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本当に久しぶりの逢瀬だった。
顔を合わせたときから、彼はいつもよりテンション高めで、部屋に入った途端に腕をつかまれて引き寄せられ、噛み付くようなキスをされた。
彼のペースで好き勝手に口内をむさぼられ、息を奪われ、苦しさに彼の後ろ髪をひっぱったら、彼はやっと唇を離した。
「会いたかった」
間近で視線がぶつかる。
深く蒼い双眸に情欲の色を滲ませて、クラウドをひたと見据える。
「会いたかった、クラウド」
低く囁く声は、語尾が少しかすれていた。
言葉を紡ぐ唇は濡れて赤く、いつも以上に肉感的に見えた。
「ザックス、俺も会いたかっ…」
クラウドが最後まで言い終わらないうちに再度逞しい腕が彼の細い腰を抱き寄せる。
唇を塞がれ、狂おしいまでの感情をぶつけられ、体を拘束され、クラウドは苦しくて、でもこうして彼に求められることがいつも嬉しくて心が震えるのだ。
今夜も彼の熱にさらわれる、予感。
さらわれて、奪われて、与え、ともに高みへと駆け上る。
長い夜の始まりだった。
*
「そのうち絶対あんたに殺される…」
もう間もなく窓の外には日が昇るだろう時間。
柔らかなスプリングのきいたベッドに深く沈みながら、クラウドはぐったりとした様子で深く息を吐き出した。
体の右半分にぴたりとくっつく他人の体温を感じる。先程までいやというほどクラウドの体も心もいいように翻弄していた恋人が、隣で悠々と体を伸ばして寝転がっていた。
クラウドの呟きに、ザックスは顔を上げてクラウドを覗き込んだ。
「俺に殺されるって言ったか?」
「言ったよ。あんた加減てもんを知らないのかよ…」
正直もう指一本でさえ動かすのが億劫に感じるくらい疲労困憊のクラウドだった。
「声、がらがらになっちまってるな。大丈夫か」
「全然大丈夫じゃない。俺このままだとホントにあんたにヤり殺されそうな気がしてきた」
「え、これでも加減してるんだけど」
「………」
どこらへんを加減しているんだとクラウドは突っ込みたかったが、もしそうだというのならば、変につついて次回に手加減なし本気モードで彼にはりきられたりでもしたら恐ろしいことになりかねない。
これ以上に何があるのか、クラウドには想像も出来ないが、まず自分がそれを受け止めきれずに撃沈するだろうということは想像に難くない。クラウドは言いたいことを我慢して口を噤んだ。
「……もういい。俺寝るから」
翌日というか今日の仕事は二人とも休みだから、昼過ぎまで惰眠をむさぼっていてたとしても誰にも文句は言われないだろう。
体を丸めてザックスに背中を向け目を閉じると、彼の腕が追いかけてきた。
まだ少し汗ばんで湿ったままのクラウドの腰にするりと腕が回り、臍の上辺りを撫でられた。
先程まで散々いじられ性感の高まっている身体は、その何気ない柔らかな接触にも反応を返そうとしたが、クラウドは気がつかないフリをして無視した。
「寝る前にシャワー浴びたほうがいいぜ」
耳元で囁かれる声に色が滲んでいると感じるのは気のせいだとクラウドは自分に言い聞かせる。
「…面倒くさい」
それに体力も気力ももう残っていない。
「俺がバスルームまで連れて行ってやるけど?」
「…いい。起きてからで」
「浴びてからのほうが気持ちよく寝れると思うけど。それに中洗っといた方が」
「………」
「いやー、いつも以上にお前中で出すとすんごい気持ちよさそうにしてたし、お前抜くなーって必死にしがみついてくるから俺もついチョーシに乗って…、ん? 何回くらい? 思い出せばヤリ過ぎたよな」
確かにそうだけれど。
気持ちよかったし、自分からしがみついてねだったのも…認める。否定はしない。
それに中が気持ち悪いっていうか、いまだに入ってるんじゃないかと思うくらいそこが感覚的に馬鹿になっているし、このまま放って寝たら、あとで体調を崩すのが目に見えているからシャワー浴びてから寝たほうがいいのは分かっているけれど…。
それにしたってこの男のデリカシーのなさといったら…である。
クラウドは我慢できずに力を振り絞って起き上がり怒鳴りつけた。
眉を吊り上げた顔は薄闇の中でも分かるくらい真っ赤に染まっていた。
