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STEPS+
「ホントに青あざだ…」
内出血は予想以上に広範囲で白い肌に無粋な染みを作っていた。
ザックスが青く変色した箇所を指で軽く押すと、ベッドの上、己の体の下に敷きこんだクラウドの背中がびくんと揺れた。
「や、いった…っ」
それと同時にザックスのものを包むクラウドの内部がぎゅうと収縮する。
かわいらしい悲鳴を上げた後、ふるえながら背後のザックスを振り向いたクラウドの瞳は涙に濡れていたが、その頬は薔薇色に上気していた。
「…ひどい…」
涙のしずくが玉となって長い金色のまつげの先に引っかかっている。それが綺麗だと思って、ザックスは体をつないだままクラウドの背中に自分の体を寄せるように倒し、そのしずくに自らの唇を寄せた。
「…あ、」
ザックスが動いたせいで体の奥に差し込まれているものの角度が変わり、それはクラウドの中の敏感な場所を容赦なく擦りあげた。
クラウドはいつも深く犯されるおそれと、深く犯されたいという欲求、相反する感情に心がもみくちゃになる。
窓の外はいつの間に日が暮れたのか暗くなっていた。
いくらふたりそろっての久しぶりの休日だと言っても、日の高いうちからベッドで過ごす羽目になろうとはクラウドは微塵も予想していなかった。夜はともかく、久しぶりにのんびり体を休められると思っていたのに…。
長い時間をかけて愛され何度もザックスを受け止めているその場所は、その証にしとどに濡れている。
前から後ろから、力強く身体の奥に自分を刻もうとするザックスに、クラウドは翻弄され、息苦しさを覚えるほどだったが、長い時間そうして彼を体の中に感じているせいなのか、二人の体がひとつに繋がっていることが、当たり前のように――離れていることのほうが不自然であるかのごとくクラウドには思えてくる。
それほどまでに体に馴染んでいる。
ザックスもそう感じてくれていると嬉しいのにと思いながらクラウドがザックスを再度振り返れば、視線があった途端に彼は幸せそうに笑った。そしてクラウドの足を掴んで彼の体を軽々と返し、正面から抱きしめた。
体を繋いだままの少々乱暴な行為にクラウドが悲鳴を上げるが、ザックスは口付けて声を封じた。
結局、痣を見るだけにとどまらずこういうことになっている。クラウドの予想通りというかなんというか…。
「俺が浮気してないって分かったかクラウド」
「…も、それは…っ」
ザックスはクラウドの十分に熟れて蜜を滴らせている内部を入り口から最奥まで己のものでゆるりと突き上げた。意地の悪い笑みがその口許に浮かんでいる。
クラウドは息をつめて己を襲う感覚をやり過ごそうとする。感じすぎて正直つらい。
「相互理解をより深めようって、俺なりのやり方で精一杯にだな…つまり、さっきも言ったけど俺がお前をどんなに好きかっていうのを行動で示しつつ、お前にも俺という人間をこの際とことん知ってもらいたくて頑張ってるんだけど。んで、やっぱりこういうのは深い接触が効果的でよいと思うので、ぶっちゃけセックス頑張ってる」
「…い、意味分からない! こんなの、いつもと、同じじゃないかっ」
「同じじゃねえよー、いつもより十割増ぐらいに気持ち込めまくってるし。で、こうやってお前抱いて、俺はこれっぽっちもお前のこと疑わないくらい、お前のことわかったし、今はもう信じられる」
「いたい、アザのとこ押さないでよ…っ。分かった、俺も分かったから、も…っ」
「なんだよー、その言い方」
「だったらどう言えばいいんだよっ」
クラウドにだってちゃんと分かっている。
自分をこんなにも求めてくれているザックスの気持ちに嘘偽りはなく、何のよどみも躊躇いも後ろめたさもなく、迷うことなくクラウドへ愛情をまっすぐに向けている。
クラウドだけを見つめ、愛しているということが分かる。
即物的な手段だが、確かにザックスがいつもの数倍心をこめているというセックスが、その彼の心のありようを、視線で、熱で、ささやきでクラウドに伝えたていた。
「ほら、ちゃんと答えて、クラウド」
「…ックス…っ」
「おまえは俺のもんだろ?」
目をぎゅっと瞑ってクラウドはこくこくと頷いた。
動きを止めてしまった彼がうらめしい。
我慢ができない。疼いて欲しがるその場所が、彼をもっともっと感じたくてたまらなくなっている。
「す、き…っ、ザックスは、俺の、だから…、だから…っ」
もうじっとしていられない。
クラウドはシーツを握り締めて震える顎を引き、涙で視界が滲む瞳でザックスを見上げた。
動いて欲しい。でも羞恥が邪魔をして言葉に出来ない。
逃がさないとでもいうように、ザックスはクラウドの腰を大きなてのひらで掴んでいる。
「そうだ、俺はお前のもんだ」
