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Happy new year, dear friend





 携帯電話が鳴っている。
「………?」
 暗い部屋の中で目を覚まし、音のするほうを確認する。
 サイドテーブルの上にある小さな端末が音声着信を知らせるランプを点灯させていた。
 こんな時間に誰だよ…と思いつつ、そもそも今は何時だろうと考えながら、ぼんやりする頭でテーブルの上に手を伸ばした。布団の下から出した腕が冷えた外気に触れてひんやりとした。
 手の中に目的のものをおさめると、布団の中に引きずり込む。
 頭まですっぽりと掛け布団の中に隠れてから、暗闇の中、端末を開いた。
 画面に表示されている親友の名前を見て、ザックスは無視するのをやめる。
 あくびをかみ殺して電話に出た。


「……もしもし…?」
『…あ、ザックス、ごめん、寝てた?』
「んー…寝てた…」
『ごめん、も、もしかして彼女と一緒だったりする? だったら切るけど…』
「ひとり…切んなくていいって…何、どした…? お前から電話かけてくんのって珍し…」
『う…うん、その、年明けたし…』
「年…?」
『明けましておめでとうって、最初にザックスに言いたかったんだ』
「………」
『そ、それだけ。じゃあ切るね』
 年明け…そうか、今日は元日か。
 昨日はふざけたミッションに振り回されて精神的に疲労困憊でよれよれになって夜に家に帰り着き、やってられるかーと酒を一杯引っ掛けてから不貞腐れて眠ってしまった。大晦日だとか新年だとかそんなカレンダー行事は、すこーんとザックスの頭から抜け落ちていた。
 年が明けたってことは、今は零時を過ぎた頃なんだろうか。
『起こしちゃってごめん、おやすみザックス』
 待て、切るなとザックスが言う前に、端末から通話が切れた音が無情にも耳に届いた。ザックスはベッドの上で起き上がると、慌ててクラウドに電話をかけなおした。1コールでクラウドは出た。

「クラウド!」
『ザックス、どうしたの?』
「おめでとう! 明けましておめでとう今年もヨロシク!!」
『え…、あ、うん。よろしく…?』
「今お前部屋か? どっか外? 仕事中?」
『ううん、寮。部屋の前の廊下…カイン寝てるし』
「寒いだろ、風邪ひくぞ」
『うん、もう入る…』
「上着用意してエントランスで待ってろ。5分でそっち行く」
『…は?』
「顔見たい」
『な、何言ってんだよ。あんた寝てたんだろ。俺もこれから寝るよ』
「俺ちょっと今日…じゃなくて昨日か、嫌なことがあって気持ちがささくれ立ってたんだ。お前の顔見たら癒されそうな気がするから会いたくなった。お前、早朝から仕事か?」
『ううん、今日は休みだよ。…って俺、別に癒し要素なんか持ってないよ』
「癒しのカタマリだってお前。ぎゅーってやってうりうりしてぇ」
『ぎゅ、ぎゅうって何だよ!』
「とにかく待ってろ。すぐ行くから。今年最初にお前に会いたい」
『何それ。そういうのは彼女に言えよ』
「俺のプライベート時間、最近一番一緒にいる時間が長いの、多分お前のよーな気がする。俺の彼女ポジションに今一番近いのはお前だな」
『何意味の分かんないこと言ってんだよ、眠くて半分頭死んでるだろ? もう寝ろあんた!』
「分かってねぇなぁ。ま、いっか。じゃ、電話切るから。5分後な」
『待って、ザック――――』

 一方的に約束を取り付けると、ザックスは電話を切った。
 クラウドが自分との約束を違えることはないだろうという自信がザックスにはあった。でも会ったら一応謝っておいた方がいいかもしれない。自分のペースを彼に押し付ける癖が今は出てしまった。
 会話の途中からクロゼットの中をかき回していたザックスは、そこからセーターとズボンを引っ張り出して着替えた。ショートブーツに足を突っ込んでから、洗面所で手早く顔を洗い、髪を適当に手で整える。用意した黒のダウンジャケットを羽織ると携帯電話をポケットに突っ込み、壁にかけられたバイクのキーと昨夜テーブルの上に放り出していた部屋のカードキーを手にしてドアに向かった。
 その足取りは目覚めたばかりの人間とは思えないほど快活に弾んでいた。



