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04 待ちに待った夜…?(枕問題解決編)
「…ところでザックス、一度聞こうと思ってたんだけど。まさかこの旅行計画したのって、ただ単にセックスしたかったからとかって言わないよな?」
「白状するとそれもあるかなー」
「や…っ、やっぱり…! 最低だっ!」
「ちょお待て、『も』って言っただろが、それ『も』あるって!」
「死ねばかっ、あっちいけっ」
「え、ええっ、ちょっ、待ってクラウド! いい加減俺もう限界だから! したい、させて、しよう! な!?」
「知るかっ!」
「クラウドーーーっ」
***
その夜、クラウドとザックスの二人は、チョコボ小屋の片隅で一夜を過ごした。
二年前の当時、クラウドはこの牧場で宿を借りて休んだことがあったのだが、よくよく事情を聞くと、 牧場を経営している祖父のグリン、孫のグリングリン、クリンの三人が住む家にある三つの寝具、クラウドや仲間たちが昔借りたことのあるそれらは、彼らが常日頃使用しているもので、客のニーズに応じて貸しているのだという。事情を知ってしまった後で老人や若者達を追い出してベッドを占領する気にはなれなかったので、クリンには勧められたが丁重に断り、二人は空いているチョコぼうを借りて藁の上で休んだのだった。
チョコボが身体の下に敷いて寝床にもしている藁を大人二人が寝られるくらいの広さに敷き詰めた。
早速ティファからの餞別の枕を役立てられる機会だと、クラウドがその上に枕を置く。
カンセルの「NOを表にしろ」という言葉を思い出し、YESが上だったのをひっくり返した。
脇でそれを見ていたザックスが小さく舌打ちした。
「何?」
「うんにゃ、何でもー」
「?」
「寝るかー」
「うん」
ザックスは頭の後ろで指を組み、クラウドの横にごろりと身体を転がした。クラウドも続いて横になる。
「やっぱりチョコボくせぇな」
「でも星が見える」
小屋の中は窓から差し込む月明かりでほのかに明るかった。
まだ眠りについていないチョコボが体を動かしているのか、かさかさと藁を踏みしめる音が小屋の中で聞こえる。
「……そういえば、この隣の隣のチョコぼうに仲良さそうな二羽がいっしょに入ってたな」
「カップリングルームだろ、卵産ませるとこ」
クラウドは欠伸をした。再度窓の向こうを見上げたら、星の瞬きが滲んで見えた。
ザックスがいいこと思いついたといわんばかりに嬉々とした顔で振り向く。
「なあなあクラウド、俺たちも負けずにカップリング…」
「俺はそういう冗談好きじゃない」
クラウドはザックスに皆まで言わせず、ぴしゃりと言い放つ。
こんな場所でやろうって言う神経がまるで分からないクラウドだった。
「ちぇー」
ぶつぶつ言う声がどこか遠くで聞こえる。
そのときはもう、クラウドは眠りの世界に半分ほど引き込まれていた。
昼間、らしくもなくチョコボに乗って浮かれすぎたのかもしれない、と思う。
「ザッ…ス……」
下りた瞼をもう持ち上げることもできず、おぼつかない動作で隣に手を伸ばした。指先が多分彼のシャツに触れた。 それだけでクラウドは安心した。
「…おやすみ。……明日…な…」
また、明日。
ちゃんと言葉になったかどうかは分からなかった。
