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かたおもい
クラウドはその日、久しぶりの休日を友人のザックスと一緒に過ごした。
何か予定を立てて特別なところに遊びに行こうだとか、何かをしようだとか、そういう約束を交わしたわけではなかった。
しかし行き当たりばったりでも、ふたりで過ごす時間はとても楽しくて、なんだかんだと言っては別れて帰る機会を後回しにしてしまい、そうこうしているうちに終電の時間はとっくに過ぎてしまっていた。
自分のねぐらである寮まで、徒歩以外に帰る手段を失ったクラウドに、ザックスが軽い調子で「じゃあうちに泊まっていけよ」と言ってくれたので、歩いて帰るのも面倒だったし少し眠かったし、クラウドは友人の厚意に素直に甘えることにしたのだった。
クラウドがザックスの部屋に来るのは、この日が初めてという訳ではなかった。いつも通されるリビングルームの家具の種類や大きさ、色、配置場所を覚えるくらいには度々遊びに来ていた。
ふたり代わる代わるにシャワーを浴びて、一日の身体の汚れを落としてから就寝の準備をした。
クラウドはリビングルームの中央に置いてある割と大きめなソファを一晩の寝場所に貸してもらえたら嬉しいなと思っていたのだが、ザックスがなぜかムキになって「客人をそんなところで寝かせられるか」と言って納得してくれなかった。いくらかのやり取りの後、結局ふたりはザックスのベッドで一緒に寝ることになった。
そして初めてこの日、クラウドはザックスの寝室に通された。
ザックスのベッドは、幸い男が二人寝転がってもそれほど窮屈さを感じない広さだった。
明かりを落とし、二人は横になる。
時間も時間なのでクラウドは目を閉じて早々に眠ろうとしたのだが、ザックスのほうは残念ながらクラウドと同じ思考ではなかったらしい。
暗い寝室にぼそりとクラウドに話しかけるザックスの声が響いた。
「…クラウドってさ、好きなやついる…?」
あとほんの少しで眠りに落ちようとしていたクラウドは、ザックスのそんな問いかけに、ふっと意識を浮上させた。
「……?」
好き、な人…?
聞き間違いか?
クラウドはゆっくりとまぶたを上げて、ザックスのいるほうに身体の向きを変える。ベッドに入ったほんの数分前と比べて暗さに目がなれてきたのか、相手の身体の輪郭だけでなく、目鼻がどこにあるかぐらいの判別はできるようになっていた。ザックスは仰向けになって寝ていた。
「寝ちゃったか、クラウド」
返事が返ってこないことを気にしてか、ザックスが枕の上で頭を少し動かしてクラウドの気配を探る。
クラウドは半分眠っている頭で、ちょっと億劫に感じながらも唇を動かした。眠いクラウドにとって、声に不機嫌さが滲んでしまうのは仕方のないことだった。
「……起きてる…」
「ごめん、眠いか」
「…ん……何」
「だから、えっと…好きな、やつ」
様子からクラウドが眠りたがっていることはザックスにも分かっているだろうに、それでも彼が話を続けたがるのは、よほど今それをクラウドに聞きたいのだろう。どうしてだか理由は分からないが。
しかし…。
好きな人がいるかって、聞いたのか。
こういう話の流れでの「好きな人」が、友達や家族を指してのことではないということは、いくら鈍いクラウドにもわかった。けれど今までそれらしい恋愛の話なんて、ザックスとクラウドは一度もしたことはなかった。それにクラウドにとっては縁もなければ興味もない話題だと、互いに付き合いがそう浅くもないザックスは知っているはずなのに、どういう風の吹き回しなのか。
「…どうしたの、突然」
