックスが自分を解放する。
溜めに溜めていたものが堰を切ってクラウドの最奥をめがけて内壁を濡らした。止まらない腰を下から突き上げ、奥へ、さらに奥へとねじこみ、全てを注ぎ込む。
ほとんど同時にクラウドも極める。
えも言われぬ快楽に目の裏がちかちかする。
この瞬間だけは、確かに相手の何もかもを手に入れて、身体の隅々まで満たされたような気持ちになるのだった。
*
「………」
「ん〜、おはよ、クラウド」
「…やめろ、くっつくな」
昼になろうかという時間。
明るい部屋の中、白いシーツの波間でクラウドは地の底を這うような低い声で唸った。
背中にまとわりつくザックスから逃げるように毛布を身体に巻き込んで身体を丸める。
「なんだよ、つれないなあ」
「…うるさい。頭が痛いんだ、話しかけるな」
「もしかして二日酔いか? やっぱり飲み過ぎてたか。昨日のおまえ変だったもんなあ。」
「変って…俺何か…」
不安そうな表情でクラウドがゆっくりとザックスを振り向く。ザックスは笑うとクラウドを自分の胸にぎゅうと抱き込んだ。
「もしかして昨夜のこと覚えてないとか言わないよな?」
「え…」
クラウドの顔色が微妙に変わる。
「も…勿論覚えて…る…」
クラウドの目が泳いでいる。
覚えていないんだな…とザックスは確信する。
この様子だと、必死に昨夜のことを思い出そうとしているのだろう。
「おまえのせいでホントえらい目に遭った。どうしようかって思った」
「それは…その、すまなかった…」
ザックスの言葉を信じて素直に謝るクラウドに、ザックスはこらえきれずに吹き出した。
「な、なんだよザックス」
「いや…本当に覚えてないのか、おまえ。珍しいな、いつもはこの俺が舌を巻くくらい酒にはめっぽう強いのに、呑まれるなんて」
「か…、からかったのか!?」
「そうじゃない。えらい目に遭ったってのは本当だ」
ザックスは手を伸ばしてサイドテーブルの上に置いてあった手鏡を掴んだ。クラウドに含みのある視線を送って、それを見せる。
「思い出さないか?」
最初ぽかんとしていたクラウドの顔が、見る見る赤く染まっていく。
「改めて、メリークリスマス、クラウド。今夜たっぷりお礼するから、楽しみにしてな。あ、でも酒は飲むなよ」
夜のうちに雪雲は去ったようだ。
窓の外には雲ひとつない青い空とうっすら白い雪化粧をした街の景色が広がっていた。
fin.
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