伸ばした指にザックスの乾いた指が絡まり、クラウドは口許に笑みを浮かべた。大きくていつも自分を包んでくれる大好きな、大好きな彼の手だ。
「おやすみ」
意識を手放す直前に、優しい声と、チョコボの羽毛のような柔らかい口付けをクラウドは頬に感じた。
***
で、それが昨夜のこと。
今現在二人はコンドルフォートにいた。
コンドルフォートは、古い魔晄炉を利用した砦だ。
その頂上に巨大なコンドルが巣を作ることが名前の由来で、毎年季節になるとその光景が見られる。その噂が地味に広がり、この頃ではぼちぼち観光客なども訪れているらしい。
二年前は、壁や床から突き出した配管が建物の中を縦横無尽に走る何の飾り気も洒落たところもない場所だった。だが観光客が落としていく土産代(コンドルの卵の殻がいつの間にか幸運のお守りという噂が広まった)や飲食代、宿泊代などの収入増で住人の生活にも金銭的な余裕が出来、砦内部を改装した結果、今では素朴さを残しつつも大分明るくて快適な場所に変貌していた。
売店の店先には、卵の殻をネックレスやリング、ストラップなどに加工したかわいらしいものたちが飾られている。「コンドルの卵饅頭」も人気商品のひとつだ。元からあった武器防具屋は目立たない奥の方に引っ込んでいた。
クラウドたちがコンドルフォートに到着したのは夕方。
朝、牧場をあとにした二人は、湿地帯で大蛇ミドガルズオルムをウォーミングアップも兼ねて仕留めたあと、ミスリルマインを抜けて延々とコンドルフォートまで歩いた。牧場で一応チョコボを借りたのだが、二人がミドガルズオルムと格闘しているうちにどこかへ鳥たちは行ってしまったのだ。
砦に着いてすぐ、宿の手配は俺がするからと言うザックスに、クラウドはさしたる疑問も持たずに手続きを任せた。
さすがに一日中歩きっぱなしだと足に疲れを覚える。早く部屋に入って靴を脱ぎたいと思いながら、手持ち無沙汰なクラウドは近くにあった売店を何となく覗いた。
なるほど、硬くて厚い卵の殻を器用に加工してあるものだと思う。
クラウドは吊り下げられたストラップを指でつついた。繊細で見事な透かし彫りがされている。マリンに買っていったら喜ぶかな…と考えていると、店員の男に声をかけられた。
「どうだい、旅の思い出にひとつ」
「いくら?」
「300ギルだよ。こっちのは500ギル」
「うーん…」
「ストラップが一番人気があるよ。…おや、面白いもん背負ってるなぁ兄さん。そういうの、若いモンの間で流行ってんのかい。何かの主張とか」
「え?」
男が笑いながら話題にしたのは、クラウドの背にある枕のことだった。
「最近の若いモンはそういうのにオープンだからねぇ。人前でも平気でべたべたしてるからなぁ、おじさんくらいの年の人間はちょいと戸惑うけどね。いいねえ、それじゃあここには恋人と来たのかい?」
「え、あの、すみません、言ってる意味がよく分からな…」
「その枕、アレだろ、夜に恋人同士が使うやつ。違うのかい?」
「え……」
夜に、恋人が、使う?
「クラウドー、部屋取れた。行こーぜ」
その声に振り向くと、鍵を手に持ったザックスが満面の笑みでこちらに手を振っている。…鍵? クラウドが以前ここに来たときに泊まった部屋は、何人もの人間が雑魚寝するような集団部屋だったから、今回もそんな部屋に泊まるのだと勝手に思い込んでいた。違うのだろうか?