「! うるさいな! なんだよ俺は寝るって…っ!」
大声を出したせいで腹に力が入った。その拍子に身体の奥にとどまっていた液体がとろりと少しだけ流れ出した。それはじんわりとクラウドの尻を濡らし、シーツの上に滲みこむ。
その何ともいえない感覚に、クラウドは恥ずかしさに動揺して身体を硬くこわばらせた。
タオルケットの下に隠れていて見えないから、黙っていればザックスには分からないはずだが、勘のいい彼はクラウドの様子を見て何かを察したらしい。
固まっているクラウドの背に優しく手を回してこめかみにキスをひとつ送ると、ぽんぽんと宥めるように背中を軽く叩いてからザックスはベッドを降りた。
裸のままドアに向かいながら、笑顔で振り向いて言った。
「待ってな。今熱いタオル持って来てやるから」
クラウドはむくれた表情でその背中を見送った。
じっと寝ていても勝手に身体を誰かに拭いてもらえる、というのは楽だけれどなんだかどこか落ち着かない気分になる。
一方タオルを手に持ち、甲斐甲斐しくクラウドの世話をしていているザックスは調子っぱずれの鼻歌を歌いながら楽しそうだった。
クラウドはザックスの手の行方をぼんやりと目で追いかけた。
肌の上をタオルが撫でていく。じんわりと伝わってくる温かみが気持ちよかった。
足を軽く持ち上げられて脛から足首にタオルが降りていく。足の甲を経て指先に移動した。指一本一本を丁寧に拭われ、その感触がくすぐったくて、クラウドは身体を揺らして指を折り曲げた。
「…っ、」
「こら、動かすなよ」
「そ、そんなに細かいとこまで拭かなくてもいいよ…」
「俺さっきべろべろ舐めたぞ」
確かに最中に指の股まで舐められたが。
「お前足弱いよな。足の裏とかくすぐったい?」
ザックスがからかうように言ってクラウドの足の裏を軽く指でくすぐった。
クラウドは慌ててザックスの手から自分の足を取り返そうとするが、ザックスの手がクラウドの足をしっかりと握っていて叶わなかった。
くすぐったさに背中をひきつらせてクラウドはベッドの上で悶えた。
「や…っっ」
「クラウドは弱点がいっぱいだな。足の裏、指、背中も弱いよな。胸は言うまでもないし、耳の裏とか腰の付け根とか」
「も…っ、ばかザックスはなせ…っ!!」
「いー眺め」
にんまりとザックスは笑った。
最初に拭いた上半身にはタオルケットがかかっていたのだが、クラウドがくすぐったさに暴れたせいでそれが動いてしまい、半ば身体の上からずり落ちてしまっていた。
ザックスの方からは、ばっちりクラウドの裸の股間が丸見えだった。
片足を持ち上げられているために、普段では両足の間に隠されている尻の割れ目の奥まで晒してしまっているだろう。
「…! はなせ、見んな!」
「今更恥ずかしがらなくたって。いやいや、んな暴れると、もっと見えるって」
「ばかばかっ」
「かわいいなークラウド」
ザックスは暴れるクラウドの両足を難なくベッドに押さえ込んでから、ザックスはぐいっとその両足を蛙の足のように折り曲げさせた。
その体勢はいつもザックスと繋がるときの格好をクラウドに連想させた。恥ずかしさに焦る。
「な、ザックス!?」
ベッドに上がったザックスは、クラウドの足の間に身体を乗り出してきた。シーツの上に身体を押し付けられているクラウドの顔を真上から覗き込む。
熱をぶつけ合った後、さっきまで落ち着いて穏やかになっていたザックスの目に、再び熱っぽい色が帯びているのに気づき、クラウドは息を呑んだ。
「…え…、あの、ちょっと何…」
こういう目をしてクラウドを見つめてきたときのザックスが何を自分に求めているのか、イヤというほどクラウドはこれまでの経験上理解していたし学習していた。
だが、である。
今日はもうこれでもかというほど彼のその求めに応じたはずなのだが。
「ま、待ってザックス、さっき散々…っ」
「加減してたって言っただろ」
「ほ、本気で俺を殺す気かっ!」
「ちょっと休んだしだいじょぶだいじょぶ。優しくするし、もう1ラウンド行ってみようか」
恐ろしいことを言われた。
「ザックス、ホント頼むからこれ以上今日は…っ」