 エレベーターで1階まで降り、駐輪場に停めてあるバイクに跨ろうとしたところで、再度携帯電話の着信音が鳴った。ザックスはクラウドからの文句の電話かと思ったのだが、予想外に女友達の一人からだった。
 駐輪場のコンクリートの壁に反響して静かな空間に響く電子音を聞きながら、ザックスは電話に出ようかどうか迷い、しばらく画面と睨めっこをした後、結局そのまま端末を折りたたんでポケットにしまった。ほどなくして音がやむ。
「ま、いっか」
 ごめん、と美しい亜麻色の髪を持つ彼女の顔を脳裏に浮かべて声に出さずに心の中で謝った。
 友達にランク付けしたり優先順位を作っているつもりはないのだが、ザックスの中でクラウドが最近その数多くいる友達のうちのトップにいるということは何となくザックスにも自覚があった。誰それとクラウドを天秤にかけて、クラウドを選んでいることは数回あった。
(だって、かわいいし、話してて楽しいし、和むし)
(危なっかしくて放っておけないし、見てないと俺が心配で落ち着かないって言うか)
 何より、今一番彼と一緒にいたいと思うから。

「彼女より友達と一緒にいたいって、枯れんの早くねぇ俺?」
 3ヶ月くらい付き合っていた彼女とつい数週間前に別れたばかりだ。
 何となく会えなくて、会わなくなって自然消滅っぽくなった付き合いに、けれどそれほどザックスは精神的打撃を受けなかった。その頃はもう休日はクラウドと遊ぶのが決まりごとのようになっていて、それが楽しくて、今思えばそれが彼女と別れる原因だったような気もするが。それから新しい彼女を作ろうとする努力もしていなかった。

(恋より友情?)
 なんとなく今はそんな気分なんだろうか。
(あいつの反応、いちいちかわいーんだよな)
 つい構いたくなってしまうほどに。
(ほっぺた真っ赤にしてるときなんてたまんねぇ。俺のツボなんだよな、マジでぎゅうぎゅうしたくなっちまう)
 ザックスの男心をつつきまくるツボな反応をクラウドが返すから、ついザックスもからかったりふざけたりしてしまう。普段は割とツンとしてるのに、中身は結構ふにふにで…ええと、アレか、ツンデレとかいうやつ?
(いやいやいや、男心にツボとかは違うだろ。男につつかれてどうすんだっての)
 あれ?でも…、とザックスは考え直す。
 思うに「かわいい」とか「一緒にいたい」とか「俺が守ってやんなきゃ」など、クラウドに抱いているそういう想いは、過去ザックスが好きになった女性陣に抱いた感情と同じなのではないだろうか。というか同じような気がする。
「………」
 それが意味するものは…。
「んなわけねーだろ! 俺は女の子大好きだーっ!」
 ザックスは頭の中に浮かんだ突拍子もない結論を、大きく首を横に振って頭の中から追い出すと、バイクを発進させた。
 今はちょっと女の子よりも友達の方が大事なんだ。そう自分に言い聞かせながら。