調子よく鼻歌を歌うザックスの後に続いて通されたのは、ベッドが二つ並んだバスつきの部屋だった。
アンティーク調の落ち着いた色合いの家具が置いてある。床に敷かれた薄いベージュ色の絨毯が室内を明るく見せていた。観光客のために最近になって新たに作った部屋らしい。
「……この部屋、高かったんじゃないのか」
「んー? そうでもねえよ」
部屋に入るなり早速ザックスは背中の荷物を床に降ろした。ブーツの紐を解き、脱いで放り投げると、片方のベッドにぼすんと勢いよく寝転がった。
「はー、伸びるー」
「………」
部屋の入り口に立ったままのクラウドをザックスは手招きした。
「そんなとこに突っ立ってないでこっち来いよ、ほら」
「……ザックス、聞きたいことがあるんだけど」
「何? あ、風呂先に入る? 汗流しちまったほうが気持ちいいよな。風呂場風呂場っと」
さっきまでのテンションとは明らかに違うザックスが、ベッドを飛び降りてうきうきとスキップしそうな足取りでバスルームの扉を開き、中を覗いている。
…何この元気、と思うと、反対にクラウドの方は疲れがどっと押し寄せてきて身体が重くなってきた。
「結構広いぜ。よしよし。お湯ためるか? それともシャワーにしとく?」
「…ザックス」
「ん?」
ザックスが振り向くと、クラウドは眉間にシワを寄せて、背中から外した例の枕を両手で持っていた。
「この枕、一体何なんだ」
まだバスルームの扉にくっついたままのザックスに向けて、枕を突きつける。
「何って…、えと、ティファから貰った餞別だろ?」
「さっき売店の人が言ってた。これ、夜に恋人同士が使うんだって。昨日カンセルさんも気になること言ってたよな。書いてある文字が重要みたいなこと」
「………」
ザックスが口許に笑いをはり付かせたまま固まっている。
「ザックス、知ってるんだろ」
詰め寄られザックスは逃げ場をなくす。
挙動不審な視線を上下左右にさまよわせた後(何かしらの葛藤がザックスの中であったらしい)、ザックスは大きく溜息をつき、首の裏をガシガシと指でかきながら言った。
「ええと、つまりだな…、それって昼日中に堂々と持ち歩くようなものじゃなくて…」
「前置きはいい。簡潔に説明しろ」
すいません、目がマジで怖いですクラウドさん…。
しらばっくれときゃよかったかなとザックスは後悔したがもう遅い。
「…書いてある文字通りYesNo枕と言って、恋人同士の生活をそっと手助けするアイテム、ってとこかな…」
「手助けする?」
「ほら、意思の疎通とかその辺のビミョーなのって恋人同士だってなかなかうまくいかないときあんだろ? アレとかも俺がものすっごい盛り上がってても、お前の方はイマイチ乗れない、とかそうゆーの」
「あれ?」
「具体的に言うと、例えば俺が『今日は朝まで寝かせねぇくらい頑張っちゃうぜ!』と思って寝室に飛び込んだとする。でもお前は『今日は疲れてるから寝かせてー』みたいなとき、そういう擦れ違いを口に出してお互いやりあうと、カドが立つことってあるだろ。でもな、この枕をさりげなくこう…ちょっと貸してみな」
ザックスは、クラウドの手から枕を受け取り、“NO”の文字が書いてあるほうを上に向けてから、ぽんとその表面を片手で叩いた。
「こっち上に向けてクラウドが寝てたら『今日はする気ないんだなー』って見ただけで分かるわけだよ、俺が行動起こす前にな。反対に」
枕をひっくり返す。
「こっちが上だったら『オッケー』ってこと。まあシャレみたいなとこもある恋人同士のコミュニケーションアイテムっつーとこ? うまく使えば夜のあれやこれも盛り上がる、みたいな」
それって、それって…。
「な、な、な、な…っ、」
こういうときのクラウドの表情の変化は分かりやすい。
見る見る顔が赤く染まり、わなわなと肩が震え始める。
「お…、俺そんなのずっと……」
知らなかったとは言え、そんなものを堂々と背中にぶら下げて人前を歩いてたなんて、そりゃショックだろう。
枕の使い方を知っていて、それを知らせずにいた自分にクラウドの怒りと羞恥の矛先が向けられるだろうことは、当然ザックスの予想の範囲内だった。