ザックスは男らしい笑みを浮かべて、ふっと笑う。
余裕が全然ないクラウドに比べて、ザックスは多少速くなった呼吸に逞しい胸を上下させてはいたが、落ち着いた表情でクラウドを見下ろしていた。それがなんだかすごく理不尽な気がするクラウドだった。
「……っ」
意趣返しのつもりで体内を埋める彼のものをぎゅっと力を入れて締めてやった。
そのクラウドからの珍しい反撃に、ザックスは目を眇めてから、面白そうににやりと笑った。
「あ…っ!?」
クラウドは即座に後悔した。
これ以上はないだろうと思われるほどに彼の形にそって拡がっていたクラウドの隘路だったが、クラウドが与えた刺激によってザックスのその場所は一段と膨らんでクラウドを圧迫したからだった。
「俺を誘うの上手になったなぁ、クラウド」
「ち、ちが…っ」
「そう、俺のコレもお前のもんだよ。お前、ちゃんと分かってるな」
「そんなつもりじゃな…」
「違うのか?」
「…っ」
ザックスは少しだけ身を引いてクラウドの様子を見ている。
セックスのとき、ザックスは少しだけいつもより意地悪だ。
わざとそうしてクラウドの口から言葉を引き出そうとする。
クラウドは悔しかったけれど、誘惑に負けた。
余裕ぶっているザックスだって、本当はきっと――それはクラウドの確信だった。
だって自分たちは今、分かり合っている。
身を浮かし、目の前の愛しい身体に腕を伸ばして引き寄せる。
「もちろん、俺の…っっ!!」
全部、全部俺の。
ザックスにだけ届くように耳元で言う。
ザックスは満足げに笑うと、褒美に噛み付くような熱いキスと「愛してる」の言葉を自分の腕の中に贈った。
そしてかわいい恋人にねだられるまま、すぐさま突き上げを開始した。
*
「……」
「おはよ、クラウド」
窓の外から差し込む日の光が、瞼を開いたばかりのクラウドには刺すように痛かった。
枕から外れてシーツの上に頭を転がしているクラウドは、声がするほうにゆっくりと視線を動かした。
こめかみのあたりを指でくすぐられている感触がする。
すぐ横で片肘をついてこちらを見下ろしている蒼い瞳とぶつかった。
くすぐったいのは、彼が自分の髪の毛をいじっているせいだった。
まだ頭がぼんやりして夢見心地だ。
「…何時…?」
起き抜けは、舌足らずで何となく幼い口調になってしまう。
「まだ寝てても平気。でも…大丈夫かな。ちょっとやりすぎたかも?」
やりすぎた、というのは、昨日の昼から夜にかけてのベッドでの行為のことだ。
終始やたらとしつこくてあらゆることが濃厚だったザックスの所業を思い出しそうになって、慌ててクラウドは頭を横に振ってそれを頭から追い出した。
おかげで一気に目が覚めた。
赤くなっているであろう顔を隠したくて、クラウドはもぞもぞと毛布の中に頭を引っ込めた。
「クラウド?」
呼びかけられたって顔を出すもんかとクラウドは毛布の中で身体を丸める。
昨日は色々と…本当に色々と思い出したくないことをしたし、されたし、言わされたり、言われたような気がする。
途中からはもう何がなんだか分からなくなってよくは覚えていないけれど、かなり泣かされたような気がする。瞼がなんだかはれぼったい。そのたぶん…気持ちよすぎて泣いて…自分からしがみついてもっと欲しいなんてねだっていたような気もするし…本当に、本当に思い出したくない。恥ずかしすぎる。
「痣だけどさ」
毛布越しに頭上からザックスの声がした。
彼は無理に毛布を剥ぎ取ろうとは思わないらしい。今のクラウドにとってそれはありがたかった。
「さっき見たら、結構色が薄くなってきてるし、魔法あてるほどじゃない気がするから、そのままにしといてるけど、どうする?」
そういえば自分が作った間抜けな痣がきっかけで、昨日はごちゃごちゃ色々あったのだった…。
「…別に、そのままでいい…」
治りかけているのなら、余計な手間をかける必要はない。
「んー、そうだな。でも結構使えるよな、痣」
「…?」
使えるって何に?
クラウドが疑問に思ってそろりと毛布から顔を出したら、にっこり爽やかに笑うザックスの顔がすぐ目の前に待っていた。クラウドにはその笑顔に何か裏があるような気がして、ちょっと腰が引け気味になる。
「だって昨日、痛いとこ攻めたら、お前ん中が絶妙に―――」
やっぱりザックスらしく、朝から爽やかな顔をしながらそっち系のネタだった。
「わあああ何言ってんだ、へ、へへ変態ーーーっ!!!」
久しぶりの逢瀬。
充分に時間をかけて互いを確かめ合ったふたりの朝は、とても幸せでにぎやかに過ぎていくのだった。
このあと、やはりというかクラウドがベッドから起き上がることができなくてどたばたするのだが、それはまたそれということで。
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