「どうって…ちょっと気になっただけ」
クラウドは少し考えて、ふと思い当たった。
「…ああ、ザックスが何か悩んでる…? 俺に話を聞いて欲しいとか。俺、恋愛の相談なんて一番向いてないと思うけど」
「や、違う違う。あ、でも聞いて欲しいけど、ていうか今は俺がクラウドに聞いてるんだけど…」
ザックスが勢いよくクラウドのほうに身体を向ける。大柄なザックスの体重を受けてマットレスがぼわわんと大きくたわんだ。
ソルジャーって視力とかも常人よりいいのかな…。
クラウドからはザックスの細かな表情までは闇にまぎれてしまって分からないが、クラウドの眠そうな顔はもしかしたらザックスには見えてしまっているのかもしれない。もしそうなら、そういうのは少し不公平な気がして、ちょっとクラウドはむっとする。なんとなく情けない顔は見せたくないと考え、頑張ってまぶたを意識して開いた。
「…で、いるのか?」
なんで俺に好きな人がいるかどうかなんてことをザックスがそんなに気にするんだろう、とクラウドは純粋に疑問に思ったが、他ならぬ彼にそれを尋ねられているということに対しては、少なからずクラウドに緊張感を抱かせた。
こんな話題、それもクラウドの恋愛話なんて、適当にクラウドがはぐらかしても、嘘をついても、ザックスにはどうでもいいことだろうし、話したとしてもそれが本当のことかどうかなんてザックスには分からないんじゃないかと思ったが、クラウドはなんとなく本当のことを話す気になった。
話す気になったことになにかしらの理由があるとすれば、それは眠気に半分くらい占領された頭が正常に働いていなかったせいかもしれない。
「…いるよ。好きな人」
クラウドの答えに、ザックスが小さく息を呑むのが分かった。
いるいないの二択なのだから、そんなに驚くことはないだろうにと思う。
「いるのか」
「俺にいたらおかしい?」
「お…かしくはねえけど…」
そこでザックスは口を閉ざす。クラウドの気のせいでなければ、少しザックスの声のトーンが低くなったような気がする。クラウドにも一人前にそんな相手がいるのかと生意気にでも思ったのだろうか。
「…おまえの好きなコってどんなコなんだ…?」
「どんなって…、別にそんなのいいだろ」
「聞きたい」
「……」
「聞かせてくれ」
ザックスの声が硬い。
何で自分なんかの好きな人のことを聞き出すのにそんなに必死になるんだろうとクラウドはやっぱり疑問に思ったが、ザックスが「話してくれたっていいじゃん。俺たちトモダチだろ」と重ねて催促したので、クラウドは渋々口を開いた。
どうせ喋っても名前を出さなければそれが誰かなんてザックスには分かりようがない。…絶対に分かるはずがない。
「そうだな。……優しい、人」
クラウドは目を閉じて闇を視界から追い出し、瞼の裏にその人の姿を思い浮かべた。
顔立ち、背格好、笑顔、変な癖。
自分でも驚くくらいに鮮やかなイメージが次々にわき上がってくる。
「明るくて、前向きで、とても優しい」
「……おまえ、そういうコがタイプ…? なんか意外って言うか…」
「タイプっていうか、そういう人をたまたま好きになっちゃったってだけ」
「……」
「ちょっと賑やかすぎて、調子がよすぎるところもあるかな。お節介だし。あと、あんまり周りの空気読まなかったり、無神経なところも…」
「…クラウドには悪いけど、聞いてるとなんかそのコすっげえバカっぽいんだけど」
なぜか機嫌悪そうにザックスがぼそっと呟いたそれに、クラウドはつい笑ってしまった。
「…そうかも。でも、好きなんだ」
人を好きになるということ。