***



 5分を少々過ぎてしまってからザックスはクラウドの住む一般兵の独身寮に着いた。
 ザックスは急いでバイクを降りて、エントランスに向かう。
 首元にぐるぐる巻いたマフラーに不機嫌そうなむっすり顔を沈めたクラウドは、隅のベンチにちょこんと座っていた。
「待たせた、クラウド!」
「ばか、声が大きい」
 表情と同じように、低い声で出迎えられた。
「管理人さん、年末年始で帰省してるみたいでいないけど、静かだから響くだろ」
「あー、わりぃわりぃ」
 クラウドは口をへの字に曲げて、じいっとザックスを上目遣いで見上げていたかと思うと、すっと立ち上がりおもむろにザックスに向かって両腕を開いて見せた。
「? 何だ?」
 それは何のゼスチャーだ?
 ザックスがきょとんとするのに、クラウドは眉間にシワを寄せて腕を下ろしてしまった。気まずそうに視線が横に流れる。
「……さっき、癒されたいって言ってたから……」
 だから何?
「…………ぎゅうって……」
「………」
 それってさっき電話で話してたぎゅーですか。
 ってことはなんですか、自分から腕を広げて俺に来いと誘ってくれている?
 ぎゅーしてもいいって言ってるんですかクラウドさん。
「…俺がぎゅーしてうりうりしたいって言ったから…?」
 クラウドはすごく後悔しているといったイヤそうな顔をした。そのほっぺたがほんのりと桃色に染まっている。
「…もういい。今のは忘れて。俺どうかしてた。多分眠くて頭回ってな…」
「今の、も一回やってくれよ、クラウド」
「…え?」
「仕切りなおし」
「や、やだよ! ていうかそもそもあんたと何で抱き合わないといけないんだ!」
「腕広げてクラウドが俺を誘ってくれたの初めてじゃんか。も一回!」
「誘うって、なんか誤解生みそうな言い方すんな! なれないことして激しく後悔してるよ!」
「もー、お前超かわいい!! よーし、いいこと思いついた。クラウド、俺の真似して見せて」
「まね…?」
「俺もやるから恥ずかしくないだろ」
「何、突然…」
「いいからいいから。な? こうやって…」
 ザックスは自分の両手をクラウドに向かって広げて見せた。クラウドも素直にそれにならう。
「……こう?」
 さっきクラウドがザックスに見せた格好と同じ、相手に向かって胸を開く格好だ。
「そうそう、そんでこう言って」
「……?」


「“力いっぱい抱き締めて、俺を好きにして”」


 愛の告白のような熱のこもったザックスの一言に、クラウドの目がときめきに潤む――わけもなく、その瞬間クラウドの周囲の空気が氷点下にまでキンと下がった。
 何言ってんだこの男、としらけた視線をザックスに向ける。
「……ばっかじゃないの」
「え、言ってくんないの? 真似だ、ほらクラウド、“力いっぱい…”」
「力いっぱいそこでひとりで馬鹿やってろ。ああ、新年早々無駄に疲れた。俺もう帰って寝る」
「クラウド!」
 すたすたとザックスを置いて部屋に帰ろうとするクラウドの背中をザックスは引き止めた。


「じゃあ、力いっぱい俺に抱き締めさせろ!!」


 エレベーターに向かっていたクラウドの足がピタリと止まった。ゆっくりと振り向いたその顔は唇が尖っていて、やっぱりザックスの男心をつつきまくるかわいさだった。
「……」
 クラウドはしばらくその場で何かを考える素振りをしてから、ゆっくりとザックスに向かって両手を開いた。
 少しむくれた顔で、それでも耳まで赤く染めながらぼそりと呟いた。


「じゃあ…“あんたの好きなように、力いっぱい抱き締めて”」


 ザックスは大好きな飼い主に飛びつく犬さながらの勢いで、クラウドの元に素早く駆け寄ると、彼の身体をかき抱いた。
「苦しいって、ちょ、ザックス!!」
「好きなようにしていいって言った!」
「息が出来な…っ、腕ゆるめて、この馬鹿力っ! 殺す気かっ」
「ん~、やっぱお前超かわいい、何でこんなに癒されるかなぁ、やべぇ~!」
「かわいいは嬉しくないっ」
 ぎゅうぎゅうむぎゅむぎゅ。
 ザックスの分厚い胸板に容赦ない力で顔面を押し付けられて、クラウドは息苦しさに身をよじった。
 ザックスの腕に身体を引っ張り上げられて、クラウドの爪先は床から浮きそうだった。
 なんだってこの男は、加減てものを知らないのだろう。だけど力強く抱き締める彼の腕を、クラウドは多分嫌いじゃない。

