ぬくもり










 いつもすぐ側に彼がいた。
 肩に、胸に、腰に触れるぬくもり。
 温かい。
 ひとりじゃない。
 安心する。でも悲しくなる。
 思い通りにならない手足が、身体が、もどかしくて悔しい。

 あんたの足枷にしかならない自分がどうしようもなく嫌いだ。



+++



 なあ、あったかいな。
 お前に触れてるとこ、すごくあったかい。
 お前が何も話すことができなくても、自力で動けなくても、この熱を感じるとそれだけで俺は嬉しい。
 うん、安心する。
 今の俺が生きてるなって一番実感できるのはお前の体温を感じるときなんだ。
 お前も生きてて、それを感じることができる俺も生きてる。
 いくらなんでも四六時中引っ付き過ぎだって?
 はは、それくらい許してくれよ。
 くっつかないとお前連れて動けねえし…って、ごめんな、これ言い訳。
 お前がさ、結構今の俺の精神安定剤?みたいな感じでさ。

 ……大丈夫、俺いつも前向き思考だから今だけ。ごめん、今だけだから、許して。



+++



 ねえ、あれからもう何日たったんだろう。
 今どの辺を歩いてるんだろう。
 あんたの気配がちょっと疲れているような気がする。
 俺に時々話しかけてくるけど…ごめん、何を言ってるのか分からない。
 でもあんたのぬくもりだけは感じる。
 ぼんやりとした世界の中であんたの存在だけは分かるよ。側にいてくれてるって。



+++



 次はいつかな。お前の意識が戻って話ができるの。
 時間は凄く短いけど、時々「こっち側」にお前が戻ってきてくれる。
 ぼんやり宙を見ていた目に意思の力が宿って、俺の目をちゃんと見つめ返してくる。
 以前の薄青い菫色のお前の目の色、好きだったけど、今はもっと真っ青な…そうだよな、俺とお揃いの色だ。
 底の方でちろちろと揺らめく光が見え隠れする魔晄の色、お前まだ自分で見たことないだろ。
 でもソルジャーになりたかったって言っても…こんな形じゃ嬉しいわけないよな、ごめん。

 …ん、そうだよな、本当にごめんな。
 俺がもっとしっかりしてたら、こんなことにはなってなかった。
 俺がセフィロスを…そうしたらきっとお前だって…。

 ………。

 あの時。もしも。もしかしたら。

 今更いくら考えたって後悔したって「今」は変わらない。意味のないことだ。
 それよりも考えろ。
 これからどうするか。
 どうしたらいい。
 どこに行けばいい。
 何をすればいい。
 逃げて、逃げて、……でもその先に何がある?

 こんな弱気な自分は、らしくない。
 笑ってくれよ、なあ、笑えるよな。ダメだよな、ああ、分かってる。
 大丈夫。お前がいるから、俺は大丈夫。
 見失わない。
 自分を、未来を信じて、誇りを胸に。
 まだ歩ける。まだ笑える。
 お前とまた話したい。もっともっと話したいんだ。



+++



 決めたことがあるんだ。
 次に目が「覚めた」ときに。自分の意思で手足が動かせるようになったときに、しようと決めたことがあるんだ。
 ごめんね、今までありがとう。
 もう充分。俺には勿体ないくらい充分にあんたには助けてもらったから。

 俺なんかとトモダチになったせいでさ…、ううん、そうだね。あんたのことだから例えトモダチじゃなくたって、それが名前も知らないような人だったとしても、隣に自分と同じように囚われ自由を奪われた境遇の人間がいたとしたら、それを放ったまま自分だけ逃げ出すなんてことしないんだろうな。そういうのに自分の損得や先のあれこれとか考えないで行動できる人だから…あんたのそういうとこ馬鹿だと思うけど凄いと思うよ。俺は色々考えちゃうからきっとできない。