それがどういうことなのか、クラウドはその人に会って初めて知った。それは理屈ではない。自分でも気づかないうちに気になって気になって仕方がない存在になっていた。心を奪われる、ということを知った。とても大切な人に、なっていた。
「…ザックス?」
急に隣が静かになったので、クラウドはもう一度まぶたをあげてザックスを見つめた。ザックスは暗闇の中、こちらをじっと見つめているようだった。
「人に聞いといて、ここで黙っちゃうのかよ」
クラウドは急に気恥ずかしくなって、照れ隠しに何となく手を伸ばしてザックスのこめかみに指で触れた。そのまま髪をそっと梳いても、ザックスは身動き一つせずにクラウドにされるがままだった。
「どうしたの。俺の答えは気に入らなかった?」
「……」
「ザックス?」
もう一度クラウドが優しく名前を呼ぶと、ザックスはやっと口を開いた。
「もしかして俺が知らないだけで、クラウド、そのコと付き合ってんのか」
「え…?」
ザックスの声は低く、どこか気持ちが落ち込んでいる人のような雰囲気があった。
「いつからカノジョ――」
クラウドはザックスの誤解を慌てて訂正した。
「え、違うよ、俺の片思いだってば」
「――片思い?」
「そう。だってその人にはちゃんと恋人いるし、俺の出る幕なんてないんだから」
「そう…なのか?」
「そうなの。だから俺は誰とも付き合ってないし」
「告白は…しないのか」
「言っただろ、恋人がいるんだって。ふられるって分かってるのにするわけないだろ」
「んなの、してみなきゃ分かんねえじゃん。そのコだって告白されたら、おまえの方が好きになるかもしれねえし」
「ない。絶対にない。分かるよ。だって……」
クラウドは目を伏せた。
自分なんかが告白したって迷惑なだけだ。それは十中八九間違いない。断言できる。
「クラウドはそれでいいのか…?」
いいも何もない。
恋だと自分で気づいたそのときに、即座に諦めた恋だった。
それほど両思いになれる確率なんてほとんどない、望みの薄い相手だったからだ。
「…ザックスは?」
少し湿ってしまった場の空気を変えようと、クラウドはザックスにも話題を振ってみた。自然に聞こえるように、努めて明るい声を出すことを意識しなければならなかったのは、クラウドにとっては余り気乗りしない話題だからだ。
「俺、そういえば聞いたことないけど、ザックスの彼女ってどんな人なの? よかったら教えて」
言葉にしていくときの、勝手に反応してしまう自分の胸の痛みにクラウドは気づかないふりをした。
「俺のことは…別にいいじゃん」
「何だよ、俺にだけ喋らせておいて自分は秘密だなんてずるいよ」
クラウドはちょっと不機嫌そうにむくれる演技をしながら、それでもすぐに笑って、触れているザックスの髪の毛をわしゃわしゃと指で少し乱暴にかき回した。そうしながらじゃれるようにクラウドが体を寄せると、ザックスもお返しだと言わんばかりにクラウドに手を伸ばして「なんだよー」とクラウドの髪の毛に反撃をする。
「俺も今片思い!」
大きな手でちょっと激しすぎるくらいクラウドの頭をぐりぐりしながら、その耳元でザックスは大声で言った。
「え、うそ」
「何が嘘なんだよ」
「だってザックスが片思いなんて…、ちょ、痛い、そんなに強く力入れないでよ」
「あ、悪い」
「乱暴なんだからもう。絶対髪の毛絡まった」
明日の朝が大変だよ、とくしゃくしゃになった髪をクラウドは手櫛で撫でつけている。
「で、ザックスが片思いって本当?」
「ほんと」
「なんか意外だな」
「…そうか?」
「だってザックスって俺と違って、そういうことは何を置いてもまず行動ってタイプだと思ってた」
「いや…、まあいつもはそうなんだけどな」