「よー、明けましておめでとさーん」
 あわあわしていたクラウドの頭上でのんきな声がした。明らかに自分に向けられたものではない言葉にクラウドは焦る。
「え、何? 誰か通ったの!?」
「午前様なヤツが今脇通ってエレベーター昇ってった」
「は!? こんなの見られたの!?」
「お前だってことは分かんなかったんじゃん? 顔見えてねぇと思うし」
「あんたは丸々顔出てんじゃんか!」
「俺社内じゃ結構有名だかんなー。ま、気にしない気にしない。お前なんか髪の毛いい匂いすんなー」
「少しは気にしろよ! くすぐったいって、耳…っ」
「よし決めた。今年はクラウドで始まったからクラウドで終わることにしよう。いいよな、クラウド?」
 もう意味わかんない…ザックスの突拍子もない思いつきはいつものことだが、今日はまた一段と彼の奔放な言葉に振り回されている。
 けれど何よりも今はこの恥ずかしい格好を何とかやめさせたかった。
「分かった、分かったから、もういい加減離してザァックス!!」



 ザックスのしつこくも熱烈な(?)抱擁からやっと解放されたとき、クラウドはぐったりのよれよれだった。
 そんな彼の腕を引っ張っていき、ザックスは自分のバイクの後ろに乗せた。
 どこに行くのと尋ねれば、どこか日の出が見えるところという曖昧な返事がザックスから返ってきた。
「……どうでもいいけど、ザックスって最近俺とばかり一緒にいない…? 彼女ほったらかしてるとやばいんじゃないの」
 ザックスの甲斐甲斐しい手がクラウドの頭にヘルメットを被せる。クラウドはおとなしくされるがままに身を任せていた。
「今フリーだし、問題ないない」
「え……」
「意外って顔してるな」
「うん…なんかあんたって女の人に生きがい感じてるっぽいから…。俺にはよく分かんないけど」
「お前ももうちょっと大人になれば分かるんじゃね?」
「…もう子供じゃない」
「ま、でも俺も今はお前がいるから別にいいな」
「え?」
 クラウドの支度を終えるとザックスもバイクにまたがった。
「お前、楽しいしかわいいし、今俺が一緒にいたいのはお前が一番だな」
「……あんたって時々すごい殺し文句言うよな…でもかわいいは余計だ」
「口先だけのことは言わねぇよ。よし、行くぞ。ちゃんと俺に掴まってろ」
 大型のバイクは派手な排気音を静まり返った冷えた空気の中に響かせた。
「って、そうだ、お前乗り物酔いは大丈夫か?」
「もし酔ったらあんたの背中に思い切りぶちまけてやるから」
「あはは、いいな。なかなか出来ねぇ熱烈な告白だ」
 クラウドが遠慮がちにザックスのジャケットの脇腹の辺りを掴むと、にやりと振り向いたザックスに腕をとられて、臍の前で指を組まされた。ザックスにひっついて身体を抱えるような体勢に、彼の背中にクラウドの右頬がぴたりとくっつく。自分から抱きついているようで何となく恥ずかしい格好だった。
「俺の運転、あんまり優しい方じゃないから、振り落とされんなよ」
 社交辞令かと思いきや、夜の街を走り出したバイクは思いのほか荒っぽい運転だった。それは後ろに乗っているのがクラウドで、彼をからかうつもりでわざとザックスがそうしているのか、それとも普段からそういう乗り方をするのかクラウドには分からなかったが、とにかく必死にザックスの背中にぎゅうぎゅうしがみついて目を瞑っていた。そうされているときに、ザックスが嬉しそうに笑っていたことをクラウドは知るよしもなかった。