「しっ、知ってたんなら何で教えてくれなかったんだよ!? 教えてくれてたら持ってこなかった! すっごく恥ずかしいじゃないか…っ」
顔を真っ赤にさせて叫ぶクラウドは泣きそう…というか本当に泣いていた。赤く染まった目尻がきらりと光る。
「だって最初からクラウド、持って行く気満々だったじゃん。俺は荷物になるから持ってくのやめろって一応言ったぜ?」
「だって、だって、だって、折角ティファが…っ」
「うんうんそうだよな、彼女のプレゼントを邪険にはできないもんなぁ、ちょーっとクラウド後ろ向いて、ほら」
「そもそも何でティファはこんなの俺に…って、え? う、後ろ!?」
「そ、…よっと」
「あ!?」
次の瞬間、ふわりとクラウドの身体が浮き、弧を描いて宙を飛んだ。
どさりと音を立てて彼の身体が移動した先は、二つあるベッドのうち、バスルームに近い方のベッドの上。スプリングが音を立ててきしむ。
一瞬の出来事だったが、振り返ろうとしたクラウドの身体をザックスが素早く横抱きにし、ぽーいと荷物のように放り投げたのだ。不意をつかれたクラウドは何のリアクションもできずにベッドの上に転がった。
透かさずザックスがその上に飛び乗り、クラウドをシーツの上に縫いとめた。
「っ! いきなり何するんだザックス!」
「うん。だってこのままの話の流れだと、きっと決裂っぽいから」
例の問題の枕は寂しそうに絨毯の上にぽつんと落ちていた。
「久しぶりにやっと二人きりで、誰にも邪魔されない環境できたのに、そんなの勿体ないじゃん」
「あ…っ、あんたってそういうの無神経すぎるよ! 何でも自分の思い通りに事が進むと思うな! どけよ…っ!!」
上から圧し掛かられてしまえばクラウドは身動きができない。
人間のどこを押さえれば効率よく動きを封じることが出来るのかを知り尽くしたザックスの前では、クラウドがどんな抵抗を見せても通じなかった。こんな体勢になってしまえば尚更に。
悔しさを滲ませた目で、クラウドは顎を引いてザックスを睨みつける。
ザックスはその視線を受け止めると目を細め、苦笑した。
「…思うに…、俺ってさ、優しくなんかないよな」
唐突にそんなことを言う。クラウドに向けてというより呟きのように響いた。
「…え?」
「お前に、きっと優しくない」
「…何」
ザックスの手のひらがゆっくりとクラウドの頬に触れ、親指の腹で下唇をすうっとなぞられた。
行為自体は甘いのに、クラウドがそれに性的なニュアンスを感じなかったのは彼の眼差しのせいかもしれない。
瞳にこめられた、色。
けぶる青い―――。
あれはどこで見たのだろう。凪いだ静かな海だった。空と海の境界線を見つめ、意識を引き込まれそうな景色をいつまでも眺めていたいと願った。懐かしく、悲しい色を覚えている。ザックスの双眸と重なる…。
クラウドは今さっきまで感じていた諸々のささくれ立った気持ちを一瞬で引っ込めて、まじまじとザックスの顔を見つめ返していた。
言葉の意味を考える。
優しくない、とはどういうことだろう。どちらかといえば優しくないのは自分のほうではないのだろうかとクラウドは思う。素直じゃなくて、大切な人に優しい言葉もなかなかかけられない。きっと恋人としてはかわいくない。
頬を包むようにしていたザックスの指が移動して、白いこめかみにかかっていた金色の髪を梳き上げた。
「お前が押しに弱いって分かってるから、俺そういうの甘えてるとこあると思う。今だって勢いに任せて流しちまって、甘い感じにもって行けねえかななんて、考えた。いつもそうやって俺が結局やりたいようにやっちまうから、それ押し付けてお前が折れてくれてることいっぱいあるよな…。お前を誰よりも大切にしたい、優しくしたいって思ってるのに、思ってるだけだ。随分無理させてる」
「…別に無理はしてない…と思うけど」
「優しいからな、クラウドは」
さっきからずっとザックスの視線は指で弄ぶクラウドの髪の毛に注がれたままだ。
会話の内容とは裏腹に淡々とした語調のザックスの様子に、何となくクラウドは不安になった。
「ザックス」
クラウドはもう大分前から自由になっていた両腕を持ち上げ、ザックスの両頬に手を伸ばした。