「そうだよね。あ、もしかして相手がちょっと難しそうな人だったりするのか?」
「難しい…うん、ちょっと、むずかしい、かも」
「え…本当に? うわ、もしかして人妻…?」
「ちっ、ちっげえよっ!! そういうんじゃなくて、いつもみたいにストレートに告白しても相手に真面目に受け止めてもらえるかどうかがわかんない相手でさ、だからどうやって攻めたら一番いいかって絶賛考え中なんだよ!」
「何それ」
「だからちょっとやっかいな相手っていうか」
「ストレートに告白しても通じなさそうなんだ? ふうん…でも考えすぎなんじゃない。まずは正面から当たってみて、ダメだったらそのときは他の手を考える、とかのほうがあんたらしいと思うんだけど」
「一回目の告白で見事に砕け散って、相手に逃げられたらどうすんだ」
「逃げられちゃいそうにもう嫌われてたりするの?」
「それはない、けど…」
「逃げられたとしても、ザックスはそこで諦めちゃうタイプ? 去るものは追わず?」
「いんや、諦めは悪いほう!」
「じゃあザックスらしく最初は行動してみればいいじゃないか。当たって砕けてもまたチャレンジすれば…」
クラウドはそう言って笑ったあと小さな欠伸をした。
「ザックスは軽くてへらへらしてるとこもあるけどさ、真面目な顔で真剣に告白したら、相手の子だってその気が全然なかったとしても、絶対ぐらっと心が揺れるって。全然脈ナシって言うのはないんじゃないかな。かっこいいし、いい男なんだし…」
またクラウドの口から欠伸が出た。目がとろんとして、だんだん語尾が怪しくなってきている。
「クラウドから見て、俺ってかっこいい? いい男?」
「…ん…」
「クラウド」
「………」
ザックスの乾いてさらりとした手のひらが、クラウドの頬を包んだ。その感触が優しくて気持ちよくて、自然にクラウドの口元が微笑む。
目を閉じればこのまますぐに寝てしまいそうだ。気持ちいい…なんて思っていたら本当に瞼が落ちる。
「クラウド」
もう一度ザックスがクラウドの名前を呼ぶ。
けれどクラウドの耳にはその声は、どこかに反響してふわんふわんとはるか遠くから聞こえてくるようだった。
ぎしりと小さく音を立ててベッドが揺れる。
「………?」
何となく気になってクラウドはやっと目を薄く開いた。
そうしたら、なぜかすぐ目の前にザックスの顔があった。
闇に目が慣れてきたせいもあり、また、これだけの至近距離ならば相手の表情を読みとることもある程度は可能だった。
ザックスはまっすぐにクラウドを見つめていた。
暗闇の中で、彼の真剣な目が力強く輝いているのだが、クラウドは状況が飲み込めずに目を丸くしてただただ瞬いた。
なぜこんなにザックスが近くにいるのだろうとか、自分をそんな目で見つめてるんだろうとか、頭の中にわいた疑問が一瞬でクラウドの眠気をどこかにさらっていってしまった。
ザックスの唇がゆっくりと動いた。
「―――好きだ」
それは、告白の言葉、だった。
「おまえのことが好きなんだ。俺と付き合ってくれないか」
ベッドの上でふたり。
顔を寄せ合って見つめあい、好きだなんていう告白。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ…???
クラウドの頭の中は真っ白になった。
おまえのことが、好き。
付き合って。
真剣な顔して彼は何を言ってるんだろう。
射抜かれそうな強い視線に身体の動きまでも封じられる。
鼓動が、速くなる。
顔が、熱い。
息の仕方を忘れたかのように、胸が苦しくなる。
おかしい。
何の冗談なんだろう。
ザックスが自分に向かってこんなに真剣な顔をして…。
…。
…?
真剣な?
真面目に告白?