***



「改めて、明けましておめでとうクラウド」
「あ…、うん、おめでとう」
「よろしくな」
「よろしく」
「今日は曇ってて日の出見れそうにねえな、残念」
「そうだね。寒いし…」
「俺も寒ぃ」
「鼻の頭真っ赤だよ」
「お前のほうが赤いよ。ほっぺたも赤くてかわいい」
「触るなよ。ちょ…何、体がなんか不自然に近いんだけど」
「くっついてるとあったかいぜ、お互い」
「そうだけど、…あんまりそういうのは男同士じゃやんないんじゃないの、普通」
「そうか?」
「そうだよ。それから手ぇつないだり抱きついたりもしないと思うんだけど。周りでそんなの見たことないってずっと思ってた」
「そういえば俺も他のヤツとはやんねえなあ。女の子とはやるけど」
「………」
「……え、何クラウド?」
「…俺は女の子じゃないんだけど」
「当たり前だろ。何言ってんだよ」
「だけど俺ザックスに女の子と同じ扱いをうけてるってことだよね…?」
「え…」
「………」
「なるほど、…あー、そういう見方も…て何、ちょ、なんで離れてくんだよ、クラウド!」
「………」
「何だよその目は、おい! おいクラウド!寒ぃ、俺寒ぃってっ!」
「まさか宗旨替えとか言わないよね…」
「馬鹿言え俺は女の子大好きだ! お前はなんでか特殊で他とは違うって感じで、いいじゃねえか、特別だぞ俺の特別!」
「……特別…」
「そうだ! お前の代わりはいねえ!」
「……俺も…」
「何?」
「……俺にとってもザックスは多分…特別だと思う…けど」
「え…」
「一番一緒にいたいって思うの、ザックスだし…、ザックスだけだし…」
「く、クラウドっ!!!!」
「うわっ、ザックス! なんであんたはそう簡単に抱きついてくんだよ…っ!?」
「俺の一番とお前の一番が一緒って、相思相愛って感じじゃん! すっげえ嬉しい!」
「友達の一番て意味だからな!」
「勿論! ……でも、でもさ、クラウド、もしも俺が」
「何?」
「俺が、したいって言ったら、お前どうする?」
「…何を?」



 不意に頭に浮かんで、大きく膨らんだ欲望。
 胸に抱き寄せたぬくもり。見下ろした金色のつむじ。髪の間から覗く白い耳の淵。自分の胸の辺りでくぐもって聞こえる彼の声。
 彼の言葉に、向けられる視線や笑顔に一喜一憂する。
 これは特別。自分にとって特別な人。
 急激に心にわきあがった存在の愛しさに、ザックスは眩暈がしそうなほどに胸を高鳴らせていた。
 この感覚をザックスは知っている。一度かかったら医者でも治せないというあの病だ。
 男相手におかしいような気もするが間違いない。

 口にしたら、何かが変わるのだろうか。
 変わってしまうのだろうか。
 クラウドは友達だ。
 ザックスもそのつもりだった。
 今日このときまで、確かにそうだと思っていた。


「お前と、キス、してみたい」


 腕の中のぬくもりがびくりと体を強張らせたのが分かった。
 驚いているだろうか。
 冗談だと受け止められるだろうか。

 友達にキスしたいって思うのがおかしいなら、もしそれが不自然だって言うのなら、友達じゃなく―――



 冷えた空気が頬に突き刺さり痛みを感じるような寒い寒い新年の朝だった。
 太陽は雲の向こう側に隠れていて見えない。
 ミッドガルから少し離れた吹きさらしの荒野の小高い丘の上。
 日の出を見に来たはずなのに、天気の神様にそっぽを向かれて、なぜか抱き合っている男二人。
 片方の男がキスしてみない?なんて言ってて、もう片方は驚きに固まっていて。

 やがて二つの顔が重なって……それからバチンという派手な音が荒野に響き渡ったのだった。










 ザックスは、自分で予想したとおりクラウドに始まってクラウドで終わる一年になる予感がした。
 クラウドは、ザックスのいいように振り回され、ザックスに終始押し切られて終わる一年になりそうな予感(だってクラウドはザックスの押しに弱いという自覚があるから)…がしたのだった。

 友達、恋人。
 呼び方なんてどうでもいい。大して重要な問題じゃない。

 ただ一緒にいたいと思うこと、想い合うこと、一緒にいること、楽しいこと、互いの一番でありたいと思うこと、時には喧嘩をしたりすることもあるかもしれないけれど、でもやっぱり一緒にいたいと思う。だから。


 また来年の今日もこうして二人で過ごせますように。
 そう願う気持ちは二人とも一緒なのだということが分かるのは、そう遠くない未来のこと。










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