「ザックス、俺を見て」
視線が合う。
「本当に嫌なことは嫌だって言うよ。そんなに我慢強い方じゃない。俺は臆病で、何でも一歩踏み出すのに凄く時間がかかったりするから、そういうときちょっとぐらい強引にあんたが背中押してくれるくらいがいいんだ」
「引っぱり回しすぎてるって…」
「今更そんなこと言うの。…あのさ、俺たちどれくらいの付き合いなんだよ?」
「…時間はあんまり長くねえよな、実際は。出会ったのは今から七年ちょっと前だけど、一緒にいたけどビーカーの中だったり、クラウドが魔晄中毒だったり、俺が死んでたり…」
「俺が言いたいのは時間じゃない、人としての関わり方のこと。少なくとも俺は、心も身体もあんたにほとんど全部許してるって思うよ。だってあんたを愛してるんだ。俺を振り回したり困らせたりもするあんたを全部受け入れて、分かった上で愛してる。…愛してるって、そういうことだろ?」
「……すっげえこと言うな。どうしたんだよ。なんか今日のお前、変。なんでそんなに饒舌なんだよ」
ザックスが複雑そうな顔をした。でもその頬が微かに赤く染まっている。
クラウドは優しくザックスの顔を引き寄せた。いつか見たあの海の色が目の前にある。
「必要なときは言葉を惜しむなって、あんたが昔教えてくれたんだよ」
「……んなこと言ったかな。その…、もう怒ってねぇ?」
枕のことか、勢いで流そうとしたことか。
「怒ってないよ。でも珍しいものは見れたかな。ザックスが弱気なとこなんて」
クラウドは笑ってザックスの唇に触れるだけのキスをした。
それが合図のように、ザックスが動いた。離れていくクラウドの唇を追いかけ、深く重ね合わせた。
「…たまには俺だって…」
「…うん、分かってる。いいんだ、そういうのぶつけてくれるほうが嬉しい…」
角度を変え深く浅くキスを繰り返し、互いの手が互いの身体を探りあう。ザックスが手のひらに馴染んだクラウドの腰のラインを辿っていると、クラウドの手がザックスのシャツの中に入ってきた。腰骨の辺りを爪先がかすめて、そのもどかしい感触が愛しくも憎らしく感じて、ザックスは目の前の白い喉に噛み付いた。
「…っ」
「喰っちまいてぇ」
歯を立ててじんわりと赤くなったそこを、上からべろりと舌で舐め上げる。腕の中の身体が小さく震え、ベッドのスプリングをきしませて背をしならせた。その細腰をザックスはしっかりとベッドの上に押さえつけて、自分の腰を上から押し付けた。それだけで熱が伝わったはずだ。
「…あ、」
「…おかしいよな。最近ずっとお預けだったせいか、なんかもう暇さえあればお前とのセックスばかり考えてるみたいな感じになってて…仕方ないか、新婚だもんな」
「…新婚とかって、関係ないと思…ん、ちょっ…とっ」
ザックスは半ば勃ち上がった自分のものを服の上からとは言えクラウドのそこにぐりぐりと押し付けて身体ごと揺すりあげた。
「俺セックス好きだけどさ…、こんななのはお前のせいだと思うな…」
「…こんなって…、や…、やだ、待って…っ」
クラウドのズボンのファスナーを器用な手つきで下ろしていく。
「…待てる気がまるでしねぇ」
「待ってったら…! や…、あ…っ!」
クラウドの抵抗もまるで通じず、ザックスの指は下着の中に難無く侵入した。クラウドは顔を真っ赤にさせてぎゅうっと目を瞑り、息を詰まらせた。
手の中で息づくものに、ザックスは幸せそうに目許を緩めた。
「……はなし…て…、」
顔を両手でおおい、クラウドは何とか身体をよじって逃げようとする。
「…そうやっていつも恥ずかしがるの、逆に煽られるんだっていつも言ってんのに」
下着の下で手の中のものに指を這わすとクラウドの身体がびくびくと波打った。言葉や態度ほどにこの行為を彼が拒んでいないということは握りこんだものの反応でザックスにも伝わる。
クラウドの顔を壁のように覆った彼の両手にザックスは顔を寄せた。手のひらに宥めるようにキスをする。
「気持ちいいの、好きだろ…?」
「……俺だけ…、好き勝手されるのは嫌……。意地悪……」
「…泣いてる?」
「泣いて…ない」