 ねえ、きっと今だけだから。
 後悔とか罪悪感を感じるのはほんの一瞬だけ。
 だから俺のことは、もう捨てていって。
 人のいいあんたのことだから、自分からはきっと思い切れないだろ。だから決めたんだ。
 今度自分の手が動くときには。

 早くそのときが来ないかともうずっと祈ってる。
 それまでは傍らのぬくもりを、俺を友と呼んでくれたあんたのことを出来る限り感じて、覚えておきたいと思う。
 怖くないよ。
 あんたのためだから、あんたのためになるんなら怖くない。















「………、」
 目が覚めた。
 辺りは薄暗かった。近くに川が流れているのだろうか、かすかにせせらぎが聞こえる。
 頭上を見上げると生い茂った木々の間から星空が見えた。
 少し湿った土の匂いが鼻を刺激する。
「………」
 自分の身体をすっぽりと包みこむ温かい存在を探って…クラウドは瞠目した。
 後ろから胸の前に回された逞しい腕は、思うようにならないクラウドの身体をここまでずっと支えてきてくれたものだ。
 ザックスはクラウドの身体を後ろから抱え込むようにして、陰になる木の幹の下に座り込んでいた。
 四六時中寄り添うようにしてここまで歩いてきて、離れている時間のほうが少ないくらいだったが、立ち止まって身体を休めている今の二人には、この距離は少し近すぎるような気がしてクラウドは動揺した。
 クラウドの身体を逃がすまいとしているかのように、あるいは彼をあらゆるものから守るのだという強い意思を表すかのように、腕の中にがしりと閉じ込めているようだった。身動きができないくらいにしっかりと抱き込まれている。彼は眠っているようだった。
 クラウドは目だけを動かしてザックスのすぐ横の地面に突き刺さって立っている大剣の存在を確かめた。

 次に目が覚めたときには、クラウドはそう決めていた。
 しかしそれは、手が届きそうな距離なのにザックスの腕に阻まれて届きそうもなかった。
 他に何か代わりになりそうなものは…。
 クラウドは自分の身体や服には武器になりそうなものはひとつもないことを知っていた。それについて、ザックスがクラウドには必要ないものだからと持たせていないのか、意図して彼から遠ざけているのかまでは分からない。
 ザックスが携帯している武器は、愛剣のバスターソード…今横に刺さっている大きなのこぎりのような大剣と、彼の腰のベルトの後ろ側に挿しているサバイバルナイフだけだった。いくつか攻撃系の魔法が使用できるマテリアも持っているようだが、クラウドには使いこなせそうにない高等魔法のものばかりだった。

 何か…自分を傷つけることが出来る何かがないだろうか。
 脇のバスターソードを見、それからサバイバルナイフの存在を意識し、しかしいずれも自分の後ろにいる男の眠りを妨げずに手にすることはできそうにないと判断する。多分自分がほんの少し身じろぎするだけでも、感覚や気配に鋭敏な彼は目を覚ましてしまうだろう。そうすれば自分の計画は止められてしまうだろうから意味がない。
 剣やナイフの代わりになるもの…何か、何か、何かないか。
 ふと、折れて地面に落ちている短い木の枝が目に入った。
 こんなものでも、強い力で真っ直ぐに突き刺せば、あるいは。
 後ろの男に気取られないように慎重に指を動かす。胸が嫌な具合に高鳴った。
 これで。これを使えば。
 指先が枝に届く。革のグローブ越しに確かな感触を得た。
 手にしたら迷う暇はない。
 この細さでは胸を刺すのには頼りないかもしれない。喉がいい。動脈を破る位置を確実に。
 回復魔法なんて間に合わないくらいに血を噴き出させればいい。

(もうあんたの足手まといにはなりたくないんだ。そんなふうにしかなれない自分が許せないから)

 だからあんたが俺を捨てていけるようにと、考えて決めた。
 もう連れて歩かなくてもいいように、歩けない状態にすること。
 今の自分に出来る唯一のこと、それが今の自分にできる唯一の恩返しだと思うから。