上から圧し掛かられて、重い身体に押さえつけられて身動きが取れないクラウドの足の間に不意にザックスが触れてきた。その指先がそろりと迷うことなく熱を孕んだままのクラウドの足の間に入り込み、ひそやかなその場所の淵を撫でた。
「っ!」
クラウドはぎゅっと目を瞑った。感触に、ひくりとそこが反応してしまう。
「お前のここが、俺をまだ欲しいって言って俺を誘ってる」
「…、そんなこと…っ」
硬い指先が、綻んでいるそこに我が物顔で侵入する。
欲しがっている自分のそこが、嬉しそうにきゅうきゅうザックスの指を締め付けるのに、クラウドは自分でも眩暈がした。
人のせいにして口実作って、ただザックスがしたいから適当なこと言ってるだけじゃないかとも思うが、自分ももしかしたらそれを望んでいるのかもしれない。与えられる熱や快感に理性では抗えない。
そしていつも後先考えずに抱き合えてしまうくらいには、クラウドはザックスが好きだった。
「欲しいか、クラウド」
「…あ、や…、そこ…」
クラウドの中の気持ちいい弱い場所を知り尽くしているザックスの指は、わざとその場所を外して中をゆるゆると撫でた。
それがクラウドはもどかしくて、そこを触って欲しくて自分から腰を揺すってしまう。
それを見てザックスは笑った。クラウドは悔しくて恥ずかしくて、じんわりと涙の浮かぶ目でザックスを睨みあげた。それでも腰が動いてしまう。
ザックスの指が一瞬だけだったがその場所をかすめ、クラウドは甘い悲鳴を上げてたまらずザックスの身体にしがみつく。
「ほら、欲しいって言ってみな」
「…んで、意地悪…ぃう…っ」
ザックスの舌がクラウドの眦のたまった涙をすくう。
内部に潜り込む指が二本に増え、入り口を開くように動いた。クラウドにはもう抵抗する気もない。むしろ自分から足を開いてザックスの足に絡めた。
「お前のことマジで壊しそう」
「…わして、い…から…っ、ね、ザッ…っ」
熱を孕むザックスの蒼い瞳を見つめ返す。
頭の中がじんわりと痺れて、ものが考えられなくなっていく。
彼が自分の身体を欲しがっているのならば、与えられるだけ与えたいと無条件に思ってしまう。
求められることが、そして彼の求めるのを自分が与えられることが酷く嬉しかった。
この尽きることなく湧き上がっては胸に溢れる愛しさは、一体どこから生まれるのだろう。
クラウドは必死な思いで、ザックスの下肢に手を伸ばした。彼の下着に手を入れて、自分を欲して熱を持っているそれを夢中で手のひらに握りこむ。
「、クラウド」
「…っふ…、」
熱い。慄くようなそれは、いつもクラウドを翻弄する。
長い睫毛に涙がしずくとなって引っかかっているその大きな目をクラウドは開いて、再度ザックスを見上げると、ザックスはその男らしい顔に困ったような笑みを浮かべていた。けれど蒼い魔晄の眼には確かに隠しようもない情欲の色がともっていた。
「そんなにかわいく誘われると、ヤリ殺さないように気をつけられるか自信なくなる」
それからまた噛み付くようなキスをされて。
嵐のような海に投げ出され、誰もいない二人だけの世界へ再び引っ張り上げられた。
*
「…俺、死んだと思う…」
「生きてるって。ケアルかけたしちょっとはマシになっただろ」
「…だるい…もう動きたくない…」
日が昇り、窓から差し込んだ日の光に寝室の中が明るくなった頃。
クラウドはもう息も絶え絶えな様子でベッドの上でぐったりとしていた。先程の比ではない。なんかもう息をするのも億劫な感じだった。
結局あれから二回クラウドはいかされた。相も変わらず上で精力的に腰を使っている体力馬鹿のザックスに向かって、最後は苦行のようにも感じる甘い仕打ちに泣いて赦しを請うほどだったが、結局ザックスに最後までつき合わされた。
一晩だけで合わせて一体何回いかされたのか、もしくはザックスの精を何回自分の内で受け止めたのか――恐ろしくて数えたくもない。
「…よく分かった。久しぶりって言うのが危険なんだ。小出しがいい。まとめてドバッがいけないんだ」
ぶつぶつと言っているクラウドの身体をザックスは先程と同じように湯で絞った熱いタオルで拭っていた。
第二ラウンドへと繋がる原因となった足の方にタオルが降りていったとき、クラウドはじろりとザックスに視線を向けて釘をさすように言った。
「足の裏はいいよ。あとで自分でシャワー浴びたときに洗うし」