ああ、違う。そんなわけない。
違う。
違う違う違う、もしかしてこれは。
「…ザックス…、うん、そう、その調子」
クラウドは息を吸って自分の気持ちを落ち着かせながら、ザックスにぎこちなく頷いて見せた。
「今みたいにザックスの片思いしてる人に告白したらいいと思うよ」
部屋の中が暗くてよかったとクラウドは思う。赤くなってしまっているだろう自分の顔をザックスに知られなくてすむ。
頬に触れているザックスの指が微かにぴくりと震えた。しかし、その震えに彼のどんな感情が含まれてるのかということにまで、その時のクラウドには思いを馳せる余裕がなかった。
クラウドはひきつる自分の頬をなだめて笑顔を作りながらザックスの手に自分の手を重ねた。
「暗くてザックスの顔はよく見えなかったけど、声だけでもすごく真剣な気持ちが伝わってきた。男の俺でもどきっとしたくらいだし」
「……そ、そうか…?」
ザックスの声が少し上擦っている。でもクラウドは気づかない。
「うん、今みたいに告白してみなよ。ザックスだったらきっとうまくいく――」
けれど次にクラウドの耳に届いたのは、決して軽くはない溜息だった。
そしてぼそりと呟く声。
「………そうは言うけど、全然通じてねぇんだよなあ…」
「え?」
「いや…いやいや何でもない。うん、やっぱこんなもんだよなあ…」
ザックスはなおも独り言めいたことをもごもごと口の中だけで言ったが、不意に明るい調子を取り戻した。
「よーし、こんな時間だしもう寝るかクラウド!」
そんなザックスに、クラウドはすぐにはついていけなくて戸惑う。
「え、う、うん…」
ザックスの指がクラウドの髪の毛をくしゃくしゃになるくらい乱暴にまたかき回す。
さっき、ザックスの髪の毛に先に手を伸ばしたのはクラウドだったが、これはもしやそのときの盛大な仕返しをされているのだろうか。
「やめてよザックス!」
「片思いってつらいよな、お互い!」
わしゃわしゃわしゃ。
「な、に―――」
確かに片思いは辛い。けれど、クラウドは―――。
悪さをする手から逃れようとするクラウドの後頭部を、ザックスの手のひらががしりと掴んだ。
ザックスの馬鹿力でそれ以上されたら、髪の毛がごそっと抜けそうだとクラウドは真剣に焦る。ハゲは作りたくない。
「もう、いい加減に…っ」
そのとき、ザックスの腕にぐっと力が入った。
強引とも言える力で、掴まれたクラウドの頭がザックスの方に引き寄せられる。
「――きなんだ」
直後に、よく見知った友人の、聞き慣れない低い声が耳のすぐそばで聞こえた。
聞き取れなかったが、それはさっき彼が言葉にした告白の声音にも似ていた。ふざけたところなどどこにもない――。
クラウドの背中にぞくんと正体の分からない何かが走る。
不意に。
頬に温かいものがかかった。たぶんザックスの吐息だ。
クラウドの唇に一瞬だけ、何かが触れた。柔らかくて少し湿った感触。
何が何だか分からずにぱちぱちと瞬きをすると、クラウドの長い睫は間近にある何かに擦れる。
長くも短くも感じられる時間が流れる。
しばらくして、後頭部からザックスの手が離れると、頭頂をあやすようにぽんぽんと軽く叩かれた。
「おやすみクラウド!」
「え…」
ザックスは明るい声で就寝の挨拶をすると、クラウドから手を離し、ごろりと寝返りを打って元寝ていた場所に戻り、布団をかぶる。
彼の素早い切り返しに、その場に残されたクラウドは、親に置いてけぼりを食らった子供のように、身体がすくんだようになってしまい、すぐには動けなかった。
「お…おやすみザックス…」
上の空で挨拶を返し、隣で寝ている友人のこんもりとした布団の膨らみを目を凝らして見つめ続けることしかできない。
そして、無意識に自分の唇に指で触れていた。
自分の唇に、触れたもの。
柔らかくて、温かくて。
近づいてきて、離れていったもの。
知っているにおい、友達の、彼のにおい。
なんでか泣きたくなる。
何だったんだ、今の……。
自分に問いかける。でもその答えを自分は知っている。
ただ信じられないだけで。
間違いじゃない。気のせいじゃない。
でも意味が分からない。理由が分からない。
どうして彼が、俺に―――?
問いただしたくても、相手は答えてくれそうにない。
聞こえてきた寝息は、果たして本物か、それとも作り物か。
さっきまでクラウドを甘く誘惑していた睡魔は、今や完全にクラウドの元から去ってしまっていた。
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