「馬鹿なこと考えんな」
 耳元で声がした。
 枝を持ち上げようとした手首を握られる。はっとして視線を転じれば、クラウドの顔のすぐ横で溜息のような音が漏れた。
「……ックス……、」
 彼が起きてしまった。失敗してしまった。絶望に似た気持ちが数瞬で胸に満ちた。
 でも、と思う。
 いくら気配に敏感な彼でも、人の心の中までを読み取れるわけではない。クラウドが何をしようとしていたかまでは分かっていないのではないか。だったらまだ隙を見て…それこそザックスが自分で動けるクラウドを見て警戒を解き、この囲い込む腕を外してからのほうが、そのチャンスはあるのではないか。武器にも容易く手が届く。
「お…、起こしてごめん…」
 努めて何でもないというようにクラウドは声を出した。
 ザックスは掴んだクラウドの手首をそのまま離さずに、なぜかより一層腕の中の彼の身体に自分の身体をくっつけて抱き締めた。
「……ん…、久しぶり、クラウド」
 ザックスのこめかみが、クラウドのこめかみにことんとぶつかった。
 彼の低い声の響きにクラウドの心は揺れた。久しぶり、という言い回しが切ない。ずっと自分たちは一緒にいたはずなのに。
「……あれから何日たったんだ」
「…何日かな。数えてない。大分歩いたけど、どこか足が痛むとか変なとこないか」
「……俺は大丈夫。あんたこそどっか辛いとこはない…?」
「ないけど……辛いことなら…」
「………何?」
「何を話しかけてもお前にずっと無視されてたことかな。アレは案外傷つく」
 本気で言っているのか、からかいの類なのかクラウドには区別がつかなかった。
「…何言ってるんだよ。別に無視したくてしてるわけじゃ…だったら話しかけなきゃいいのに」
「うん、変なこと言った。俺が勝手にしてることだから気にすんな」
「……」
 クラウドを抱き締めたままザックスはなかなか放そうとしなかった。
 発する言葉はしっかりしているが、もしかしたらまだ寝ぼけているのだろうか。思えば夜にこうしてクラウドが自我を取り戻したのは初めてで、いつも自分が知らないときに自分にこうして腕を回しザックスは寝ていたのだろうかと想像してクラウドは妙にどぎまぎした。誰も見ていないとはいえ、何だか恥ずかしい。こんなふうな体勢や接触が許されるのは、親子か恋人かではないかと思う。友達ではありえないのではないか。
「……ね、ザックス、いい加減手放して……」
 いつもずっと感じていた彼の温もりだったが、意識が戻った今、改めてその存在を意識するとクラウドは落ち着かない気分になった。意識がぼんやりしているときに感じる熱はクラウドの心を安心させることができる唯一のものだったのに、なぜ今はこんなに心を乱すものに変わってしまっているのだろう。
 それと同時に、さっきまでの決意が揺さぶられてしまうような気がして怖くなった。
 早く、そうだ、早く早く早く。
 傍らに突き刺さっている大剣に目が吸い寄せられる。それから地面の小枝。何でもいい、早くしなければと心が急く。
 またアレに飲み込まれる前に。
 今度はいつまた自分で手足を動かせるようになるか分からないのだから。
 だから早くしなければ。