「えー、気持ちいいのに」
「あんたの気持ちいいにほいほい乗ったら、ろくなことにならないってよーく分かった」
「気持ちいいことが嫌いなやつなんていないだろ」
でもクラウドが嫌がることを無理にしようとは思わないのか、ザックスは足の裏には手を添えるだけで、指を上からまとめてすっとタオルで撫でるだけにとどめた。
クラウドはそれでも少しだけくすぐったさを感じたが、足の裏を拭くなとは言ったが指は拭くなと言わなかったのでぐっと我慢して耐えた。
「…前から思ってたんだけど」
ザックスは持ち上げたクラウドの足の裏に顔を近づけて、何やらじいっと見つめている。
「…な、何?」
足の裏に何かついているんだろうか。水虫…にはなっていないと思うのだがと少しクラウドは焦る。
「お前、足、結構でかいよな」
「え…?」
足を掴んでいない方の指で、ザックスがクラウドの足の裏の長さを測る仕草をしている。
「んー、俺とそんなに変わんねえかも」
そんなこと気にしたこともなかった。
ザックスは手を離すと、ベッドの上で姿勢を変え、クラウドの向かい側に尻を落として座ると、クラウド の足の裏に自分の足の裏を合わせた。
ぴたりとふたりの足の裏が重なる。
かかとの位置を合わせると、成程、僅かにザックスのほうの指が上に飛び出してはいたが、二人の足のサイズに驚くほどの差は見られなかった。
クラウドは意外な思いをそのまま口に出していた。
「ホントだ。ザックスの足って俺よりずっと大きいって思ってた。背高いし」
「だよなあ。お前の足、結構どっしりしっかりしてるよな。土踏まずのとことか、すんごい綺麗なラインだし」
足裏をあわせたまま何が楽しいのか、笑いながらザックスは足を揺らした。
「足のでかいヤツは背が伸びるって聞いたことある。お前も俺くらいこれから伸びんのかな」
ザックスと同じくらいに背が伸びたら嬉しいかもしれない。それにともなって、まだまだ貧弱に見えるこの身体に筋肉もついてくれると、なお嬉しいのだがとクラウドは思う。
だが、ある事実を思い出した。
「…でも俺去年からほとんど伸びてない…」
「そうなのか? でもお前まだまだ成長期だし、わかんねえって」
「………」
「背を伸ばしたいときってなんだっけ、アレか、牛乳いっぱい飲むとか? あと寝る子は育つって言うから、よーく寝て――」
「じゃあこれ以上背が伸びなかったら、きっとザックスのせいだね」
「は、何で?」
「今日みたいな日が続いたら俺全然寝れないし。寝ないと伸びないんだったらさ、あんたのせいじゃん」
「えーと…それは…」
「……」
「…で、でも今ぐらいのクラウドの背の高さが俺には丁度いいな。抱き締めたときに腕に馴染む感じとか腰や頭の位置とか」
「……」
「や、伸びるって! お前頑張ってるし、…いや頑張って伸びるもんでもねぇけど…いやいや大丈夫伸びる伸びる。ほら、足でかいんだし、寝なくたって人間伸びるときゃ伸び――」
慌てて言い募るザックスに、ここまで難しい顔をしていたクラウドが急にぷっと吹き出した。こらえきれないというように、笑い出すと止まらない。
「クラウド…?」
クラウドはベッドの上を転がりながら愉快そうに笑っている。彼が大笑いをすることは滅多にないので、ザックスはそれを唖然とした顔で見つめ返してしまった。
「伸びなかったら俺があんたのせいにするって、本気で思ってるの? おっかしい…っ」
つまりはザックスが慌てるのを見込んでの発言だったということか。
「く…、クラウド…」
「背を伸ばしたいからあんたとはもう寝ないって俺が言いだしたら困るって焦った?」
「か、からかったのか…っ!」
「いつもやられてばっかりなんだから、たまには意趣返ししたっていいだろ」
「お前は…!」
ザックスは笑い続ける年下の恋人に向けて飛び込み、その身体に抱きついた。
「言っとくけどな、俺は何言われたってお前を逃がすつもりはないし、遠慮するつもりもないからな! 覚えとけ!」
無論、クラウドにとってそれは願ってもないことだったので、抱きついてきたザックスの身体に腕を回し、彼をしかと受け止めたのだった。
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