ザックスはクラウドのものから指を離すと、安心させるように何度も何度も手のひらに、腕にキスを送った。壁を取り除いて欲しくて根気強く待った。
「クラウド、…クラウド、ごめん」
「ばか……」
「じゃあ一緒な。俺の、お前が脱がしてくれる?」
涙目で、それでもクラウドが下着の下から引っ張り出したザックスのそれは、その時すでに片手には余るほどに育っていた。ごくりと唾を呑み込んだクラウドに、「だから久しぶりだし期待しちゃってて…」とザックスは男らしい頬に照れた笑みを浮かべたのだった。
しかし正面からそれを見てしまうと、いかにクラウドと言えども尻込みしてしまう。何と言ってもこうして抱き合うのは本当に久しぶりのことなのだ。果たして初っ端からこのザックスを受け止め切れるのか…などと考えてしまう。
ぐるぐるひとりでザックスのそこを半ば睨みつけるような目で凝視していたら、ザックスに笑われた。
「ん…、ん、あ、…っ」
「気持ちイ…ぜ、クラウド」
「…も、おっきすぎ…、指からはみ出…る…っ」
「…へへ。お前こそ、いつもよかすごくね…?」
「気持ちい…、い、…、う、ん、ん」
「は、…とろとろだし…」
「だ、め、そんなにしたら…っ、」
裸でベッドの上、二人して座り込んで手を伸ばしあって。
夢中になって高めあう。
宿に着いて早々何してるんだろうなんて冷静に考える自分はさっさとどこかへ消え去った。
自分の欲しいものと彼の欲しいものが噛みあう奇跡に感謝する。
「…待って。イクのも一緒な、クラウド」
「だったら、そんなふうに…っ」
「う…っ、クラウド、ソレちょっとキタ…っ」
「…はや、く…、ザッ…っっ」
「お前それ反則…っ、……っ!!」
「あ、あああ、あ!」
あとは熱に飲み込まれて、もう。
***
その一時間後、日が沈み、外が薄闇に包まれ始めた頃、なぜかクラウドとザックスは砦内部の食堂で観光客に人気の「コンドルフォート定食」をがっついていた。
二人とも今さっきシャワーを浴びたばかりなのか、髪の毛が湿っている。
ガツンっ
ザックスがナイフで適当な大きさに切り分けた鶏肉のソテーにフォークを突き立てて、豪快にそれを口に放り込んだ。
ごっきゅごっきゅ
クラウドが口の中のパンをミルクで流し込む。
何だかよく分からない凄みをきかせて、次々と食べ物を平らげていく二人の様子に、周囲にいた他の観光客や店員は呆気に取られてぽかんと口を開いていた。
「早く食べろよ」
「そっちこそ」
何を急いでいるのか。そんな食べ方で味なんて分かるのだろうかと皆が見守る中、短時間で完食した二人は、同時に席を立ち上がり、仲良く走って食堂を出て行ったのだった。
実は互いに手で高めあい同時に絶頂を極め、一息ついて落ち着いて、さあ本番はこれからだ!とザックスがクラウドに手を伸ばした丁度そのときだった。
ぐぐぐううううぅぅ〜…
クラウドのお腹から、とてつもなく色気のない不穏な音が響いた。
えええええぇ、と思ったザックスだったが、つられたのか、彼の腹もぐぐる〜…という音をたてる。
顔を見合わせた二人は考えた。
そうだ、今日は昼からろくなもん食ってない。
夜はこれからだし。
まだまだ長いんだし。
まずは腹を満たしてから万全に。
そうしよう。
そうだな。
よし、そうと決まれば。
これで準備は整った。
「…ところでザックス、一度聞こうと思ってたんだけど。まさかこの旅行計画したのって、ただ単にセックスしたかったからとかって言わないよな?」
「白状するとそれもあるかなー」
「や…っ、やっぱり…! 最低だっ!」
「ちょお待て、『も』って言っただろが、それ『も』あるって!」
「死ねばかっ、あっちいけっ」
「え、ええっ、ちょっ、待ってクラウド! いい加減俺もう限界だから! したい、させて、しよう! な!?」
「知るかっ!」
「だって宿泊代三倍も払って、折角無理言って個室ゆずってもらったのに…!」
「はあ!? 三倍!? どんな無駄遣いしたんだよ!? バカかあんたはっ」
「クラウドーーーっ」
二人の長い夜は、これか…ら―――?
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