 しかし掴まれて動きを制限された手首は、自由にしてもらえるどころか反対に力がこめられた。
「だから馬鹿なこと考えんのやめろって言ってるだろ」
「……え?」
 ザックスのその言葉と、彼が少し動いたせいで背中の温もりが離れたのにクラウドは気を取られた。無意識に背後のザックスの方を振り向こうとしたら、ごく近くで何かがぶつかったような鈍い音、続いて地面の上を何か重たいものが滑っていくような音がした。びっくりしてクラウドが音のしたほうに慌てて視線を向けると、すぐ隣に突き刺さって立っていたはずの大剣が地面から抜け、少し離れたところに土にまみれて転がっていた。
 ザックスが腰を下ろしたまま器用に片足を振り上げて剣を蹴り倒し、遠ざけたのだ。
 はっとして、クラウドは再び背後に視線を戻した。
 背中にひやりと冷たいものが走る。まさか、気づかれている…?
「んな思いつめた目でちらちら何度もソレ見てたらいくら俺でも分かるって。それにずっと引っ付いてるせいかな、お前の考えてること、前より分かるような気がする」
「……何が…、あんたが何言ってるのか分かんな……」
 早くしないと。
 身体が震えた。
 早く、早く。傷つけられるものなら何だっていい、急がなければ。決めたんだ。決めたんだ、俺は死―――。


「死ぬなんて、考えるな」


 力強い腕に再び引き寄せられ、クラウドは抱きしめられた。
 耳元で告げられたその言葉。
 低く、うなるように、けれどその短い言葉にこめられた男の想いや、いつもは鳴りをひそめている真摯さが伝わってきた。それがかえって張りつめていたクラウドの中の何かを弾けさせた。
「っ!!」
 クラウドは何かのスイッチが入ったかのように、途端に暴れだした。
 手足をやみくもに動かし何とかしてザックスの腕の中から抜け出そうともがく。魔晄中毒でぼんやりしているときには糸の切れたマリオネットのように頼りないクラウドだが、こうして本気の力でバタつかれると、今や彼の身体能力がソルジャーのそれと等しいのだということを嫌でも思い知らされる。さすがのザックスも押さえ込むのに苦労した。
 ザックスはそれでも掴んだ彼の右の手首だけは放さなかったが、暴れる彼の左の拳が顎を叩いたり肘が鳩尾に入ったり、身体をひねろうとするクラウドの膝に危うく急所を蹴り上げられそうになったりで…しばらくの間、逃れようとするクラウドとそれを押さえ込もうとするザックスの攻防が続いた。
「……っ」
「落ち着け、クラウドっ」
 そうしてようやくクラウドの動きを封じてザックスが地面に彼の身体を縫いとめた頃には、二人とも全身を土で汚し、クラウドの髪の毛には枯葉がからまっていた。
 ザックスはクラウドの両手首を地面に押さえつけ、自分の身体の下に敷いた彼を見下ろした。
 息を乱し、射殺さんばかりの険しい視線で睨んでくるクラウドに、彼の常にない激した内側が見えるようだった。
 クラウドはザックスを見、それからまた地面に横たわっているバスターソードに目をやる。
「放せっ、頼むから放してくれっ!!俺は…、俺は……っ」
「お前が馬鹿な考えを捨てるまで放さない」
「早くしないとまた俺…時間がないんだ、早く…っ」
「じゃあお前の意識がまたなくなるまで俺はこうしてる」
「いやなんだ、もういや…っ、頼むからザックスっ」
「クラウド」
「お願い、ザックス、ザック…っ、」

 どん、とクラウドの胸の上に小さな衝撃がおちた。
 それはザックスの額だった。おでこをクラウドの心臓の上に落とし、ぽつりと呟いた。


「生きてくれよ」


 彼には似つかわしくない弱弱しい響きだった。
 クラウドは悲しくなった。
 やるせない気持ちで胸が詰まった。
 彼にこんな声を出させるのは何だというのか。
 自分達の今のこの状況を、どうして、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
 何が悪かった? どうして、どうして…。考えても、答えをみつけたとしても、何かを恨んだって何も現状は変わらない。クラウドに分かるのは自分が魔晄中毒で身体が思うようにならないこと。目の前のこの男の足枷になっているということ…。

「………だって、俺もう嫌なんだ。あんたの足手まといになるの、嫌…。あんただって俺がいないほうが……」
 クラウドの目尻を涙が伝い落ちた。
「お前がいないと、ダメだ」
 何かを堪えたせいでかえって口調が平坦になったような声が胸元から聞こえた。
 クラウドは首をゆるく横に振った。
「ねえ、頼むから俺を置いていって。ひとりで逃げて。俺なら一人で大丈夫」
「何が大丈夫なんだよ。お前一人じゃなんにもできねえんだぞ」
「平気。…俺を置いてくのが気分悪いって言うんなら、ちょっとそこら辺偵察に行くみたいな振りして俺から離れてもいいからさ、それで帰ってこなくても俺文句言わないし恨まないよ。意識ないときに置いてくんなら、それこそ何も分からないだろうから…」
 ザックスが額をぎゅっと胸に押し付けてきた。
「そんなことしない。絶対にしない」
「分かってるだろ、ザックス。生き残るためには何が一番いいのかなんてとっくに」
「神羅に裏切られた。知っている人と別れたり大切だった人を喪った。昔同僚だった人も手にかけた。なあ…俺まだそんなに長く生きてきたって気はしねえんだけど、色んなことがあったなあって思う。何を信じたらいいのか分かんなくなることもあって…でもさ、お前のことだけはずっと別だった」
「…ザックス」
「今の俺を支えてるのは、お前だと思う。だから俺のために生きてくれないか」



 いつも前向きに歩けるわけじゃない。
 逃げて、逃げた先に何があるのかとか、この先自分たちはどうなるのだろうと考えると不安になる。
 本当は絶望感や閉塞感に打ちのめされそうになる時がある。けれど。
 自分に寄り添う温もりの存在を思い出すと、心が落ち着いた。

 ひとりじゃない。
 自分はひとりじゃない。

 守りたいと思う気持ちは、力になるから。



「……泣いてるの、ザックス」
「泣いてんのは…お前だろ」
「…ザックス、手を放して」
「お前が心を改めるまでは放さないって言った…」
「今日は諦めた…から…」
 今日は、という言葉が引っかかったが、ザックスが手を放すと、おずおずとした動作でザックスの背にクラウドが腕を回してきた。
 優しくなだめるような掌の感触に、ザックスは本当に鼻の奥がツンとして視界が歪むのを自覚した。
「…ねえ、夢ぐらい見てもいいよね。無事に逃げられたらさ…おいしいものいっぱい食べて、遊んでさ…、…ザックスは友達いっぱいるから、会いたい人いっぱいいるんだろ。ミッドガルに残してきた彼女にもちゃんと会ってさ…、いつだったか話してくれたよね、教会で会った子…一緒に花売りのワゴンを作ったんだって…、会いに行かないと心配してるよ……」
 思い出す、空が怖いと言っていた彼女の顔。交わした約束。
 あの日からなんて遠くまで来てしまったのだろう。
 届かない。戻れない。
 今の自分にあるのはこの友人の温もりだけだ。
 抱き返してくれる腕が嬉しい。その存在に感謝したくなる。これだけは失いたくない。
 これが全て、自分の全て。守るべきもの、失えないもの。
「……うん、そうだな。腹いっぱい食おうな。馬鹿みたいに笑って、おかしく過ごしてさ、少しぐらい羽目を外したっていいよな。だから一緒に…」
 クラウドの手から急に力が抜けて、地面の上にぱたりと落ちた。
 ザックスが顔を上げてクラウドをうかがうと、その目はもう焦点がぼやけ、ただ虚ろに開いているだけだった。
 ああ、また彼は戻ってしまったのかと、ザックスは自分の胸に走った痛みを見ない振りをして、涙に濡れたままのクラウドの顔に指を伸ばそうとして…、泥にまみれている己のグローブに気づき、それを指から引き抜いた。
 指先で彼の涙に触れる。
 クラウドは何の反応ももう返そうとしなかった。
 それでも、温かい。温かいから、側にいて欲しい。


「ずっと一緒だ、クラウド」


 決意を口にして、彼の白い面を両手で包み込むと、そっと彼の額に自分のそれを押し当てた。
 それはもう何度目になるか分からない自分自身への誓いだった。










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